お風呂

天川裕司

お風呂

タイトル:お風呂


私がお風呂に入っていた時。

何か人の気配を背後に感じた。


「…なにこれ、やばい…?」


その時の私にしかわからない感覚。

していると案の定…


「ねぇ…ねぇ…」


と小さく響く声で、女の声が聞こえた。


「絶対振り返っちゃダメ…こんなのと目があったら何されるかわかったもんじゃない…」


何とか冷静を保とうとし、私は鼻歌を歌い続けた。


「ふんふーん♪ナマステ〜ナマステ〜♪」


していても、


「ねぇ…ねぇ…」


と歌のちょっとした隙間から声が聞こえ、

私の気をなんとかそちらへ引こうとしてくる。


「くそっ…」とか思いながらもずっと髪を洗いつつ、

とにかく後ろは見ない。

見たら何されるかわかったもんじゃない。


「ふんふーん♪ナマステ〜ナマステ〜♫」


「ねぇ…ねぇ…」


「ふんふーん♪ナマステ〜ナマステ〜♫限りなく〜♪」


していると、その声の言葉が変わってきた。


「…ねぇ、洗ったげようか?髪洗ったげようか?」


「ふんふーん♪ナマステ〜ナマステ〜♫」


私はずっと無視して髪を洗い続ける。


「ねぇ…ねぇ…まだ洗えてないところあるよ?まだ洗えてないところあるよ?よし決めた。私、洗ってあげる」


その瞬間、ズシンと頭に何か乗った気がした。

そこまでくると、ずっと目をつむって洗い続けるわけにもいかず、

私はつい薄目を開けて、目の前の鏡を見てしまった。


いつものように髪を洗っている私。

その髪の上にはシャンプーとリンスの泡が乗っていて、

その泡の上にもう1本、白い手が乗っていた。


それから私は何かに誘導されるように

髪を洗い続ける。他の動作ができない。


ワシャワシャワシャ…とゆっくりだが

その手は私の髪をつかむように動いて、

どうやら洗ってるつもりらしい。


そしてやっとその手が髪の毛から離れ、

ぱっぱっと小さく泡を落としたあとで、


「はい、洗ってあげた。また時々洗ってあげるね。バイバーイ」


と言って気配は消えた。


実はこれ、私がまだ高校生だった時の話。

それ以来、現れるとか言ってずっと現れてくれないこの人。

別にどっちでもよかったけど、

あれは一体なんだったんだろ?

なんて時々思い出しちゃう。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=N44-rvDMXLw

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お風呂 天川裕司 @tenkawayuji

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