【短編】つないだ手

お茶の間ぽんこ

つないだ手

「はなしてっ! は、な、し、てっ!」


 航太がつないだ手を離せと駄々をこねる。だが、離すわけにはいかない。


 去年の今頃は手を離すと怖がって泣き出したくせに。


 淀みのない爽やかな青空、鼻歌を歌いたくなるほど天気が良い日に走り回りたくなる気持ちは分からないでもない。


 だけど、ショッピングモールに向かう道中は横断歩道が多くて、航太が勝手に車道へ飛び出してしまわないかが不安でいっぱいだ。


「ほら、あの子はお母さんと手をつないでないよ。僕も良いでしょ?」


 航太は正面から歩いてくる母と子に指をさした。子が歩道の白線からはみ出さないように綱渡りしている。


「航太はすぐ私の目が届かないところに行っちゃうでしょ」


 そう言ってつないだ手を強く握り返した。


 航太は好奇心が旺盛な子だ。そのように育ってくれて親としては嬉しい限りだが、その分だけ世話がかかる。


 同じように子を持つ母親はどのようにしつけをしているのだろうか。


 私は過保護な親に当てはまってしまうのだろうか。


 私も航太みたいにお転婆だった頃があった。母の目を盗んでショッピングモールを探検しては、迷子になって大泣きしたものだ。


 一度、母とつないだ手をほどいて横断歩道に飛び出したことがある。その日も今日みたいな気持ちいい青空の下だった。


 そのとき、信号は赤に点灯していて、飛び出した私に目がけて車がつっこんできた。


 急な出来事に思考が停止したけど、母は身動きできない私の手を引っ張りあげてくれて難を逃れた。


 そして呆然とした私の頬をピシャリとはたき、ギュッと抱きしめて「もう手を離しちゃいけないよ」と優しく言った。私は今起きたことを理解し、母の胸でワンワンと泣いた。子どもの私は未熟で、か弱い存在なんだと思った。


 そんなこともあって、私は人一倍に過保護なのだろう。


 航太が少しでも離れると途端に不安になってしまう。


 この子はまだ幼いし、私が守ってあげなければいけない。


 いずれ、私よりも背丈が大きくなって、独り立ちするまでは。





 あのときと同じ爽やかな青空。


 見上げると空と一緒に大きくなった航太の顔がうかがえる。


 今では、私が航太に手を引かれて歩いています。


「かあさん。そっち段差があるから気を付けて。手をはさないでね」

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