第18話 千幸子のご注文の品

 「あ、はい」

 千幸子ちさこが自然に横に顔を上げる。

 「ご注文の品、お持ちしました」

 「あ、ありがとうございます」

 千幸子がありがとうと言うということは、千幸子が注文したのだろう。

 店員さんは、テーブルの端にトレイを載せる。

 トレイの上には、小さい包みと、それとは比較にならないくらい、比較するとしたら「十倍以上」という比較にしかならないくらいの大きな包みが置かれていた。

 「こちらが」

と店員さんが小さいほうの包みを取り上げた。横長の直方体のケースを、黄色い布で包んである。

 「こちらですね?」

 店員さんは、その包みを、とん、とあいの前に置く。

 「え?」

 そんなものを頼んだ覚えはない。

 でも、千幸子が、不器用に片目を閉じてこっちを見たので、黙っている。

 「それで、お客さまが」

と店員さんはいい、大きいほうの包みを持ち上げている。

 重そうだ。

 千幸子は、自分の前のポットやティーカップを横に動かして、場所を作っている。

 店員さんは、その場所にその重そうな箱を下ろした。

 「こちらですね?」

 「うん、ありがとう」

 店員さんは千幸子の知り合いらしい。千幸子が小さく手を振ると、店員さんも同じように手を振り、それから

「ありがとうございました」

と声をかけた。

 それから「お冷やをおぎします」と言って戻って来て、千幸子と愛のコップに水を注いでくれた。

 「あの」

 店員さんが去ってから、愛は顔を上げた。

 直截ちょくせつにきく。

 「何、これ?」

 「ま、開けてみな、って」

 「いいの?」

 「うん」

 開けてみな、と言っている当人に、「いいの?」ときいたって、それはそれ以外の返事はないだろうと思う。

 黄色い布を縛ってあった紺色のリボンを解く。

 中からひんやりした空気を感じる。透明なプラスチックのケースだ。

 その中には、二つ、小さなコップのような容器に入ったプリンが入っていた。

 「プリン?」

 愛はぼうっとして顔を上げる。

 この子、いつの間に……?

 だれかの、もしかするとあのゆうの差し金?

 それともただの偶然?

 「いや、さあ」

 千幸子はまた目が見えなくなるくらいに目を細めて笑った。

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