婚活のススメその③、相手の探し方を学ぶ
「さ、まずどうやって探すのかというのを教えてあげよう。まぁこれに関してはとても簡単で、色んな相手と話してみることだよ」
「話す?」
「そう、話すんだ。結婚したいという目的についてじゃなくて、好きな食べ物は何かとか趣味は何であるのかとか本当に他愛もない話をするんだ」
「………それは何故だ?」
「ディーの求める相手を見つけやすいから」
???
「……分かってなさそうだね?」
「…………すまん」
「いいよ、説明してあげる」
「まず、前提として女性は結婚とかが目的で近づいてくる人間を基本的に信用しない。受け入れてくれるのは一部の特例を除けば相手が誰でもよかったり、結婚適齢期を過ぎてすぐにでも結婚できる相手を探していたりする人ぐらいなんだよ」
「ふむ」
「だからといってあなたが好みですなので話し合いませんか、みたいなことをすると衛兵とか警備員とかを呼ばれるからね。そういう話をしたかったら知り合って仲良くなってお互いにお互いの事情を曝け出せるような関係になってからなんだよ、あの時と違ってね」
「…なるほど、だから話すのか」
「うん、そういうこと。昔みたいに戦いの中で分かりあうなんていうのが古いとは言わないけど、でもディーの求める人を考えるとそうじゃない方が良いかなって思うからね」
「………なるほど」
「(…まぁ、実際のところは戦いから切り離さないとディーは向けられた好意を恋慕の物として認識出来ない気がするからなんだけどね)」
「(…あれだけ好いている、お前の妻になりたいというのが側から見ていても分かるような様子だったというのに...ディレウスは戦友やら恩人やらに向ける好意だと認識していたからな)」
「(…間違ってはいない間違ってはいないんだけどね。それが全部ってわけじゃないしなんならそれよりも恋慕とか愛慕とかの方が多いんだけど、それを一切認識していないし考えようともしてなかったし出来なかったからね)」
「(…確かに。まぁ、そもそも恋慕の情を抱いている愛慕の情を抱いているというのを正面から叩きつけなかった彼奴等も悪いと言えば悪いんだがな)」
………ふむ、確かに俺が今求めているのは戦場で背中を預けられたり横に並んで戦うことが出来るような相手ではない。そうなると日常的な会話から交流を深めて俺と感覚的に合う相手を探していくのが定石か...そもそも結婚したいのならば金を稼いで金をチラつかせれば簡単に出来ると金持った冒険者の友人が言っていたな。その後、値段が付く物と金を全て持っていかれて何処かに逃げられたというオチなんだが。
そういう女を避けつつ相手を探すとなれば実際話してみることが一番の近道にはなるか、面と合わせて直接話せば相手が嘘を吐いているのかとか誤魔化しているのかとかそういった事は分かるしな。あとはどんな会話をすべき...飲み物が切れたな、追加を持ってくるか。
「……飲み物の追加を持って来よう」
「うん? あぁ、本当だね。ありがとう」
「俺が行こうか? 一番飲んでいるし」
「いや、流石に客人を動かす気は無いぞ。同じものでいいよな? まだまだ在庫は大量にあるからな」
「いいよ」
「構わんぞ」
「よし。それじゃあ持って戻ってきて一息ついたら、どんな感じの会話をするべきなのかを教えてくれ」
「いいよ、じゃあ考えておくね」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……ふぅ、それじゃあ始めよっか」
「……あぁ」
「うん、じゃあまず最初に名乗らない事」
「………名乗らない?」
「そう、名乗らないこと。ディーの名前を知っている人が多いだろうから騒ぎになるっていうのもあるけど...ほら、いきなり初対面で名乗られても驚くでしょ?」
「……ふむ、確かにな。なら最初はどうするんだ?」
「場所によるかな?」
「場所?」
「そう、場所。例えば街を移動する道中で出会った時は挨拶から入って何処に向かうのかとか何をしに行くのかとかから話し始めればいい。でも奴隷商で話す時はそんな会話をしてもどうしようもないでしょ? だから奴隷商で話す時は何処の出身なのかとかやりたいことはあるのかとかそんな感じで話していけばいい。こういう感じで場所によっては最初の掴みとしては適当に他愛もない話を投げかけることで相手と会話をしたいっていうのを伝えればいい。それから相手が名前を聞いて来たり、こっちが誰なのかっていうのを訝しんできたら名乗ればいい」
「………なるほど...他の場所ではどうなんだ?」
「他の場所ね、そうだなぁ...異種族の場合は相手がどんな種族なのかとか趣味はあるのかとか故郷の話とかをすればいいと思うよ。貴族の末女とかだと相手の家柄とか容姿に関する話とかを避ければ多分掴みとしては良い感じだと思うよ。娼館と修道院に関してはそこまで行ったことがないし交流もないから分かんない、ごめんね」
「いや、大丈夫だ。十分参考になっている」
「そう? なら、良かった」
………やはり、相談しておいて正解だったな...していなければ最初から結婚相手を探していると話し掛けに行っていただろうし、そうでなくとも名乗りから会話に入って相手を探そうと躍起になっていたかもしれん。奴隷商、移動中、異種族の会話お入りは聞いたものでいいとして...修道院は普段どんなことをしているのかとか、好きな本とか物語とかを聞いてみる所から入ればいいだろう。娼館に関しては、まぁ行為をする前の会話とかした後の会話とかで仲を深めつつ娼館以外で娼婦としてではなく一人のただの女性として出会えるように約束出来るようにしておけばいいだろう。確か娼館のオーナーがそんなことを言っていたような記憶がある、正確には口説くのが行為の一環としてじゃないのなら外で会う約束をして外で口説けだったか、実際にそれをして口説き切れたという奴を見たことがないが...会話の進め方の参考にしておくには十二分だろう。
「よし、ならその次はどうすればいい?」
「その次? その次は仲を深めていくんだけど、これに関しては気長にやっていく方が良いよ」
「そうなのか?」
「そうだよ。だってほら、二回目三回目の出会いでいきなり抱えている事情を聞こうとしたりだとか結婚しようだとか言われても困るでしょ普通は」
「………確かに、そうだな。ならどうすればいいんだ?」
「一番いいのは相手から話してくれるのを待つ事なんだよね。毎日挨拶を交わし続けたり、その日あったことを話し合ったりみたいな感じでちょっとずつ近づいていく感じにした方が良いんだよね」
「………なるほど」
……長丁場になるとは思っていたが、思っていた以上に長い道のりかもしれないな。もしかしたらこの家をこのまま放置し続けて相手を探すことになるかもしれんし、なんならもう戻ってこれない可能性まであるのか。今更止めると言うつもりは無いが、始める前にこの家の物を一通り整理して不要だったりする物は処分してしまった方が良いな。あと食料品とかも何処か孤児院とかその辺りに保存庫とあと取り出し方の説明と一緒に渡してしまった方が良いな。必要最低限は流石に少なすぎるだろうし、向こう五人分で二十数年分ぐらいは色々な可能性を考慮して持っていくか。あとは...森の主にも森から出るというのと盲も戻ってこないかもしれないという話を通しておいて、郵便屋にもこの家から出てしばらく戻らない予定であるというのを伝えてしばらく手紙と記事を届ける必要はないというのを言っておかなければな。
…………先のことを考えすぎだな。本格的に動き始めるのは半年後にしておいて、その間に家のことやら周囲の奴やらの伝達をしていくか。それに...いやこのことについて考えるのは止めておこう。あくまで最悪の想定に過ぎないしな。
「あとは、手っ取り早く仲を深める手段があるっていうのをどこかで聞いたことがあるよ」
「………どんな手段だ?」
「えーっと、確か女性と仲良くなるための男の言動とかいう本だったかな? その本に女性と仲良くなりやすい男の言動とかがまとめて載っているらしいよ、僕は興味がないから調べてないけど。ノーダックは?」
「俺は聞いたことも無いな」
「………俺は、聞いたことがあるな」
「……そうなの?」
「男娼上がりの友人が書いた本だ。中身に関しては軽く聞いたことがあるが、簡単にまとめてしまえば女性を引っ掛けて一夜の関係になるための手段だ」
「………そうなの?」
「あぁ、そうらしい。本人としては男娼向けで客引きのための手段になると良いぐらいに考えて出したらしいが、男娼以上に未婚の男に受けて売れて有名になってしまったと嘆いていた筈だ」
「……そうだったのか」
もっとも、当人は釣りとか詐欺みたいな物だとも言っていたがな。感じてもない好意を思ってもない感情と一緒に吐きならべて、それに引っかかった獲物を相手に押して引いてを繰り返して捕まえる...だったか。手口を見破られたら終わりだし、見破られなくても怪しまれたりしたら終わり、こういう奴だって広まったらどうしようもなくなるなんていうスリルが楽しいだったっけか。まぁ最終的にアマゾネスを引っかけに行って抱き潰されて身請けされてそのまま山奥に連れていかれたみたいだけどな。ただ、好意の見せ方とか言葉の伝え方とかは参考に出来るかもしれないな。
「ごめんよ、忘れてくれ」
「ん? あぁ、いや大丈夫だ。確かに俺の求める内容ではなかった記憶があるが、それでも知り合って間もない女性を相手に言葉をどうやって伝えるのかという物の参考に出来るかもしれん。折角思い出せたんだから、確かサンプルとして貰っていたはずの物を倉庫で探して後で読んでみることにする」
「そう? なら良かった」
「あとは...あぁ、あれだね。見た目はある程度整えておかないといけないね」
「やはりそうか、どうすればいい?」
「取り敢えず服の手配は僕がするよ、凝り固まった奴じゃなくて普通の一般市民らしくてそれでいてしっかりとした服を手配するよ。髪の方は、ノーダック君の知り合いに確か理髪師がいたよね? お願いできる」
「任せてもらおう」
「じゃあ、このくらいかな? あぁ、そうだ。一応傷跡とかは目立たないようにしておいた方が良いよ、女性受けはあんまり良くないらしいから」
「………なるほど...改めて、色々世話になる」
「いいよ、気にしないで」
「あぁ。気にする事ではないな!!」
また今度、何か事前に用意した物とは違う礼をしなければな。あまり洒落た物は用意出来そうにないし、価値のある物を用意出来そうもないが...龍の素材でも持っていけば何かしらの足しにはなるだろう。この後狩りに行って来るか、森の中に岩龍種が居座っていた筈だしな。
「さてと、こんな感じかな? あとは何回か実践を繰り返して、それから実際に行動に移すっていうのが一番だと思うんだよね」
「……それは良いんだが、誰で試すんだ?」
「んー反応とかからステラとキリエ、って言いたいところだけど僕はまだ命が惜しいからこの二人を呼ぶ気は無いよ安心して」
「……俺は別に呼んでも良いが、試していると知られたら死ぬぞ」
「知ってる(多分ディーは監禁ぐらいで済むとは思うけどね)」
「だから、あんまり気乗りはしないよ? しないけど、リリアにでも頼もうかなって思ってるよ。何でか僕以上にディーに懐いてるし、護衛を雇ってでもディーに会いに来ようとしてたしね」
「……そうか」
「そうなれば、俺の方からも何人か声を掛けよう。半分飢えたアマゾネスみたいな連中だが、なんだかんだそういうのを相手して感想を叩きつけるのを得意としている連中を知っているからな」
「………
「うむ」
「それじゃあ、今日はこんなところかな?」
「……そう、だな」
「うむ、そのようだな」
「だったら、一旦帰るね。服屋に声を掛けておかないといけないし、クラリスにもこういう内容だったよっていうのを伝えないといけないからね...あ、言っても良かった? 言うつもりしてるんだけど」
「問題ないぞ? レミィも知っているしな」
「そう? じゃあ大丈夫かな(……別の意味で大丈夫じゃない気もするけど)」
「うむ。では俺も色々と声を掛けねばならぬし、あと別途依頼があるのでな。その話し合いにもいかねばならんので帰るとしよう(……死んでいないし襲われてもいないから大丈夫だとは思うぞ)」
「そうなのか? 態々俺のことを優先する必要はないぞ?」
「問題ない、時間設定ぐらいならばしてあるからな」
「そうか...じゃあ、一旦さよならだな。見送ろう」
「うん。また一週間か二週間くらい後に来るよ」
「では俺もそのくらいに協力者を連れて出向くとしよう」
そう話してハルジオとノーダックの二人を玄関まで見送り、外に出て森から出ていくのを眺め終えてから家の中に戻っていく。机の上には三人分のコップに飲み干した果実水が入っていた五本の空いた容器、それからノーダックがまとめてくれた俺の好みとか探す場所とか探し方話し方とかが書かれた紙が置いてある。
取り敢えず空いた容器を一纏めにしてから丸めて潰してゴミ箱の中に放り込み、コップは洗い場の方に運んで行って中に水を入れて置いておく。この後夕食を作って食べることになってそうなると洗い物が出るので、その時に纏めて洗ってしまえるように水を入れて放置しておく。色々と考えると先に洗ってしまった方が良いのだろうが、どうせ洗い終わったら魔法でもう一度綺麗にすることになるから気にしない。
それからもう一度机の元まで戻り、ノーダックがまとめてくれた紙に改めて目を通していく。一番上には俺の名前と「婚活メモ纏め」と書かれている...ん?
「ふーん、婚活するんだぁ?」
「…………何故此処に?」
「あら、酷いわね。折角久しぶりに近くに来たから顔を見せて上げようと思ってきたのに。あ、もしかしてまだいない結婚相手に遠慮でもしてるの?」
「………ステラ」
「はぁい? もういいわねこれ。さ、座って話をしないかしら? じゃないと倉庫の中にあるあの赤い液体が滴ってる布の塊についての話を憶測とか諸々交えながら真実化のように皆に話すわよ」
「………あぁ」
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