第三話 金の少年
「レーテーさん、ここから出る方法があるのですが、僕一人では出来ないので協力してもらえますか?」
壁の向こうのカガチが聞く。
「うん! どうすればいいの?」
「ありがとうございます。それでは、下に小さな穴があるのがわかりますか?」
足元を見ると、ちょうど手が入りそうな大きさの穴がある。
「あったよ!」
「それではそこの穴に鍵を入れます。手は入りますか?」
鍵。カガチは鍵を手に入れていたのか。カガチはすごいや。
「入るよ!」
わたしは穴に手を通す。
「見えました。それではちょっと待っていてください……」
少し待つと、手のひらに鍵が落ちて来た。穴から手を引き抜くと、金色のピカピカした鍵が握られていた。手で握っていたのか少し暖かい。
「これであければいいのね」
「レーテーさんの扉を開けたら、次は僕の扉をお願いします」
「うん」
「見張りはいないはずですが、早くお願いします」
わたしは檻の隙間に手を入れ、金色の鍵を扉の鍵穴に刺す。
あれ? この鍵でカガチの扉も開くなら、カガチだけで開けられたよね? そう思いながら、わたしは鍵を開ける。
重い扉を渾身の力を込めて開ける。開けるときに大きな音が鳴ったが、誰か来る様子は無い。それどころかどんどん上が騒がしくなっている。
檻の外に出ると、カガチの鍵も開けにとなりの檻に向かう。そういえばカガチはいったいどこで鍵を手に入れたのかな?
「今カガチのところも開けるね」
同じ鍵で開くのか心配だったけれども、難なく扉は開いた。
「あけたよ?」
カガチが一向に出てくる様子が無いので、牢屋の中に入ってみる。薄暗い牢屋の中を覗き込むと、奥に男の子がしゃがんでいるのがわかる。
「出ないの?」
そう言うとゆっくりとカガチは立ち上がった。
「やっと出れるな」
カガチは小さな声でつぶやく。
ボロボロの服を着たカガチは少し臭う。
「すみませんね、汚くて」
そう言ってゆっくりと牢屋から出ようとする。長い間歩いていなかったのか、数歩歩いたところで少しよろける。
わたしは転びそうになったカガチを支える。
「大丈夫?」
そう言いながら、カガチの身体に触れる。その身体は不自然に細かった。痩せているのかなと思ったけれど違った。その身体には両手が無かったのだ。
「何度もすみません。訳あって両手が無くて」
そう言いながら肘先で丸まった両手を見せる。
そう微かにほほ笑むその顔には黄金の眼が、一つだけ。
「ひっ」
「怖がらせてすみません。
カガチはくすりと笑って言った。
「改めて、僕は
その時、建物が大きく揺れ動いた。
レーテーが脱出する少し前、ゲルグは戦闘を続けていた。
「こいつ! 強え!」
そう叫んだ男を回し蹴りで仕留める。
「このっ!」
すかさず背後から別の男が襲いかかる。俺は軸足を踏み込み、隙だらけの腹部に拳を叩きこむ。男は吹っ飛ぶ。
「……どうした。誰も生きて返さないんじゃないのか?」
戦い好きの血が騒ぎつい挑発する。
のこる男がどうしたものかと悩んでいると、男の背後から新たな男が現れる。
「どうしたどうした。まだ手こずってるのかぁ?」
その場にいた全員の注目が男に集まる。
「レリギオさん! このおっさん、メッチャ強いんです!」
「強いぃ? ヴェローチェの野郎はどうした。奴も弱くは無いだろぉ」
レリギオと呼ばれた男はだるそうに返す。
「それが一瞬で倒されちゃって……」
「ほぉ」
それを聞いた途端、男の目つきが変わる。
「
俺はそこらで伸びている連中を目配せする。
「やだねぇ。俺ちゃん兵士大っ嫌いだし」
レリギオは、胸のペンダントをいじりながら狂気的に笑う。
「そうか、ならもっと嫌いにしてやる」
俺はレリギオに向かって踏み込む。俺とレリギオの距離はおよそ五メートル。レリギオは剣も槍も持っておらず素手だ。隠していたとしてもナイフか何かだろう。この距離なら奴は何もできない。一瞬で終わる。はずだった。
あと一歩で拳が届く、その時、レリギオが何か札のようなものを俺の足元に投げた。
その札を踏んだ直後、踏んだ足が地面に張り付いて全く動かなくなった。どれだけ力を込めても、足の裏が床と同化しているかのように動かない。
「どうしたぁ、さっきまでの勢いはどうした?」
レリギオは拳が届かないすれすれの所でニタニタと笑う。
まさか魔法……!
そう考えた直後、レリギオの拳が襲い掛かる。
「くっ……!」
レリギオの拳を捌く。拳の威力は大したことないが、ナイフを出したらそうもいかない。
この状況を打開するため、レリギオの魔法を分析する。
そもそも、魔法の発動には魔力を込めた触媒が必要だ。先ほど俺が踏んだ紙がそうだろう。
そしてその効果。踏んだ足が全く動かせない事から、「物体を固定する魔法」または「物体を繋げる魔法」可能性は低いが「ものを凍らせる魔法」だろうか。
「物体を固定する魔法」ならば足が全く動かなくなってもおかしくない。事実、足の指は動く。
となると「物体を繋げる魔法」だろうか。それならば足が床に張り付いていて、指は動くことの説明がつく。床と靴が繋がっていることが魔法の硬貨ではないか。
そうなればやることは一つ。
「どうしたぁ、何も出来なくて悔しいかぁ」
レリギオはナイフを抜く。
「……」
俺はおもむろに背負った大剣を抜く。
「なんだぁ、その馬鹿みたいな剣。そんな剣で戦えるなんてボケちまったんじゃないかぁ?」
レリギオが嘲るのをよそに、俺は大剣を足元に叩きつける。
どーんと大きな音が鳴った直後、床に蜘蛛の巣状の亀裂ができる。
「……は?」
レリギオが啞然としたのも束の間、俺は張り付いた足を思いっきり振り上げた。すると、あれだけ力を入れても動かなかった足が靴の裏に床板を張り付けたまま床から離れた。
「嘘だろ……、この馬鹿力が!」
レリギオが身を引く。それとともに今まで突っ立っていた部下たちが一斉に襲いかかる。
「こっこのジジイが!」
「大将! 今のうちに!」
だが所詮は有象無象の集まり、素早い打撃で沈める。
「もう一度言う。
だがレリギオはペンダントを握りしめて何やらぶつぶつ言っていた。
「何だよ……、神様助けてくれよぉ……」
「お前……」
拳を握る力を弱めようとした時、レリギオはかっと目を見開いた。
「邪魔な奴は殺せばいいもんなぁ!」
レリギオは素早く距離を取ると、数枚の魔紙を投擲する。そのうちの一枚が足の裏に張り付く。
だが対処法を知った俺に、その魔法は無力だ。力任せに大剣を叩きつけ、拘束を脱する。
「死ね! 死ね!」
再び魔紙を投げつける。今度は大剣に魔紙が張り付き、剣が壁と張り付く。
「ちっ!」
次足に張り付いたらどうしたものか、そう考えた矢先、天井に大きなヒビが入った。
何度も大剣で床を叩きつけた為、建物が崩壊を始めたようだ。廃墟をアジトにしていたつけが回ったようだ。
「勝ったぁ!」
そうレリギオが叫んだ矢先、レリギオの真上の天井が落ちて来た。
「……は?」
直後、凄まじい轟音と共に土煙が辺りを覆い隠した。
「くっ……」
煙が晴れると、辺りはがれきの山だった。近くには誰も見えない。
ずっと握っていた剣は張り付きが解除され、自由の身だった。
「レーテー!」
建物が崩れたらレーテーもただでは済まないだろう。探しに行こうとした矢先、がれきの下から呻き声がした。
「うっ……」
「レーテーか⁉」
声のもとに近寄ると、それはレーテーではなかった。
「うぅ……うう……」
それは、下半身をがれきに押しつぶされたレリギオの姿だった。いや、押しつぶされているわけでは無い。腰の辺りで身体が切断されていたのだ。レリギオの周りを血が海を作っていく。
「あんたぁ……助けてくれよぉ……」
レリギオは目に涙を浮かべて助けを乞う。だがその傷では助からないだろう。
「……」
「助けてくれないのかぁ、神様酷いよぉ」
レリギオは汚れたペンダントを握ると、一言。
「じゃあ殺す」
次の瞬間、レリギオの周りに大きな穴が開き、レリギオが吸い込まれる。
「なっ!」
レリギオが穴に消えて数秒後、何やら地面の下からやって来る気配を感じ、穴から距離を取る。
距離を取った直後、地面が盛り上がり、地面から巨人が現れた。
現れたのは五メートルほどの巨人で、首から上が無い。代わりにレリギオの腰から上が収まっていた。
そして巨人の胸には四肢を巨人の身体に取り込まれた若い女性がいた。その周りには誰かの生首や手足が生えていた。
「神様ぁ、嫌な奴は殺すに限るよなぁ」
レリギオは頬を赤らめ夢心地で言う。
「お前……!」
老兵は剣を握る。
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