大好きなプリンを手に入れるには

清瀬 六朗

第1話 五月の雨

 ショッピングモールから出たら、外は雨だった。

 やっぱり置き傘を持って来るべきだった。でも、現実には持っていないのだから、いまさらそう思ってみてもしかたがない。

 雨は激しくはないが、雨粒は途切れることなく落ちてくる。

 ちょっと外に出ただけで肩が濡れる。

 ここから箕部みのべ駅の入り口まで、ペデストリアンデッキを斜めに突っ切っればすぐだ。いずみはらの駅を下りてからも、寮まで走れば五分はかからない。

 だから傘はなくてもなんとかなる。

 「なんとかなる、よね」

 つぶやく。

 でも、なんとかなる、と、なんとかする、とは違う。

 なんとかなる、と、何とかする気になる、も違う。

 駅まで雨に濡れながら走る気力はなかった。だからといって、わざわざ傘を買うためにショッピングモールに戻る気もない。

 ショッピングモールの角、ショーウィンドウの上にかかった雨除けの下に入って雨宿りする。

 雨宿りしていれば、そのうち、やっぱり帰らなきゃ、という気にもなるだろう。

 早く帰ったほうがいいのは、頭ではわかっている。

 空を覆っている暗い雲は「十種雲形」のうち「乱層らんそううん」というものだろう。この雲から雨が降りだしたらなかなか止まない。

 たぶん、待てば待つほど、雨脚あまあしは強くなる。

 でも、と、自分の考えがループしそうになって、あいはため息をつく。

 すうっ、と、頭の上に傘が現れたとき、それはたまたま通りがかりの人が道の脇に寄ったからだ、としか思わなかった。

 ここはショッピングモールの角なのだから、道のまんなかのほうが混むと通行人はこの角のほうに寄ってくる。傘をさしてだれかとすれ違うために、この道の脇に寄ったのかも知れない。

 でも、愛の頭の上の傘はいつまでもどこにも行かない。

 もしかすると、この傘の持ち主はここで待ち合わせなのだろうか。

 だったら、場所を空けて、隣のショーウィンドウの覆いの下に移ろう、と、顔を上げて、その傘の持ち主のほうを見た。

 傘の持ち主は、愛を見て親しげに笑いかけている。

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