第1章:そして物語は動き出す
信じることのできない能力
僕はここからどこにいけばいいのかは分からなかったが、何故か気になる方向があり、自然と足も向いたのだ。
そしてたどり着いた先になったのは広場のようなものだった。かつて広場だったものだろうか。噴水の跡のようなものが残っている。
そこで僕は一つ気になった物があった。この廃墟の街の中にあるにしては明らかに不自然な綺麗なトランプがあったのだ。
そのトランプはクローバーの2であり、そのトランプにはこう書いてあった。
【あなたは100万人の中から選ばれた52人に入りました
あなたには能力を一つ授けます
あなたの能力は〔テレポート〕です】
書いてある意味がわからなかった。いや正確に言うとこの言葉を受け止めることができなかったのだ。
このカードに書いてあることが本当だとすると100万人の中から52人に何かしらの特殊能力が与えられたという事だろう。そして最悪の場合はその52人以外の生存者は1人もいないということになる。
その52人に入らなかった人間の中に僕と同じように通学途中だった友だちが1人でもいる可能性がかなり高いということだ。
しかし人間がそんな能力を使えるはずもないのだ。誰かが持っていたトランプでイタズラをしたのだろう。(そうだとしても相当タチが悪いのだが)
絶対そんなことはないだろうと考えながら2メートルほど離れた場所を見、冗談半分で「テレポート」と唱えてみた。
その瞬間、身体中が変な感覚(不快感だろうか)におそわれ、先程まで僕が見ていた場所にいたのだ。
まさか!人間にそんなことができるはずがないのに!
きっと自分でも無意識に歩いてしまったのだろう、と思いつつも本当にテレポートしたのではないかという不安も出てきた。
なぜなら歩いたとしたら少しは足跡がつくはずなのに足跡が全くついていないのだ…
きっと出来ないだろうがもう一度試してみよう。本当にテレポートする力があるかもしれないと思い始めてしまったのだ。
今度は自分が立っている場所に目印としてバッグを置き、目標地点もしっかりと決めた。おそらく電柱だったであろう棒の下だ。ざっと5メートルはあるだろう。これで簡単に歩いていく事が出来ないはずだ。
そして僕は電柱にテレポートすると念じながら「テレポート」と唱えた。
先ほどより強い不快感に襲われた後に周りを見ると、目の前に電柱があった。どうやら本当にテレポートしているようだ。信じられない、人間がテレポートする事が出来るなんて。
しかしこの意味のわからない状況を作った犯人、そしておそらく共犯者がいることはおそらく確実だろう。もしかしたら僕の友だちを殺したかもしれない奴ら、僕はそいつらを絶対に許さない。
自分に与えられた能力がわかるトランプは一応持っておくことにした。何か手がかりがあるかもしれないからだ。
早く生き残っている人、そして食べ物、飲み物を探さないといけない。僕は焦る気持ちを抑えつつ禍々しい空を見上げた。
犯人たちが見ている可能性がある空を。
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