~坩堝~(『夢時代』より)
天川裕司
~坩堝~(『夢時代』より)
~坩堝~
どれだけ走り廻ったか分らない記憶の内に俺の〝獣〟はぽんと浮き出て未熟に講じ、以前に憶えた袋小路の土壺(どつぼ)の奥へと裟屈(しゃが)み込むまま黙って入(い)った。記憶の〝白紙〟がぽつんと浮くのは人間(ひと)に生れてこれまで信じた価値に源(もと)など散らばり、そうした小片(はへん)を拾い切れずに集め切れずに、闇雲紛いに自分と人間(ひと)とを乖離させ得た遊泳(あそび)の間(あいだ)に契機(きっかけ)が在り、如何(どう)して自分の身元を明かせば好いか、唯々そうした娯楽の初歩(いろは)に呆けて在るまま俺の人体(からだ)が宙(そら)へと逃げ活きそっと撓(しな)んで固まる為だ。
俺はこれまで職場に幾多に分れた〝分子〟を観て来て、そうした亀裂を癒せる程度に〝分母〟の姿勢(すがた)を観た記憶の無い儘、職場を離れた五年が過ぎても、矢鱈滅法〝宙〟を覆った虚空だけ見て母体と成り得る光の解(かい)など知り得て居ない。こうした〝問い〟など世間に於いては誰にも訊けずに〝透明・硝子〟に久しく透ったのろまな〝言葉〟を唾棄する仕種に一端を観て、後(あと)はそのまま〝のろま〟な体(てい)して悠々自適に富んで行くのが〝これまで憶えた自然に懐く…〟と疑い無い儘「魅惑」に捕われ、自分に懐いた〝未開の白紙〟を手に取り、誰にも知られぬ〝暇な言葉〟は俺が手にした空想(おもい)の内にて富ませば好いなど勝手に知り得て自然へ向かい、水の体(てい)した自然の在り処が無動に在るのに若干疑い気を好くした儘、自由自在に俺の人生(いのち)を俺の煩悩(なやみ)が勝ち取り生(ゆ)くのだ。それに従い人生(いのち)を削って話せる相手は誰にも居らずに、そうした経過(じかん)を延ばした為にか居ても失(な)くても何にも感じず電車通りの壇から降(お)り行く〝並木の人間(ひと)〟など面白可笑しく覗いて黙り、黙り続けた俺の両脚(あし)には共力(ちから)が灯らず橋から落ち得て、目抜き通りを逆行して生(ゆ)く強い孤独が人間(ひと)の頭上(うえ)から昇って来るのを俺の〝調子〟は漸く捕えて笑って在った。誰の瞳に観せるでもなく透った肢体(からだ)を脚(あし)の力に任せる儘にて誰の元へと連れ得て自分から見る主張の眼界(かぎり)を如何(どう)して斯うして呟きながらに自分の原始(ありか)を仔細に捉えて安心しようと策を講じて努めて在るが、父と母との絆に捕われ世間に活き得た〝魅惑〟の多さに取り留めないほど躊躇(ためら)い覚えて後退りをし、現行(いま)では人群(むれ)の内にて対人出来ない定めを勝ち取り宙(そら)など煽いで呆(ぼ)んやり居座り、時折り手などを叩いて着想(ドラマ)に知り得た役者の真似など本気で講じて安堵を図り自分に居着いた精神(こころ)の病に対峙するのを余儀なくされ得る。そうした状態(かたち)へ余儀なくされ得る厳しい絵図(ひかり)に神と人間(ひと)からその場を通じて与えられ得た密かな吟味に溺れて居ながら、これまで独歩(ある)いた自分勝手が知れず顔して野平(のっぺ)り呼吸(いき)して、現行(いま)の俺など仕立て上げ得た経過を見上げて如何(どう)にも出来得ぬ人間(ひと)の定めに自分から入(い)り反省等して屈んであるが、「明日(あした)」を活き抜く知恵の共力(ちから)は如何(どう)にも要り付く自分を構えた家族の内でも避けては通れぬ柵(しがらみ)などあり世間へ出向けば〝社会〟に問われる一口限りが強靭(つよ)い相手が必ず用意され行く現行(いま)の倣いにどっぷり浸かって企図を講じる対人習いに変らず呼吸(いき)する故習の限りが俺の精神(こころ)を翻弄して活き俺の心身(からだ)は揮々(ふるふる)震えて卒倒するほど強い光沢(ひかり)に頭脳(あたま)と心臓(むね)とがやられた程度に元気を失くされ暗い敷地へ追い遣られて生(ゆ)く。そんな予感を〝堂々巡り〟の修羅場の内にて人間(ひと)に呼吸(いき)する妄言紛いが具現(かたち)を図って具体(からだ)を勝ち取り、俺の身元へ当然向かって以前(むかし)に憶えた幾多の記憶を救いに観得ては吸収して活き、〝現行(いま)の自分に関係無い〟など口笛程度に漏らせる他人詩人が勝ち取る常の活力(ちから)を自由に覗いて羨望など観て、俺の感覚(いしき)はその瞬間(とき)咲き得た夢想(ゆめ)の内へと潜(もぐ)って行った。
俺の感覚(いしき)は夢想(ゆめ)に倣って小さく纏まり、幾重(いくえ)にも成る細い枝葉の一寸穂先に燃え得た熱い夕日を何度も吟味(あじ)わい内界(うち)へと向き果て、独人(ひとり)で居るのに人群(むれ)に居座る小さな社会を連想して活き滑速(かっそく)するまま狂(くる)っと落ち得た嗣業の一連(ドラマ)は誰も見知らぬ土台(とりで)の上にて紅(こう)を一点、無頼に煌めく人間(ひと)の感度(きまり)を如何(どう)する間も無く夢想(ゆめ)に据え得た天秤(ふるい)に掛け得て丈夫を見定め、煌めく限りに非道(ひど)い挿話(はなし)を俺の人生(いのち)へ吹き込んで来た。俺の感覚(いしき)は以前(むかし)の自分に〝元気〟を勝ち得た介護職場へ逆戻(もど)って在って、そこへ集(つど)った一人の上司は俺の立場と同期ながらに非常に笑顔で夜を連れ込み、「笑顔」ながらに他人に観果(みは)てる礼儀が目立って俺の方では勝手に居座る彼の「笑顔」は温(ぬく)みを忘れて極端とも成り、俺が覚えた熱い躰は夜勤の仕事に没頭したまま夜中の虚空(そら)など頭上に見上げて真向きに捕えた彼の笑顔は輝き続けて葛藤して活き、恒星(ほし)に観て採る勝手な白さに離れた強さを充分保(も)ち得て大きく鳴り活き、俺の目前(まえ)では〝丈夫〟に過ぎ得た恐怖などさえ奇麗に造って縦横無尽に旗揚げしている。俺の感覚(いしき)はそこへ還った職場の温(ぬく)みが久方振りにか巧く透って静かであって、つい肌身に感じた職場を遂行して行く器物など採り眺めるついでに着想(おもい)に先立つ回顧を知れば、如何(どう)して斯うして夜半(よわ)に先行く人間(ひと)の流行(ながれ)が職場に準じて従順(すなお)に有り付き白濁さえ無い言動(うごき)の小音(こえ)など見るも無残に俺へ解け得て誰にも見取れぬ俺の無粋が無様なを飾ってしいんと落ち着き、自分が以前(むかし)に嘘の無いまま確かに居座り働き続けた介護の職場は「川田」と名称(なまえ)を細々掲げた部署に落ち着き、やっぱり悶々職員(なかま)の気配を上手に構えて利用者へ向く各自の姿勢(すがた)に区切りを打ちつつ軟くも成ったが、俺へ対する対抗意識の微塵の醜態(くさみ)を必ず呈して自分の土台(ふもと)を丈夫にさせ行く手腕の程度は誰に対して見劣りせぬまま常軌を逸した校訂紛いの技量を軋(きし)らせ俺と職員(ひと)とを離れさせ行き理由(うち)を問われぬ未熟の在るまま未開へ収めた岐路の在り処は俺にとっても他人(ひと)にとっても酷く騒いだ企画へ落ち着き、〝縦横無尽〟は流行(ながれ)を嫌って元在るべき上司の思惑(こころ)へ還って静まり徒党を組まない俺の下(もと)へと遊泳(およ)いで行くのにそれほど大した経過を取らない健やかさ等は俺の目前(まえ)には尖ったピンほど鋭利を保ち、怪我を按じて見逃せないほど光沢(ひかり)を反する象牙と成り立つ。脆くも強がる俺の感覚(いしき)はそうした過程を職場に観た後(のち)慌てた両手が空転するまま度量に任せて企画をし始め、自分が座って心地良さなど直接手に取り楽観出来得る嗣業の在り処を職務に見据えて〝どうかこの手に戻って来い…!〟など寝耳に揃えた人間(ひと)の活力(ちから)を十分(じゅうぶん)手に取り柔らに眺めて後退した儘、優しく還った日常会話の抱擁などには、俺へ居座る虚無の在り処を工作した後(のち)自体に飾った具体(からだ)を落ち着け暗中模索で、如何(どう)とも出来ない白壁(かべ)の強靭(つよ)さを新たに魅せ活き俺と他人(ひと)とを乖離させ生(ゆ)く無言の破裂が妙に呼吸(いき)して小聡(こざと)く座らせ、俺と他人(ひと)との徒労の距離には巧く輝く呼吸(こきゅう)の調子が微妙に擦(ず)れ行く無心の共鳴(さけび)が小音(こえ)さえ挙げずに自体(おのれ)の在り処を静かに見据えて「昨日」を呼ばない無色の灯(あか)りを仄(ぼ)んやりさせつつ俺が独歩(ある)いた〝微妙〟の跡など具現(かたち)を彩(と)り得ぬ色彩(いろ)の内にて温(あたた)めていた。
生気の臭(にお)いが無重にするのに各自に敷き詰められ得た〝微妙〟の臭みは色彩(いろ)から抜け落ち無闇に配され吃りを忘れた熟知に活き得る葛藤等にもその実(み)を呈さず透って在って、俺が独歩(ある)いた無心の内など音響(ひびき)が鳴らない稚拙な空屋(あきや)に却って居着き、〝堂々巡り〟に苦労を絶やさぬ〝微妙〟の労苦を「生直(なまじか)忘れられぬ」と頻りに力んだ過去の〝美味〟へと程好く夢見て夢想(むそう)を牛耳る〝白旗(しろはた)〟等には世間に活き得た人間(ひと)の協調(しらべ)に心許なく頭(こうべ)を垂れ行き次第に冗(じょう)じた〝悪態〟等には人間(ひと)へ居着いた〝目下の契り〟が神から得た物、人間(ひと)から得た物、虚構に観た物、晴嵐(あらし)を呼ぶ物、未熟に帰す物、等々、惜し気の無いうち有頂(うちょう)に干された人間(ひと)の得意に翳りを知り得ぬ神の呼吸(いぶき)が如何(どう)でも吹き得て延命させ得る知的な姿勢(すがた)が五つに分け得た人間(ひと)の認識(いしき)に程好く活用され得て渇水するなど、俺の精神(こころ)は無用に解け得て宙(そら)へと放られ、〝悪しき〟を知らない未熟な〝知的〟に如何(どう)でも回帰をし計り続ける永遠(とき)の在り処を捜して欲して打ち解けていた。一体如何(どう)した空間(すきま)で俺の精神(こころ)は思考に試して日用に活き、人間(ひと)の関わる延命(いのち)の〝螺旋〟を如何(どう)する〝孤独〟に仕合せられ得て固まり得(う)るのか、密着して生(ゆ)く科学の領域(せかい)に程好く富み得た人間(ひと)の背伸びを外界(そと)の企図(いしき)に程々解かされ無限にされ得た未熟の機構は無知を背負って未知へ振り向き、既知とされ得た生命(いのち)の仕種に自己(おのれ)の無意識(いしき)を転々(ころころ)転がし、物理を崩し、肥えて観るのが「超越さえ見る人口(ひと)の気力に巧く向き得て飛び立つのを知る。人生(いのち)を使ってこうした〝未明(なぞ)〟へと白痴を背負って疾走(はし)って生(ゆ)くのが〝遅れた領域(せかい)〟を重々知り得た孤高の人間(ひと)への〝遅れ〟を採らせぬ試みなのだ」と幾多に跨る人間(ひと)の過程(うち)にて重奏したのは「昨日」を保(も)ち得ぬ未来の果(かなた)に静かに並んだ死面(しめん)と成り得て〝宴〟も知らず、俺の心身(からだ)は病に陥る精神(こころ)を忘れた未知へ向かって独歩を飾ればこうした〝挙句〟の内にて自分に対する夢想(ゆめ)へ辿って揚々活き得る過程(かてい)を信じて上戸を分かち、誰の腕力(ちから)に怯える間も無くそうした腕力(ちから)を一蹴した後(のち)自分へ対する新たな試算が具現を灯して呈され在るのは俺の虚無への感覚(いしき)を知らない〝六腑〟の空転などさえ面白可笑しく訪ねて現れ、夢想(ゆめ)の厚味を薄く切り取る腕力(ちから)を見て取り俺へ対する常識(かたち)を捕えて静まり返った夢想(ゆめ)へ舞わせる俺への突起の布石として在る外界(そと)の明度が騒いだからだ。騒音(ノイズ)を手に取り暗い路地から明るい〝領域(せかい)〟へ何かに釣られて渇水させられ強靭(つよさ)を付されて俺への活力(ちから)を夢想(ゆめ)に具えて具現を彩(と)るのは一向咲かない現行(ここ)での〝明度〟が色を失くして虚構を浴び活き、人間(ひと)の延命(いのち)を〝渇水〟され行く無益な風土に体好く見立てて虚飾を講じ、沈んで有り付く人間(ひと)の快感(オルガ)に俺の精神(こころ)は活力(ちから)を欲しがり重々畝(うね)り、慌て疲れた無欲の労苦に小躍りするまま夜を跳び抜け白地の中央(うち)へと丈夫に立ち得た俺への輝彩(きさい)は、俺と現行(ここ)から程好く離れた暗(やみ)の内から手招きして在り、正味(あじ)を余した〝輝彩(きさい)〟の影など夢想(ゆめ)の内側(うち)にて溢れて在るのが半身飛び出た俺の感覚(いしき)が具に見取って静かに在って、俺の感覚(いしき)は現行(いま)を牛耳る苦悩の果てから程好く飛び出た半身(からだ)を持ち去り、こうした稀有な夢へと舞い込んだのだ。そうして成り得た夢想(ゆめ)の内では何時(いつ)もながらの無重に富み得る時制の活力(ちから)が矢庭に翔(と)び活き俺を呑むまま明暗(しきり)に落ち着き並んで在って、俺への〝観る眼(め)〟を何処(どこ)からともなく腰を持ち上げ固く破った現行(ここ)での規律(ルール)を順手に構えて大きく闊歩(ある)き、俺の背後へぴたりとくっ付き他所目を振らず、俺の為にと一人小さな規矩を仕立てて巨木を拵え、巨人と成り得た〝上司〟の姿勢(すがた)が「無効」の飛び交う源泉(いずみ)の内からふっと現れ虚構へ騒ぎ、〝目立った司祭(あるじ)〟は俺へと羽ばたき〝四重(しじゅう)の眼(め)〟を採り俺への教育(しつけ)に労して在った。そうして立ち得た〝上司〟の名前は何時(いつ)か現行(ここ)にて俺にとっても〝既知〟と成り得た失(き)えない名前で丈夫に在って、俺にとっては懐かしいまま渾名を報さぬお堅い名字にふっと留まり呼ばれて行く儘、名字を掲げた上司(そいつ)の表情(かお)には薄く敷かれた青髭(ひげ)など灯って俺に対して以前(むかし)に飛び交う記憶(おもい)を辿らせ雄弁と成り、腕力(ちから)の余った〝上司〟の姿勢(すがた)は俺へと独歩(ある)いてのそのそ呟き自分を明かし、「俺の名前は…だ」と篭った声にて俺へは届かず、そのまま独歩(ある)いて廊下へ消えて、闇に透った廊下の奥には上司(こいつ)の為だけ用意され得た〝青い空間(すきま)〟が仄(ほ)んのり浮んで呆(ぼ)んやり生長(そだ)ち、俺の目前(まえ)から奇麗に去り得た経過の全てを上司(じょうし)に託して片付けて在る。上司の名前は名字だけにて薄ら居残り俺の耳へと呆(ほう)っと流行(なが)れて発声(こえ)を上げ出し、半谷(なかや)と言ったが川谷(かわや)と言ったか、調子を落さぬ奇麗な余韻(なごり)にしっかり据えられ反省して行く俺の感覚(いしき)に何度も対して呼吸(いき)さえ乱さず、崩れ掛かった〝土台〟の上にて何度も何度も同じ苗字を共鳴(さけ)んであった。俺の感覚(いしき)はそうして直々心身(からだ)を通して夜の仕事へ薄ら立ち行きやる気を保った熱の在り処を懐(うち)へ収めて恐縮しており、揺(ゆ)らりと流行(なが)れる経過(じかん)に合せて調子を決め行き〝促成したまま枯れぬように〟と見据えた気熱(ねつ)への眼(め)などは余裕に在ったが即発逃がさぬ真面目を掲げて焦りさえ観(み)え、宙(そら)へ解け行きそのまま透って見えなくなるまで自活を貪る〝俺〟への配慮に〝熱〟をも上げて、失敗(ミス)の無いまま夜を越え得る手腕を大事に整えながら俺の傍(そば)へと知らぬ間(あいだ)に寄り付き青髭(ひげ)を光らせ揚々笑った上司を取り寄せ看守に見立て、これから始まる夜の仕事の監督者へと俺の認識(いしき)は認めたようだ。そうしてはらはら流行(なが)れ瞬間(とき)の経過にか細く成り得た「夜勤」の仕事は腕を鳴らして両者を見据え、見初められ得た二人の姿勢(すがた)は一組(コンビ)を組んだが互いに互いが夜の薄みへ散らばり行く為各自の居場所が定まらないまま互いは互いの定位置などさえ終に知り得ずふらふら独歩(ある)き、半谷(なかや)か川谷(かわや)か分らず青髭(ひげ)を光らす当の主(あるじ)は暗(やみ)に化け得て姿勢(すがた)を隠し、何時(いつ)の間にやら俺の傍(そば)から気配を消し去り何処(どこ)ぞの果てへと小躍(おど)って行った。そうした〝小躍(おど)り〟は静かな物にて俺の耳元(もと)へは一向聞えず音の無いまま無闇に遊んで正体(すがた)を晦まし、俺の感覚(いしき)が同じ表情(かお)した暗(やみ)の内から出て来る前にてそっと呼吸(いき)して仔細を報せず、一応打ち得た〝終止〟の暗(うち)にて体動(うごき)を調え自分の向くべき新たな〝領域(せかい)〟へそのまま飛び行き還って行った。夜勤の仕事は滔々終って白い朝など俺へと出向いて上がって来たが、上司の姿勢(すがた)は矢張り見えずに俺から離れ、〝夜勤〟の繋がる夜の内から何時(いつ)頃如何(どう)して還り得たのか暫く経っても一向分らず、俺の〝虚無〟には何時(いつ)も着飾る独人(ひとり)の輪舞曲(ロンド)が白痴を唄って未熟に在った。
瞬時にして経過(とき)が移ろい場面が変わり、俺の心身(からだ)は軒並み騒いだ周辺(あたり)を越え活き施設が遠退く空間(すきま)へ這入って一旦和らぎ、次の場面を好く好く観るのに準備をして行く進んだ家屋に自分に科された定めを見付けて躰の向くまま独歩(ある)いて行った。家屋と思って順々連なる涼風(かぜ)の記憶を一々紡いで独歩(ある)いて行ったら如何(どう)にも知らない壮大ばかりが俺へと並んで大きく在って、これまで人の家屋に見て来た生活用具の一々等には光沢(ひかり)が当らず皆が夫々俺の為にと一目散へと自体(からだ)を化け活き通り一遍認(したた)め挙げ得た駅の内部を模倣して行き俺の躰は人間(ひと)へ這入って散々独歩(ある)いて人群(むれ)を抜ければ、これまで見て来た鉄道駅への順路が呈され具現(かたち)を失くした「家屋」の様子は俺の目前(まえ)にて畳まれて行く。鉄道駅とは人間(ひと)を呑み込む巨大な迷路へ生長して活き涼風(かぜ)を吹かせた淡い記憶は俺の周囲(まわり)を通り抜けては入り口辺りで街から這入った人間(ひと)の吐息にすうっと解け入り匂いさえ消え、透った気流(ながれ)がそのまま何処(どこ)かの過去へ流行(なが)れて呆(ぼう)っとして活き、俺の周辺(あたり)を静かに化(か)え行く気楼(きろう)の様子を何かへ喩えて屈託し得ない無造(むぞう)の波紋を空気へ汲ませて俺へと居座る。そうした大きな〝調子〟の群れなど所狭しに俺の居座る領土に居座り活性して行き転々(ころころ)転がる無意識(いしき)を醒まして無音に在る為、俺の耳には出口が伝える人間(ひと)の自声(こえ)など全く届かず、揚々独歩(ある)いた静かな〝気配〟に自己(おのれ)の耳目を集めて費やし当てを知らない無頼の身一つ、何処(どこ)へ向くのか算段しながら遠い出口を探してあった。暗い路地から駅と駅とをか細く繋いだ細道(さいどう)など観(み)え、行く行く向かった大きなホールは周囲(まわり)に並んだ人群(むれ)の足音(おと)など体(からだ)の擦(す)れ合う微妙な音響(ひびき)に密接しながら、日々の用事に必要だからと偶然その場へ現れ出て来た人間(ひと)の様子は堅く成り立ち笑顔など無く、男女共々紺のスーツに形(なり)を澄ました冷たい〝調子〟を程好く暖め、熱気の灯った一重(ひとえ)の眼(め)からは今日の各自の当てへと向かう解(げ)せない強靭(つよ)さが爛々輝き俺の背中を無力に押し生(ゆ)く孤高の気色が進んで在った。俺は俺にてそうした気色へ埋没するまま希望(ゆめ)を孕んだ大きな手立てを前方(まえ)へ掲げて直進して行き、直進しながら如何(どう)とも言えない未開の気色が悶々飛び出て周辺(あたり)を曇らせ自適にあって、暫く臭(にお)える臭味を捜して両手一杯拡げて遊泳(およ)いで在ったが収入(かね)の無いのが功を奏して折合い付かずに見付けられ得ず、ホールに敷かれた大理石(ゆか)を行くうち所々で両脚(あし)が留まり肢体(からだ)が折れ行き、当ての無いまま無性に流行(なが)れる人間(ひと)の背後(あと)へとぴたりとくっ付き如何(どう)する間も無く経過(とき)の向くのを平気な顔して眺めて在った。俺は唯々自然の息吹に躰を任せて生きるが如く、人間(ひと)に塗れて目前(まえ)だけ捉えて孤高に出向き、一生懸命華(あせ)を掻きつつ足音(おと)が遠退く出口を捜して独歩(ある)いてあった。
俺の記憶は次第々々に調子を上げ活き何も詰らない架空の跡さえか細く見据えて結構織り成し、情緒が和(やわ)いで精神(こころ)に灯った紅(あか)い気熱が熟(じゅく)していながら初々しく在り、初々しいまま俺の心身(からだ)は過去を通してそれまで観て来た学生気質が真綿に包(くる)まれ灯って在るのを目立った拍子に軽く持ち上げ〝自分の物だ〟と小声(こえ)を潜めて安堵を隠し、大学時代に根太く立ち得た自分の音頭を上手に先取りそれまで観て来た人間(ひと)への気色に違う脚色(いろ)など順手に講じて毒吐(どくづ)き始め、強靭(つよ)く成り得た自分を着飾り〝三番校舎〟へ矢庭に赴く未熟の気質を大事にしながら、自分へ立ち行く人間(ひと)の熱気を押し分け押し分け〝当て〟を見付けて独歩(ある)いて行った。記憶を辿って静かに並んだ構内(うち)を見て取り此処(ここ)が何処(どこ)だか確認しようと熱気を孕んだ両眼(まなこ)に任せて眺めて行くと、何時(いつ)か見知った東京駅などふいと現れ具体(かたち)を取り出し、俺の目前(まえ)では大きく寝そべる気流の徘徊(まよい)が人間(ひと)の頭上で燦燦解け出す妙な衝動(うごき)が程々跳ね出し無造作と成り、俺の感覚(いしき)が容易く這入れる空間(すきま)を冗じて阿り出すのが仔細に見取れて華やかに在り、学舎へ向かった俺の両脚(あし)には一つ和(やわ)いだ丈夫が灯って軽さが生れ〝当ての為に〟と調子に活き行く俺の勝気は〝臭(にお)い〟を保(も)たない無意識(いしき)の内へと這入って解け得た。
「四番出口から向えば三番校舎に一番近い」と気儘に独歩(ある)いて向かった先での改札口には、人間(ひと)の出口を奇妙に教えるBoardが掛かって静けさが在り、地下から吹き抜く冷風(かぜ)を呈した地上の涼風(かぜ)が流行(ながれ)に吹き付け人間(ひと)を吹き抜け俺を煽って〝出口〟を伝(おし)える体裁(かたち)に在ったが、何分(なにぶん)不慣れな環境(まわり)に自活を奪われ徘徊(まよい)が生れ、俺の心身(からだ)は何処(どこ)へ着かずの固陋を独走(はし)って暗(やみ)へと流行(なが)れ、「出口」を称した四番出口は「ボード」から脱(ぬ)け何処(どこ)かへ独歩(ある)いて失踪して居り、俺の感覚(いしき)は「脱(ぬ)け出た出口」を隈なく探して構内(うち)を這いつつ〝自分に適した案内人〟など何処(どこ)かに居らぬものかと苦心を呈して人間(ひと)の流行(ながれ)へ没入するうち次第に膨らむ捜索意欲を燃やして行った。
俺は独歩(ある)いてホールから脱(ぬ)け、東京駅(えき)の機能を存分振る舞う「乗り場の枝葉」を左右に散らした主要の大樹へふらりと降り立ち樹内(じゅない)を流行(なが)れる人間(みず)に呑まれて要所へ連れられ、流行(なが)れながらにこれまで独歩(ある)いた自分の軌跡をほとほと見詰めて溜息吐(つ)いて、樹内(じゅない)に大きく掛かった白壁(かべ)に凭れて休憩するなど、ここまで辿れた自分の活気を面白可笑しく眺めてあった。そうする間(あいだ)に随分廻った〝目的探し〟の経過を見取れて回想(おもい)が運ばれ、静かな余韻に空気が流行(なが)れて在る事無い事滅法矢鱈に吹聴して活き俺の苦労を揚々称えて嬉しく佇み、それまで独歩(ある)いた経路の跡には駅に乗じた係員など仔細に詰められ堂々成り立つ〝詰所〟の具現(かたち)が点々表れ俺へと解け出し、〝そういや構内(うち)に敷かれて幾つか在ったサービスカウンターへも散々出向いて「四番出口」の在り処を訊いたり、まるであの頃思い出すまで躍起に緩んで探したものだ…〟等々、早くも回顧に衒われながらに緩々流行(なが)れる空気の内(なか)にて自分を辿り、辿って見るまま〝当て〟への〝出口〟を具に捜すが如何(どう)にも具体(かたち)がはっきりせぬまま回想(おもい)の穂先はやがて感けて撓(しな)んで行った。足早に独歩(ある)き続けた俺の目前(まえ)には何時(いつ)か此処東京で見知ったような〝華(はな)〟が咲き活き両親(おや)から離れた解放感から自力を以前(まえ)より育てた新たな活力(ちから)が湧いて出るほど奇麗に揃った〝手段〟を携え生活出来て、俺の過去から新たに輝(ひか)った自分の生命(いのち)が延命(はしご)を気に掛け落ち着き行くのが現行(いま)でもはっきり見て取れ〝まだまだ行ける…!〟と軽く成り得た両肩(かた)を揺らして俺の心身(からだ)は明かりの静まる出口を見付けて足踏みしていた。どれほど独歩に手足をくっ付け昨日から今日、今日から「明日(あす)」へと自分の徒労が努力と成るのを無心に欲した白紙(しろ)の境地でだんまり決め込み、ぐつぐつ煮え入(い)る〝華〟の想いに傾き在ったが、両親(おや)の手前に〝活気〟を忘れて活力(ちから)を忘れ、〝健忘症〟成る新たな新力(ちから)を携え苦力(くりき)を呈して人々(みな)の目前(まえ)にて大手を振るのは〝生れたからだ!〟と強い鼓舞にて自分を飾り、社会に解け生(ゆ)く身分さえ観て今後の感覚(いしき)に新たな同僚(なかま)を増やして行った。構内(うち)に構えた無数のサービスカウンター(つめしょ)へ幾度も並んで〝出口〟の在り処を具に訊き得た俺でもあったが、一向分らぬ回答(こたえ)の程度が何度も返って俺の徒労に華さえくっ付け俺をも惑わし、明りの点った小さな広場に四肢(てあし)を拡げて呆(ぼう)っとしたのが順繰り廻った感覚(いしき)に関わり淋しく見据えた俺の両眼(まなこ)は宙(そら)から拾われ無数に落ち着き、俺に甘えた〝彼女〟の姿勢(すがた)が平々(ひらひら)小躍(おど)って床(とこ)に就くのがこうした過程(さなか)に奇麗に仕舞えた俺の未熟にすっと点って活き得るのだから、こうした〝徒労〟は俺の懐(うち)にも新たに咲き生(ゆ)く〝活気〟と成り得て久しく揺れ得ぬ足場を設けて相異無いのだ。至難な解釈(おもい)にぐるぐる廻ってやっと自ら辿った果(さ)きには自己(おのれ)だけ知る未開が煎じて滋養を促し、煎じた果(さ)きには人間(ひと)にも解らぬ不毛の分子が〝大樹〟を離れて象り始めた個人に居座る宙(そら)の灯りがぽっと浮き出て輝き始め、人間(ひと)の境地へふらふら宿って〝白紙(しろ)〟を言うのは如何(どう)でも好く成る言い訳ばかりに対象(もの)が落ち着き慌てた両眼(まなこ)が空気を知るのはそれから離れた後日である等、透った視界に映った対象(もの)には暗(やみ)をも見知らぬ不快を伝(おし)えぬ立派な立脚(かたち)が独歩(ある)く姿勢(すがた)に〝活力(ちから)〟を呼び付け呆(ぼう)っとして行く過去の未熟を助けてくれ得る。焦った〝蛻〟は〝白紙(はくし)〟を離れて世間へ出て活き、社会に透った界隈(そと)の気色を凡庸成る内ばらばら散らして柔らに固まり、「『明日(あす)』を返せ!」と淋しく謳った孤独の司祭(あるじ)は個人(ひと)を通して人間(ひと)へと移り、移った挙句に過去が透した奇跡の背後(あと)など執拗鳴るまま筵へ遣っては虚空へ赴き、赴く様子に個人へ浮んだ〝人生(いのち)の糧〟などゆっくり伝えて温(ぬく)みを保(も)つ為、個人(ひと)の孤独は孤独を観ないで上手に独歩(ある)いて上辺だけ活き、活き行くついでに俺の足場を緩く固めて仄(ぼ)んやりするから、俺の調子も徒労に有り付き呆(ぼう)っとしててもつい又「明日(あす)」への〝出口(ばしょ)〟にて〝当て〟を探して明かりを見付け、揚々独歩(ある)いた静かな姿勢(すがた)は現行(いま)の果てから遠く離れて自由に輝く司祭(あるじ)の姿勢(すがた)を上手に見付けて自然に落ち着き、俺の小声(こえ)には具に跳ね活(ゆ)く自分の周辺(あたり)を巧く化(か)え行く孤独を知りつつ自活(かて)を採る為〝成就〟が生れ、自然に知らない独歩の態(てい)とは何時(いつ)しか丈夫に成り得た〝蛻の微動〟を巧く捉えて上手に操る新たな試算へ辿り着くのが目下流動(うご)いた人群(むれ)の内では俺にとっても自然にとっても一向変らぬ常軌と成り得て落着するのだ。サービスカウンター(詰所)に聞えた係人(ひと)の小声(こえ)には「知らない」「分らん」等々「当て」が宙へ向いても〝自活〟を呈せず俺の熱気が燻り続けて退屈(ひま)を手に取る凡庸(ふつう)の機会を続けて続けて投げて来たため折合い付かずに、残念・無念が程好く飛び交い人群(むれ)の頭上へぽんと飛び乗り俺を眺めて果(さ)きをも見定め、如何(どう)にも好く成る緩い兆しが気分に降り立ち俺を認(したた)め、「明日(あす)」への彷徨(まよい)に抱擁するまま対象(かたち)だけ見る拙い思惑(こころ)に準じて在った。がっかりするうち俺の独歩は行方知れずの徘徊(まよい)に先立ち曇りを知らない奇怪な空想(おもい)に熱気(ねつ)を奪われ気分を害し、六でも無いほど低徊(ていかい)して行く退屈(ひま)の音頭を根強く見付けて懐(うち)へと取り出し夢想(ゆめ)を観ぬまま徒労に暮れ行く試算を妬んで屈して在ったが、自力に遊泳(およ)いで熱気(ねつ)を保(も)ちつつ弱い微温(びおん)に微温(ぬる)さを知り行く人間(ひと)の人群(むれ)へと這入って行っては情緒(こころ)を落ち着け空想(おもい)を富まし、行く行く辿った未熟の過程(みち)には何時(いつ)しか聴えた奇跡の微音(おと)など小さく鳴り出し白紙を携え、そうして成り得た虚無の〝白夢(はくむ)〟に土台を講じて脚色するのが現行(いま)に活き得る自分の仕事と微妙に割り切り調子を好くして、闊歩(ある)いて行くのは初めに見知った「四番出口」と細々決め得て身重を立たせ、俺の感覚(いしき)は唯々熱気を保(も)つまま人群(むれ)の内へと遊泳(およ)いで活きつつひたすら透った空想(おもい)を携え出口の方へと巡回して行く〝宙(そら)〟の在り処へ赴いて居た。とにかく東京駅(ここ)から脱け出し現行(ここ)から脱け出て、流行(ながれ)を掴んだ〝人間(ひと)〟と〝大樹〟に別れを告げ得て脱出するのを遠の目的(あて)へと据え得た俺の試算に嘘など無かった事実だけ観て孤独に独歩(ある)いて生き抜き得た身を自身に見立てて自信を携え、一度倣った〝三番校舎〟を東京駅(ここ)から程好く離れた界隈(そと)へ据え置き揚々歩き、俺の心身(からだ)は小さく灯った未熟の灯りを如何(どう)でも手にして落ち着きたいなど白紙の還りを待ってたようだ。段々静まる熱気を灯して俺の心身(からだ)は人群(むれ)から外れて郊外(そと)へと降り立ち、立ったと想えば再び逆行(もど)って元在るべき過程(みち)、即ち東京駅(えき)の内にて愚図愚図している自信の境地へ注視したまま凡庸(ぼんよう)に在り、如何(どう)でも〝脱け出る〟気持ちを保(も)つうち人気(ひとけ)の疎らな暗い広場が東京駅(えき)の構内(うち)にも散見され得て密室(へや)を携え、俺の夢想(おもい)は対象(かたち)を知るまま流行(ながれ)に合せて歩調を見定め淡く成り行く気質を見付けて自分の自然(あるじ)を模索して居た。そうする内にも人群(むれ)の流行(ながれ)は風邪を引くうち微妙に掬える奇妙な夢想(ゆめ)さえ携え連れ添い、俺の周辺(あたり)に散在するまま熱気を点け活き活気を牛耳り、淡く成り行く俺の期待(こころ)を見事な態(てい)して大きく捕えて勝気(かちき)を見据え、勝鬨上げ得る奇妙な文句は既に透った妄想(ゆめ)から現れ元気に灯され、浮いて生(ゆ)くのが〝奇妙〟を知り得た俺の狂想(ゆめ)幾つの人群(むれ)にも露もふらりと感じさせ得ず俺の姿勢(すがた)を観る者見る者独歩を偽り歩いて居ながら恐らく努(ゆめ)にも感じて居ない。全く孤高に活き得た俺の心身(からだ)は自然(あるじ)へ向き得た白紙(しろさ)を保(も)ち得て微妙に言動(うご)かず、格式張るのはこれまで見据えた人群(ひと)の間(うち)にて虚無が小躍(おど)った無重の内にて無力を牛耳り気弱く成り果て、俺の自然(あるじ)に咲き得た〝華〟には魅惑が小躍(おど)って〝過程〟を牛耳り、当面化(か)わらず屈曲され得ぬ強靭(つよ)さを保(も)ち得て果(さ)きへと闊歩(ある)き俺の背中(あと)には何時(いつ)しか見据えた大きな希望(あかり)が夢想(ゆめ)を数えて概算(がいさん)したまま独歩(あるき)を知らない現行(いま)の歩調に手を取り腰振り調子を合せ、再び独歩(ある)ける強さを脚色付(いろづ)け騒いであった。三番校舎で何か余り楽しそうにない行事(催し)が行われそうだった。その行事へ参加する為俺の心身(からだ)は向かったようだ。
標高高い雲の麓へ延びた山には俺の見知った記憶が転がり誰にも懐かず孤独を牛耳り白亜の向こうで青空(そら)を眺めて唖然と在ったが、自然が吊るした人間(ひと)の流動(ながれ)を瞬間(とき)に留(と)め置き見知った体温(おんど)を如何(どう)にか冷まして奇麗に並べた肢体(からだ)の一身(はへん)が情緒を遊泳(およ)いで公立して活き、精神(こころ)にお道化た凡庸(ふつう)の日々には俺の記憶が充満して居り、俺の思惑(こころ)は精神(こころ)は離れて倒立して在り無音に固まる古郷(こきょう)等には野平(のっぺ)り平たい俺の〝栄養〟が土下座をしながら〝西から昇った浅い月〟など鑑賞用にと朝から拝して姿勢を固める。それまで出会った幾多の人間(ひと)にも思惑(こころ)が流行(なが)れて精神(こころ)が和らぎ解釈し得ない無意味が生じて淡い記憶を温(あたた)め生(ゆ)くのは決して折れない未熟が叫んで小さく畳まれ蝙蝠傘など真綿に包(くる)まれ目前(まえ)へと並んだ女人(にょにん)の主(あるじ)と対するからだと、怪しく嘲笑(わら)った菊の盆など俺に対して孤高に振舞い周囲(まわり)に集(つど)った皆に知れ行く明日(あす)を知るのは容易い所業に断じて見得ない新たな音痴を思惑(こころ)に立て活き透った躰を嗣業に対すは余りに至難の行為の内にて脆弱(よわ)り果て行く気迫の提示を傍(よこ)に据え置き俺には厳しい。俺の心身(からだ)は四方(よも)を通って山小屋(ロッジ)へ辿り、辿った先では一つの苦労が数多を誘(さそ)って浸透し始め活気(くうき)に紛れて見得なくなりつつ以前(むかし)に憶えた華(あせ)が手にした苦労を先取り未熟に据え行く「明日(あす)」の為にと真正面(まとも)に静まり小さく謳い、俺の思惑(こころ)は如何(どう)でも立たない勝気に対して辟易し始め周囲(まわり)に集(つど)った数多の人間(ひと)など細目(ほそめ)に覗いて衰退し得ない独歩に対する孤高の覚悟を段々深まる懊悩(なやみ)の内にて夜気(やき)を従え小さく構えた。十五歳(じゅうご)に憶えた女性(おんな)の記憶を重々先取り困惑し始め、揚々並んだ女性(おんな)の表情(かお)には吝嗇紛いの吝(けち)な仕草が酷く目立って独歩を目立たせ俺の目前(まえ)では耶蘇に集(つど)った女衆(めしゅう)の体(てい)して馬鹿騒ぎをした勝気の余韻が板に付き活き大きく育って俺へと絡まり暗い夜空(そら)には唾を吐き掛け自得として行き、過去に紡いだ少女の記憶は大きく揺らいで困憊していて女性(おんな)が呼吸(いき)する密室(へや)の空気は俗世を透して固く居座り、俺に対する柔い空気は上気へ配した勝気の音頭を昨日へ返して通せんぼをし、小窓が開(ひら)いた気孔にも似た白壁(バリア)の隅から緩く漏れ出た熱い毒気は、人見知りをした柔い暖気をようく澄まして成熟させ活き何も感じぬ稚体(ちたい)から出た女衆(めしゅう)の瘴気は好く好く匂えば正味を気取らせ耶蘇(あるじ)を目指した人生(いのち)の暖気は仄かに灯った臭味を発する。何に付けても丸く収める母の両眼(まなこ)がその時限りで丈夫に働き固く居座り、これから流れる涙の源(もと)など具に報せて俺を先取り牛耳り始めて、俺の精神(こころ)は椅子にも座れぬ気弱な司祭(あるじ)を遠くに掲げて直立して在る。白い空気が呑気な騒音(ノイズ)を真横に従え堂々して在り、弱者の気心(こころ)を微塵も捉えぬ女衆(めしゅう)の様子を具に映して悦んでいる。皆が感じた寒い空気を俺の思惑(こころ)は微塵も感じず不動を憶えて固執して在り、活き活きし出した驟雨の様子は山の景色を深く灯して濃緑(みどり)に自生(そだ)った白い霧など弱く従え自然に有り付き、俺を連れ添い身軽に落した女衆(めしゅう)の毒気は耶蘇(やそ)を崇めた密室(へや)の内にて座禅を振り撒き男性(おとこ)を引き連れ、自分に具わる母性の熱気を容易に認(したた)め確認して居た。淡い差別を物ともし得ない悪魔の所業(しぐさ)に進んで跳び付き如何(どう)でも遣り抜く強い女神を寡黙の内にて味方に据え置き、温(ぬる)く畳んだ妄想等には行き場を失う脆弱(よわ)い女体が轟々蠢(うよ)めき「明日(あす)」の晴嵐(あらし)を制圧して行く仮装の世迷が横行している。最早自生(そだ)った女性(おんな)の晴嵐(あらし)は行き場の見得ない挙動の内にて正義を目論み勝手に途絶え、俺の前方(まえ)ではそれでも明るく無意味に灯した熱気の轟音(あらし)に自体(からだ)が捕われ逆上せ上がって、自分の周囲(まわり)へ集(つど)った他人(ひと)へは疲れが先走(はし)って犠牲を払わず雲海(うみ)の内にて如何(どう)にも成り行く気弱な司祭(あるじ)に従い合せて「明日(あす)」へ活き抜く未熟の痴態を愛してもいた。夜更けを過ぎ行く暗い場所には標高高い山地の寒さが快く解(と)けひっそり静まる俺の心身(からだ)を揚々冷め行く自然の過程(ながれ)へすっぽり当て嵌め他人顔して、遠くで騒いだ男女(だんじょ)の遊戯(あそび)を暗く灯した山景(さんけい)等にはひっそり点った初春(はる)の晴嵐(あらし)が酷く鳴り活き未開へ先立ち、旧く灯った人間(ひと)の深心(こころ)を無闇に冷ました「男女」の勝気は呆(ぼう)っとお道化て雲海(うみ)へと消え活き、俺の足元(もと)へは二度と還らぬ情緒(こころ)を伝(おし)えて巣立って行った。そうした男女(うち)にも困惑していた俺の元へと気安く居着いた友人は居て、そうして居着いた知己(とも)の熱気は男性(おとこ)に限られ純朴に在り、作った笑顔は偽善には無く真心(こころ)を射止めて静かに落ち着き柔らを従え、俺の目前(まえ)では微かな吐息(くうき)も無頼には無く司祭(あるじ)を見定め寛容鳴るうち互いから知る前方(まえ)へ観たのは無限に拡がる勝気の程度を密かに牛耳る嗣業に立たされ丈夫に留まり、「明日(あす)」への人生(いのち)を根強く講じた新たな糧など両者へ引かれる無音の歯車(くるま)に車輪を捩って相対して活き耶蘇に集(つど)った女衆(めしゅう)の灯(ひ)よりも明々懐いた俺への正義は工作され得た。肢体(からだ)に宿った俗世の悪には俺の吐息がほとほと届かず「明日(あす)」を夢見た人生(いのち)の華(あせ)など何時(いつ)までもに無い夢想の極致へ散乱して活き幾度も味わう挫折の無意味に相対して生き降参し始め、プランクトン程小さな塵にもまるで宙(そら)から大きく関わる無数の晴嵐(あらし)に蹂躙され出し屈曲され活き、「明日(あす)」のモルグは女衆(めしゅう)から出た呼吸(いき)の内にて確立して活き、到底見得ない無数の司祭(あるじ)に纏わり付くのは何時(いつ)も限って人間(ひと)の弱味と調子は失(き)え行き、教会(かこい)へ集った女衆(おんな)の息吹は人生(いのち)を枯らして上等とも成る。そうした晴嵐(あらし)を至極嫌った青い春へは俺の気性が一切寄れずに衰退して行き、過去に灯った新緑(みどり)の司祭(あるじ)が青空(そら)へ寝そべる山景(やま)であっても一向変らず根深く繋がる宙(そら)への紀行を愛して止まずに女衆(おんな)の勝気は雲海(うみ)へ留まり気弱に在って、俺が逆上せた女衆(おんな)へ対する浮いた真心(こころ)の気弱な流行(ながれ)は何時(いつ)止むともなく「明日(あす)」の魅惑を一切知れずに淡い青春(はる)へと埋れ続けた。
知己(とも)と寝たのは夜中に掛かった二時の頃にてそれまで溜まった真心(こころ)の叫喚(さけび)を如何(どう)にでもして懐けて見ようと淡く試み尻を座らせ地べたに坐して、俺と知己(とも)との真心(こころ)の通いはやがて知己(とも)へと女性(おんな)が寄るまで続くのだろう、と淡く落した気心(こころ)の内にて気弱に呟き俺の真心(こころ)は知己(とも)を観たまま哀しくなった。知己(ちき)の発声(こえ)には雲母にも似た透った内実(うち)など心許ない美声(こえ)へ絆され転々(ころころ)転がり散乱して在り、俺の勝気は透った空気に大きく寝そべる間柄(あいだ)を見付けて闊歩して行き小声に知り得た気熱の在り処をその瞬間(とき)対した知己(とも)に見詰めて嬉しくさえ成り、知己(とも)は親友(とも)にて、腰を上げない俺の元へとしっかり寄り添い億尾にも出ぬ悪心(あくしん)ばかりを上手に睨(ね)め付け未来を忘れた昨日の態(てい)して箱を寄せ付けそうした内へとどんどん放って瞬間(とき)を維持して黙って泣いて、俺の目前(まえ)には何時(いつ)もと変らぬ気弱な体(てい)した優しい彼等が笑顔を振り撒き肢体(からだ)を拡げ、易しく唄った青春(はる)の声など上手に認(したた)め俺の元へと伝(おし)えてくれ得る。紅い顔した俺の元へは幾つに流行(なが)れた青い人生(みち)など幾多の様子に人間(ひと)を訓(おし)えた倣いの仕種を作法に沿わせて無言で居座り、遠に習い終え得た経験(かたち)は俺を見据えて闊歩させ活き両脚(あし)の力が出向く果(さ)きなど仔細に決め行き精神(こころ)に遊泳(およ)いだ苦労の華(あせ)など矛盾を来さずねっとり落ち着く人道(みち)の上にて凡庸を知り、煩悩(なやみ)を知らない自然の在り処を俺の身内(うち)へと静かに捜して独歩(ある)いて教会(いえ)を出たのは新たに這入った女衆の強気が華(あせ)を忘れて無造(むぞう)に灯る三月下旬の行事の期(き)である。そうした〝雲母〟を自然に誘われ上手に独歩(ある)き、知己(とも)の前方(まえ)には動じて動かぬ〝俺〟の様子がしっかり見て採れ矢庭に騒いだ女衆(おんな)の勝気は騒音(ノイズ)に塗れて見得なく成りつつ自体を騒がせ切れずの淡い上気に巧く飛び乗り無言を認(したた)め、初春(はる)の時期には何かと騒いだ陽気の仕種が〝彼等〟に騒いで雑音(ぞうおん)を知り、知り得た俺の郷里は微動に動かぬ晩春(はる)を誘(さそ)って〝運河〟へ落ちて、次第次第に流行(なが)れる気流は抑々初めに人間(ひと)の気性に流動(なが)れる対象(もの)にて如何(どう)とも言われず〝孤高〟を装う俺の思惑(こころ)は山小屋(ロッジ)に過した淡い記憶を巧く掴んで糧だけ牛耳り、途方に暮れない自身の在り処を徘徊(まよい)へ放らず自棄的にも成り、「明日(あす)」へ向かった俺の〝新た〟は弓に引かれた火矢(のろし)の如くに遠くへ飛んで活き活きしたうち早く自宅(うち)へと戻れる試算に総身を温(ぬく)めて溜息吐いて、俺の心身(からだ)は知己とそうして抱き合い得たあと何も想わず一途を賭してこれまで生育(そだ)った自宅(うち)へと向かって還って在った。精神(こころ)を疲れて困憊して行く俺を見据えて小さく寄り付く知己(とも)の内には俺を想って配慮し遣った幾多の火花が静かに騒いで俺へと居座り、尚も解け行く俺の表情(かお)など女衆(おんな)を避け活き気取った為にて余程の疲労を新たに負わせてしんとして在り、俺の心身(からだ)は精神(こころ)に根付いた一つの覚悟を存分知り得て奇妙に固まり立脚して在り、唯々これ迄にも観た教会(うち)に居座る若い女性(おんな)の偽善の在り処を具に報せた神秘に対して首肯して活き、何時(いつ)の経過(とき)でも派閥を講じて気に入る仲間と筵(かこい)の内のみ酷く温(あたた)め主権を欲する悪女の姿勢(すがた)にうんざりしたまま憎しみさえ置き、〝覚悟〟を決め得た脆弱(よわ)い人生(いのち)は「明日(あす)」へ目掛けて独走(はし)って在った。
そうして漸く自宅の夢想(ゆめ)へと落ち着く我が身は経過(とき)を知り得ぬ無双の境地へ堕ちて活きつつ独歩(ある)いて在って、窮地に立ち得た鋭い我が身を一年限りの新たな迷いへ放送したまま柵(しがらみ)さえ無い人道(みち)の上では胡坐を崩した大きな自信がひっそり輝き煩悩(なやみ)を知り抜き暖かくも在り、初めに揃えた自慢の在り処を身内(うち)から払って呆(ぼう)っと突っ立ち虚無に溺れた無感の境地は無冠に知れ得る我が身を欲して曰(いわ)くを付け沿い、人群(むれ)の内には固く立て得ぬ孤高の司祭(あるじ)が神秘を睨(ね)め付け無枠(むわく)を欲しがり、先行く不安に如何(どう)にか追い付き自分の全能(すべて)を曝け出そうと、肢体(からだ)を捩(よじ)った思考の限度(かぎり)は興味を覚えて巣立って行った。兵庫内地の道場(どうじょう)駅から足早ながらにすっすっ歩いて知己を連れ添い、迷惑ながらに在り難がった知己(とも)の誘(さそ)いは困憊していた俺の心身(からだ)へそれでも不変の温(ぬく)みを持ち得て確かに在って、ごとん…ごとん…、走り始めた列車の内では疎らに散り去る人群(むれ)に紛れて人の知己(とも)だけ俺へ懐いて傍(そば)に居てくれ、変らぬ顔した雑談等には一層寄り添う夢想(ゆめ)が連れられ俺をも従え童心(こころ)に浮き得た知己(とも)と俺には「明日(あす)」をも見知らぬ奇麗な純心(こころ)が灯(あか)りを点して無闇に謳い、初めから在る思い出話に煌々灯(とも)った明るい話題は病んだ俺にも一層元気を与えてくれ得て何時(いつ)しか淋しい夕日の陽光(ひかり)は知己(とも)の在り処を眩しい程度に俺へ対して映してあった。そうした最期を夢想(ゆめ)へ引き連れ結局揃った微温(ぬる)い境地を大事に扱い自分へと向け、知己(とも)の夢など懐(うち)へ隠して黙殺したまま兵庫内地にキャンプに発(た)つ以前(まえ)ずっと見て居た〝自分〟の内へと足を早めて還って行った。
俺の心身(からだ)は一度去り得た夢想(ゆめ)へと行き着き常識(かたち)が外れた弱い感覚(いしき)に呆(ぼ)んやりしている闇夜を従え俺の身内(うち)には一杯拡がる夢想(ゆめ)の舞台が大きく居座り温(ぬく)みを講じ、眠りながらに自宅で知り得た虚無を信じる未熟の灯篭(あかり)に薄ら咲き得た〝夜勤〟の仕事を再興していた。過去の夢想(ゆめ)など気儘に描(か)き採る想いの丈など次第に返って自在を眺め、俺の感覚(いしき)は〝キャンプ〟を離れて知己(とも)から離れ、未熟に育った〝女衆(めしゅう)〟を離れて自室に乗じて詩人を装い、微温(ぬる)く咲き得た人生(いのち)の華(かて)など苦労を知りつつ孤独に謳い、謳歌して行く「明日(あす)」への岐路には一向戻れぬ試算が準じて魅力と成った。始めから在る元の職場に心身(からだ)を落して元気を灯し、活気に満ち得る職場の空気は俺に纏わり独学して活き、俺から離れた職場の規律は暗(やみ)に灯され煌々明るく、一つ処に積まれた労苦は宙(そら)を観ながら廊下を独歩(ある)く。凡庸ながらに感情(こころ)の志気など白紙を通して俺へと向くのは以前から成る不変の規則に十分(じゅうぶん)有り付き次第に見得行く夢想(ゆめ)の程度が俺の暗(やみ)へと行方を晦まし気丈を知る上、俺に纏わる自然の経過(ながれ)に不自然ではない。果してこれから俺のこの身にどれほど月日(つきひ)が出向いて在っても案外一線に倣って凹凸等無く、奇麗揃った事の息吹は粗大ながらに緻密に在って、俺の背後を知れずに牛耳る夢想の程度に相異の無い儘、無邪気に遊んだ幼語(ようご)の手数(かず)など白紙に奏じた自活の跡では何も無いのが普通であろう。如何(どう)して斯うして俺の周辺(あたり)は何時(いつ)も吹き遣る涼風(かぜ)にやられて散々散らされ独気(オーラ)が薄れ、闇雲の果て、昨日を知らずにきょとんと言うのは俺の表情(かお)など真向きに知らない暗(やみ)の言葉(きおく)が散乱している。明日(あした)の記憶を今日から講じて眠りに就くのは何時(いつ)しか出会った牧師の空想(おもい)に着念しており、俺の言葉(きおく)と孤独の末路は人間(ひと)に這い寄る風紀に乱れず一糸纏わぬ華麗な華麗な姿勢(すがた)は俺に向き得た〝始動〟の周辺(あたり)に立脚するまま何にも満たない苦労の安堵は何処(いずこ)へ咲き得る嗣業の在り処に座して落ち着き、遂には失(き)えない俺の人生(いのち)を鵜呑みとしたまま明日(あす)か来るのを待ってたようだ。俺はこうして自然に生れた幾多の岐路など独歩(ある)いていながら遠空(そら)に芽生えた一等星など明るく眺めて黙々精進(すす)み、明日(あす)が知るのを愛していながら昨日に自生(そだ)った自分の影など踏み締めている。
知らず知らずに夜が深まり月が流行(なが)れて星さえ抜け落ち、通りすがり俺を囲んだ白い施設は旗揚げしながら仕事を決め行き俺へと居座り、黙々彩る〝職場〟の陰には何時(いつ)ぞや見知った〝洗濯物〟など光った床へと軽く転がりふわふわ在るのが、俺の眼(め)からも直ぐさま気付かれ俺の目前(まえ)では変わらぬ経過がほとほと身重に掛かって行った。俺の心身(からだ)は漸く職場を牛耳り自分の仕事に相槌打ちつつ慣れて来始め、ほくほく自生(そだ)った〝覇気〟への一途を好く好く凝らした眼(め)のうち身のうち心の内へとしっかり立て据え丈夫と成り活き、上司を待たず内にも独りで肢体(からだ)が動き行くまで志気を携え熱気を保ち、軽く往(い)なした過去への狂気を上手に携え運んで行くのが職場(ここ)で行う仕事なのだと手早に頷き独歩(ある)いていたのは職場(ここ)へ這入って三日(みっか)が過ぎ得た夜中であった。一つの仕事に歯止めの利かない難事(なんじ)が起きても次第に流行(なが)れる経過の内にて応用を知り、昨夜(ゆうべ)に根付いた両脚(あし)の枷には「明日(あす)」をも待たぬ徒労が飛び交い身軽を保たせ、如何(どう)とも言えない苦労話に美談が咲くのは新たな仕手にも透って在って、斬新極まる〝魅力〟の程度は俺の心身(からだ)を呑気に包(つつ)んで衰退して活きましな「明日(あした)」の探して行くのに一つ歌舞(かぶ)いた自信を持たされ可笑しく在った。経過が早まり緩々流行(なが)れた職場の空気は果皮の態(てい)して中身を保(も)たず、何処(どこ)へ向くのか一向知れない熱気の渦など人間(ひと)の空想(おもい)へ漸く逃れて姿勢(すがた)を失(け)し活き、俺の心身(からだ)はそうした流行(ながれ)に這い寄り重なり、何時(いつ)しか見得ない職場の朝へと真向きに出向いて直進して行く。そうする内にも俺の傍(そば)では洗濯物など平々(ひらひら)転がり密室(へや)へと居座り俺の来るのを静かに待ち活き光った様(さま)にて、俺の記憶はそこに居座る洗濯物から他の密室(へや)へと流行(なが)れて落ち着く未(ま)だ観ぬ洗い物まで具に捜して肢体(からだ)を動かし、スライドして行く俺の記憶が〝洗濯物(もの)〟へと辿り着くのは得てして長い経過(とき)さえ抱(だ)かないものだと動いて行くうち堂々気付いて根深(ねぶか)に在った。白い霧など薄ら晴れ行く職場の周辺(あたり)を白々明け行く朝の気配にほっと絆され、遠いお空へ還り飛び行く一羽の小鳥が奇麗であった。独りで歩いた俺の肢体(からだ)は職場に散らばる洗濯物など奇麗に揃えてじいっと固まり、他に散らばる〝汚れ物〟など集める為にと漸く覚えた検索技術を揚々手に採り上手に操り無難であって、暫くそうして朝が来るのを明るい記憶を引き寄せ始めた無頼の覚悟へ取り付けながらに静かに静かに、静まり返った職場の廊下でぽつんと浮き立つ自分を観て居た。観ている内にも経過(けいか)は変らず、無関(むかん)を呈して轟々流行(なが)れて俺の周辺(あたり)を強靭(つよ)く認(したた)め晴嵐(あらし)を携え、濁り始めた白亜の空気へ湿気が伴い白壁(かべ)が割れ出し、罅入(ひびい)る空虚な文句は俺の言葉(きおく)に強くのめってまっしぐらと成り余裕(じかん)は抜け落ち、俺へ対した終着(ゴール)等には新たな有事が難を引き連れ奇麗に成り立ち、次第に晴れ生(ゆ)く外界(そと)の熱気は俺へ対して寡黙であった。
そうした経過へ〝仕事〟が乗り出し俺の心身(からだ)は多忙に巻かれてちょんちょん言動(うご)き、誰も無かった職場の内にて周辺(あたり)を見廻す挙動に駆られて一旦落ち着き、それから離れた自分の仕事へ追い付く迄には多重を極めた仕事の量など為さねば成らぬと、「明日(あす)」を見破る試算の末路に一匹落ち得た〝骸〟を拾って優雅に成り立ち、俺の思惑(こころ)は昨日から鳴る冷風(かぜ)の音へと次第次第に傾聴して行く。時間が無いのを分っていながら俺の余裕(ゆとり)は次第に組まれる仕事の〝厚着〟へ呆(ぼう)っとして活き、「明日(あす)」さえ見知らぬ大きな不問へ悶絶するのを何も分らぬ未熟を拡げて〝どん〟と飛び立ち夜空へ還った小鳥(とり)の様(よう)にも翼を揃えて奇麗に在りつつ自活が呈した俺への愚問をゆっくり眺めて投げ出しにして、俺は「明日(あす)」の朝まで何とか急いで仕事を終らす徒労に暮れ行き〝蛻〟を愛しここまで馴らせた自分の仕事に何とか整う終止符打とうと何時(いつ)でも今でも躍起であった。しかしそうした徒労は終りを観(み)せずにからっと過ぎ去り、俺の目前(まえ)には大きく拡がる〝白亜〟だけ在り機敏に言動(うご)いた〝熱気〟の程度は「朝」を待てずに浮遊しており、制限時間にのっぺり浸かった努力の瞬間(とき)には誰にも知れない密室(へや)の温度がゆっくり退(ひ)くのを傍観して居た。
時間が過ぎ去り夜中に仕上げる〝洗濯物〟から順繰り気分が削がれて行って注意を保(も)たない俺の気配が漸く次の仕事へ視線を合せて独歩(ある)いて行くのを職場に揃った用具等にはしっかり掴める対象(あいて)に落ち着き具現(かたち)を灯し、そうした頃から〝用具〟を通して俺の記憶が容易く仕上げる他者の気迫を巧く汲み取り気丈に仕上げた具現(かたち)の姿勢(すがた)は瞬く間にして上司や同僚、看護婦等へも姿勢(すがた)を化(か)え活き活発成るまま俺の目前(まえ)でも傍(よこ)にも〝羽(はね)〟を落さぬ小さな躍動(うごき)に総身を任され、宙へ入(い)っては影さえ落さぬ無造(むぞう)を引き連れ無体に落ち着き、透った肢体(からだ)は周辺(そこら)を独歩(ある)いた足音(おと)を鳴らさずあちこち廻って俺へ対する注意の端(はし)など一向灯せず直立した後(のち)、夢游を呈する〝骸〟の態(てい)して俺へ近付く自身の程度を気取れぬ具合にそっと低めて弱々しいまま無謀を極めて夜中の周辺(あたり)を徘徊していた。夜中の一時に職場に敷かれた畳に座り、五時の記録をせっせせっせと書き込み始め、記(き)されたシートは夜に静まる利用者達への生活(くらし)の仔細が予測に添えられ虚偽に任され、総身を乗り出す個人の脆弱(よわ)さが哀しい程度にあたふた流れて他の誰もは一切見知らぬ密室(へや)の内での記録へ落され朝来る看護婦達へはその日を決め行く薄いベールがあやふやながらに確立して活き、俺に浮んだ八百長などには華(はな)が添えられ向かう他人へ素知らぬ表情(かお)して生きて行くのだ。夜中の一時は五時と成り行き、華(あせ)を掻き得た俺のシャツには薄ら滲んだ労苦が灯ってうっとりして在り、決った地獄に何時(いつ)もしている八百長(いんちき)等への配慮を忘れず辟易して行く俺の正義は丁寧ながら地声を抑えて滅法静まり、他で働く夜勤者達への暴挙を灯らせ俺の懐(うち)にはひっそり立ち得る悪い企図さえ穏やかに在る。先輩職員、同期の職員、若輩職員、後輩職員、総てが働く夜勤の職場にぽつんと敷かれた一階部署での俺への空間(すきま)は、白く立ち得た白壁(かべ)が騒いで丈夫を保ち、「明日(あす)」を見知らぬ怪訝を浮かべて冷笑して在り、俺の未熟を如何(どう)にも成し得ぬ鬼畜とも化す〝正義〟の地声(こえ)など、何をも観る間(ま)もこっそり惜しんで他の職員(ひと)への愚かな視線を機敏に咲かせた注意を操(と)りつつすっすと独歩(ある)いてやがて迎える朝の空気へ仄(ほ)んのり和らぐ未開を携え俺の背後は灯(あか)りを見知らぬ虚無の空気に巻かれて落ち着く。落ち着き始めて成り立ち始めた人間(ひと)を呑み込む毒気(くうき)の名残は俺を跳び越え〝生活(くらし)〟を跳び越え、人間(ひと)を越え活き他人(ひと)を見て採り、企図され立ち行く孤高の悪戯(わるさ)に一向変らぬ覇気を採りつつ真綿へ包(くる)んでじりじり固め、失敗しないで遂行させ行く助成を欲しがり飛躍して行き、直接仕える仕事の用具(ツール)は最新式にて気丈をより好い法にて結果を見据える俺へ課された未熟の一連(ドラマ)を夜は夜にて余りの付かない妙な陰へと順々独歩(ある)いて静まり果て得た。そうして悩んだ〝未熟〟の果てには一度憶えた夢想(ゆめ)が立ち活き俺を摘まんだ〝孤高の司祭(あるじ)〟は随分嘲笑(わら)って直立して在り、人間(ひと)の〝正義〟を程好く騙せる斬新(あらた)な機能を具に操(あやつ)り夜中(よる)を沈ませ俄かに燃えて、激しく成り得た俺の臭気は華(あせ)を散らして闊歩して在りどんどん深まる徒労の遊戯(あそび)に没頭して活き他人(ひと)を退(の)け遣り、〝八百長(やおちょう)〟等さえ容易く記される記録シートの下方にはもう誰に見得ても不備(ておち)の無いほど奇麗な文字にて淡い「明日(あした)」を約束していた。
夜中に静まる寒気(くうき)が尚更俺の所業を手玉に取っては志気を曇らす朝の空気へ俄かに遊泳(およ)いで堂々と在り、利用者(じゃくしゃ)の夢想(ゆめ)さえ容易く蹴散らす強靭(つよ)い決起へ我が身を小躍(おど)らす脆弱(よわ)い仕草は俺へ懐いて空想して活き具現(かたち)の無いまま〝都会〟へ澄み行く新たな〝田舎〟を出納し得る我儘なんかを上手に観れば、正直話した空想話に如何(どう)でも好いほど気泡が浮び、俺の〝企図〟にはそれほど曇らぬ〝正義の未熟〟が白壁(かべ)を壊した新たな視線を巧く燻(くす)ねてこれより始まる展開(ドラマ)の様子を拒ませて来る。こんな職員に、悪い職員に、こんな悪い職員に具に仕立てた悪い職場にふと又小さな〝正義〟を観て採り、淡い期待を懐(うち)へと潜めて他人を見知れば、脆弱(よわ)い〝人間(ひと)〟など直ぐさま孵化する巨人が俺の思惑(こころ)へ戻り始めて虚無を表す〝怪訝〟な法など全て捨て去り反省して活き、悔いの尽きない朝まずめの頃、俺の姿勢(すがた)は「明日(あした)」を捜して暴挙を止め行き真っ直ぐ生長(そだ)った未熟な「明日(あした)」を何より愛する正しい体裁(すがた)へその身を化(か)わらせ、二度と戻らぬ〝正義の誓い〟へ一歩進んで邁進して行く〝孤高〟の俺へと昇華していた。〝遊泳(あそび)〟を失くした〝孤高の俺〟には華(はな)など観得ず独走(はし)る事無く、真綿に包(くる)まる〝無尽蔵〟など虚無を捕えて爆睡して居り、〝二度と還らぬ職場〟を目指して宙へ漂う我が身の姿勢(すがた)は徒労を訝り「明日(あす)」を投げ棄て、元気を灯した〝低俗・巨人〟を巧く馴らして凡庸に在り、職場を囲った湿気(くうき)の在り処を緻密に捜した俺の思惑(こころ)は出所(でどこ)を探して揚々気取り、「明日(あす)」の来るのを今か今かと手招きしながら非凡に有り付き、予言の咲かない無駄な努力を一向止め得ず過去(きのう)まで観た新たな視線を我が足元(もと)へと敷き、到底知り得ぬ人間(ひと)の扇動(うご)きに注意を取られて萎(しな)んで在った。宙へ漂う俺の〝企図〟には好く好く跳ね得た試算等さえ表情(かお)を隠して寄り付きもせず、〝意味〟を失くした人間(ひと)の当てなど俺へ跳び付き引率し得るが暗(やみ)へ紛れる人間(ひと)への網羅が執拗成るまま〝真綿〟に包(くる)まり用を足すまま要を得ぬ為、俺から飛び得る過去(きのう)の夢想(ゆめ)には何も無いのが凡庸(ふつう)と成り着き思惑(こころ)を消し得る最期の砦は今日へ敷かれた絨毯(どだい)を講じて新たに輝き明日(あす)を観ぬまま無数に散り行く糧へ落ち着き祈りをし始め、俺が出向いた薄い明日(あした)は〝ベール〟を剥がされ正味を保(も)たされ俺の前方(まえ)でも他人(ひと)の目前(まえ)でも一向変らぬ不埒な態度へ屈強成るまま幸(こう)を結んで固く成り得た。そうした〝空気〟に俺の精神(こころ)は緩々流行(なが)れる瞬間(とき)を見据えて描写して行き、懐(うち)へ仕舞った白紙の上にはぽつんと置かれた無頼の長者が温もり知らずの独歩を勝ち取り「明日」を見知らぬ脆弱(よわ)い吐息に一端(いっぱし)向くまま気丈を認(したた)め時計を隠し、すんすん浮んだ密室(へや)の空気は紫光(しこう)を灯して上々跳ね活き、紫色した淡い空気が瞬間(とき)を逃がして座して生(ゆ)くのが立派に立ち得た俺の眼(め)からは気取る程度に輝いていた。
夜勤の仕事を終える前から他人(ひと)に伝える申し送りの仔細を考え、如何(どう)して不備(ておち)の無いよう公示するかをひたすら模索し暗(やみ)の内では俺の巨躯が奮う。そのうち独りに宿った想いの内では如何(どう)にも解(と)けない壁など見出し〝他の人ならどんな感じに収めて行くのだろう〟とぽつぽつ柔いだ両手をぶら下げ暗(やみ)の内にてほろほろ独歩(ある)いて歩き廻って、既に見付けた洗濯物など上手に手に取り片付けながらも、「明日(あす)」が来るのを少々恐怖を引き連れ予想しながら周辺(あたり)一面散らばり始めた空想(おもい)を片手に堂々巡りの試算に暮れ行き暗い内(なか)でも現行(いま)を活き抜く活気を呑んだ。勝気を手にした俺はそれから自分に課された仕事場(もちば)を離れて揺ら揺ら透り、透明色した躰を従え、自分と同様、他の部署でも夜勤を仕上げる他力の気迫に少々引かれて空(くう)を睨(ね)め付け、慌てず怯まず保身・前進、狂わぬ時刻の進みに自身を当て嵌め歩先(ほさき)を緩めず、坂を上(のぼ)った熱気を灯して益々透り、誰にも知られず俺はそこでも他人(ひと)の背後へじっくり立ち得て他力より成る赤い記録にその日その日の具(つぶさ)が流行(なが)れて斬新成るまま誰にとっても不備(ておち)が無いのを嬉しく見て取り悠々紡いだ勇気の華(あせ)など未熟に灯って白熱して活き、好く好く割り出し在り処を射止めた他部署の日誌(きろく)に程好く相対して行く自分の勇姿を真横に見て取り俺の躰は益々透って誰にも知られぬ淡い成果を繰り広げている。しかしそうした日誌も他人(ひと)が仕上げた成果に寄っては他部署に仕上がる熱気の要(かなめ)が見事に立ち活き仕立てる物にて、俺の〝成果〟は結果に及ばず〝結果〟へ辿った経過を観るのに必死と成り着き仄(ぼ)んやりしたまま志気さえ剥がされ、何処(どこ)へ向けども一向返らぬ憤悶(ふんもん)ばかりが焦りを引き連れ小躍(おど)ったばかりでそのうち見果てる夢想(ゆめ)の用意は俺へ対する力量不足を露わにするうち萎えて仕舞って、自分の心身(からだ)がこの果(さ)き何処(どこ)へ懐いて透れで好いねっとり曇った両眼(まなこ)にしっかり映って功を成すのは何時(いつ)か見知った狡猾(ずるさ)から成る悪戯である。記録の仕方を今いち解らず上々手に取り暗(やみ)に操る自分を眺めて熱気を吐いては終着(ゴール)が見得ずに、他部署(ほか)へ居座る誰に寄っても安心し得ない気弱を手にして衰退しながら俺へ宿った覇気の程度は、身近に置かれた同僚から成る弱い日誌(きろく)に瞬時に眼(め)が活きぱらぱら繰り出し、何時(いつ)か見初めた小畑明美(おばたともみ)の軽い日誌(にっし)が手元へ落ち着き俺の為にと目立った為に、俺の思惑(こころ)はそうして流行(なが)れた彼女の手記など頭上(まうえ)に掲げて喜び始めて〝これこそいまやる仕業(しぎょう)の初歩(いろは)を記(き)してあるから、俺にとっては丁度適する見本(テキスト)になる。これを真似して公式記録を模倣し遣れば俺の不備(ておち)は誰にも知られず朝へ向くのも決して苦じゃない。日誌の体(てい)などどれもこれもがそれ程変らず仕上げて仕舞えば微細な異(い)などに気付けやしまい…〟等々在る事無い事ぶつぶつ言いつつとぼとぼ独歩(ある)いた暗(やみ)の内では見事に灯った紅(べに)の時雨が彼女から落ち、俺の邪気など直ぐさま隠れて気色を手にした。小畑明美(おばたともみ)はこうして曲げられ俺の手に落ち、落ち着く内にて次第に活き行く紅(べに)の体感(いしき)を手中に寄せつつ俺の元へと一つ、一つ、生気を削がれて凡庸(ふつう)を知り得た。他部署(ほか)の日誌(にっき)に明確なるまま上肢を立たせて遊泳して行く赤い決起を射止められずに、程々小さく〝暗(やみ)〟に纏まり首を擡げて独歩(ある)いた俺には、如何(どう)して自活を立て得る算段等を他へ延ばして立てれば好いのか要を得ず儘ほとほと疲れた肢体を操(と)りつつ彼女を見付け、彼女に下がった日誌の初歩(いろは)を上手に知りつつそのとき自分に要る物だけ採り丈夫に独歩(ある)けた自信を知ったが、要を得ぬまま見過ごす他部署(たぶしょ)の日誌(きろく)に中々灯らぬ目的(あて)を気にして俺の〝自信〟は益々遊泳(およ)いで躍起を齧り、あたふたして居る鼓動は現行(いま)にも仕事の安易を貪る程度に胡蝶をし始め〝躍起〟と成り得たしどろもどろの体裁等には〝紅(べに)〟を濡らした彼女の生気が繁(しげ)く灯され平らと成るのを、俺の覚悟は調子を合せ見送りながらに「明日(あす)」が来るのを漸く待った。
「なんや。案外簡単。簡単過ぎるやんけ。偉い楽やな。」
職場の暗気(くうき)に和み始めて漸く知り得た気楽の風味に一歩二歩前進して活き、自分の居場所を然(しか)と定めて宙へ在ったが、俺の心身(からだ)はそれでも満腹し得ずに職場に埋れた長い廊下をてくてく独歩(ある)いて分散して活き、そこらかしこで揃えて採り得た元気を灯して活気を牛耳り、勝気に芽生えた悪戯(わるさ)の〝肢体〟は俺へ対して煌々燃え活き「明日(あす)」への闊歩を漸く揃った仕事の糧など〝安易〟に仕舞える初歩(いろは)を呈して毒気を失(け)し得て、そうして萎えた旧い空気は順々独歩(ある)いた俺へと近付き暗(あん)に敷かれた軟い手順を〝仕事を終え得る正味〟と呈して吃ってあった。次第に隠した邪気を手に操(と)り上手に使って自分を取り巻き、透った空気に同化するまま他人(ひと)へ流行(なが)れた気勢の在り処を分散させ行き分身させ行き、薄く躊躇(たじろ)ぐ哀れな陽気は他人へ跳び付き俺へは飛ばずに一向見得ない気色に埋れて強靭(つよ)さを示し、画し切れずの旧い部署など他部署(ほか)へ透って融合して活き幽体して生(ゆ)く新たな空想(おもい)は連想(ドラマ)を伝わり俺の〝蛻〟を愛でつつ失(き)えた。俺の思惑(こころ)はそれから間も無く自活を延ばして暗(やみ)に染められ、〝旧き〟を灯した他部署(たぶしょ)へ対して悠々独歩(ある)き、職場の暗気(くうき)にそれでも馴染めぬ未熟が奏され未だ分らぬ〝成果〟を捜して安堵を操(と)りつつ密かな徘徊(まよい)に具に見立てた嗣業を知り抜き疲れて在ったが、経過(じかん)の流行(なが)れにそれ程慌てぬ苦労を手にして衰退した為〝次〟に始まる展開(ばめん)の程度は既に憶えた奈落の企図にて生じて在った。奇麗な顔した俺の覚悟は始終を睨(ね)め付け遊泳(あそ)んであって、仕切りを外した丸天井(ドーム)を抜け出て別室(ほか)へ向くのは小さな覚悟を程好く暖め既に憶えた展開(ばめん)を操(と)りつつ独歩(ある)いて在るのが自然に在るなど、透った小声(こえ)にて体好く呟き俺の行方を大きく呈して沈黙して在る。沈黙せられて悠々構える魅惑の丸天井(ドーム)はあちこち散らばる経過(じかん)を気にして一所(ひとつところ)に集まり無冠で在る儘、そのうち始まる次の仕事へ俺を向かせて退(ひ)いて行くのを奇麗に操(と)りつつ白壁(かべ)を呈して、流行(なが)れる儘にて俺はそれでも自活を保(も)ち活き自分に透った幾多の経過を充分探して成長する内、〝申し送り〟の新たな活気が散らばる杜へと順々独歩(ある)いて用を嗜む。俺の周辺(あたり)をふいと覗けば伽藍とした儘ぴこぴこ動いたモバイル等にはそれまで流動(うご)いた気色が騒いで奇麗に成り立ち無数にあって、体裁(かたち)が調う夢想(ゆめ)の泡(あぶく)は俺へと返され華(あせ)を流した徒労の息吹は固陋を鞣して一過(いっか)して行く新たな名残を俺へと突き付け現行(いま)にも成り立つ夢游の在り処を脚色付けてはぶくぶくしている人間(ひと)の行方を捜してあった。仕事を終え行く俺の夢想(ゆめ)には要が成らずの試算が蠢き暗に伏された未熟が灯って躍起と成ったが、教室仕立ての丸天井(ドーム)の古巣は俺へ対して堂々成り立ち落ち着く周辺(あたり)に他人(ひと)へ着飾る勇姿を手にしてちゃんと佇み、両脚(あし)を傷めた俺の吐息は丸天井(そこ)を抜け出て廊下を渡り、全ての部署から丸く連なり階下に居座る大きな広間へ到着している。俺の肢体(からだ)はそれまで見知った職場ながらにそれと変らずきちんと在るのを瞬時に見て取り落ち着き始め、〝堂々巡り〟へ体を座らせ誰から見得ても可笑しくないほど姿勢を正した一投足(いっとうそく)へと総身を任せて大きく飛び立ち、一分遅れで制限時間にほとほと五月蠅い職場に流行(なが)れて無感を表(ひょう)し、皆が集まる引継ぎ場所へと大きく焦って辿ってあった。「一分遅れ」が大きく遅れた軌跡であったと俺はそれまで自分の軌跡に真正面(まとも)に対して騒いであったが経過(とき)が緩々俄かに吟じて在るのを見取ると直ぐさま駆け得た自分の仕種が物憂くならない夢想(ゆめ)を掴んで独歩(ある)いて在るのを真横に見て取れ、嬉しく成るのと懸命成るのが殆ど同時に脳裏へ流行(なが)れ、職場に組みする自分の立場を上手に辿って扱い得るなどこれ見よがしに諭した経過(けいか)に思わず縋って身軽を覚え、「明日(あす)」へ向くのが愉しく成り得た。そうして心中(こころ)に試算を付け活き野退(のっぴ)き成らぬ引継ぎ事項を手早く済ませる仕事を据え置く広間へ這入ると、何処(どこ)かで憶えた白衣の看護婦(おんな)が俺だけ見据えて上手に佇み、白い空気に仄(ほ)んのり微笑(わら)って自身の立場を確立してある。知らず知らず経過が騒ぎ、俺の背後へ薄ら流動(なが)れて自分の姿勢(すがた)が蛻の態(てい)して見得なくなる頃俺の両手は大手を振りつつ空を振り抜き何にも持たずに自在に有り付き、如何(どう)にも進めぬ両脚(あし)は静かに〝広間〟へ赴く兆しを見せつつ枷(くさり)に繋がれ、看護婦(おんな)の姿勢(すがた)が微かに揺れ浮き俺に対して大きく在るのを、俺の未熟は新参ながらに機敏に働き、曖昧ながらに怒調(どちょう)へ転がる上司の気勢に執着して居た。〝これは一体如何(どう)した事か〟と寝首を齧られ可笑しく在った俺の安堵は滔々流行(なが)れる経過に踏まれて一つと成り着き、俺の感覚(いしき)を遠くに投げては〝広間の様子〟を具に報せて〝堂々巡り〟の淡い虚空(そら)へと俺の盲想(おもい)を返してあった。色々力んで着想するまま白い蝶など感覚(いしき)を跳び抜き慌てて次なる思相(しそう)へ潜って行ったが、〝ドタキャン〟され得た俺の心算(つもり)は初春(はる)に冷め遣る花曇りにさえ宿を捉えず何処(どこ)まで行っても恐縮するので、今いち凍える躰は遠退き感覚(いしき)に根付いた故郷の道理は俺の元へは如何(どう)にも揮わず、「明日(あす)」の行方をさも空虚に照らして見送るなどして乱れた思惑(こころ)は音も発てない。看護婦(おんな)は途端に騒々急々(そわそわせかせか)、笑みを跳ね退(の)け俺へと近付き、
「遅い!何時やと思ってんの!?もっと早く来てくれないと…!」
と他の人へも聴かせる程度に堂々怒って流行(ながれ)に解け込み、俺の躰を宙へ遣るほど躊躇を忘れて品(ひん)を維持して、憎しみ在るほど未熟を呈した俺の尻などぱちんと叩いて死太く在った。初めに微笑(わら)った微妙な態度は俺へ向け得た気性には無く、唯々挙って集まる他の職員(ひと)からはらはら零れる情緒に対して向け得た美味にてそうした〝美笑(びしょう)〟を程好く拝した未熟の俺には看護婦(おんな)の廻した奇妙な性差にほとほと鞣され干乾び始めて、抜殻(もぬけ)を呈する気弱な両脚(あし)など如何(どう)にか斯うにか広間(ここ)から脱する淡い企図など頭上へ講じて算段してある。根光りしていた人間(ひと)の気力は試算を講じて〝引継ぎ〟して行き集団(ひと)に芽生えた孤高の動作に気勢を投げ遣り突伏(つっぷ)して活き、新参者なる小さな俺などそこへ辿れば何にも見知らぬ駄馬の孤独に遇(あしら)われて活き、如何(どう)にか揃った虚空の舞台(ばしょ)では後(あと)に咲かない観葉(かざり)の姿勢(すがた)を微温(まわた)に包(くる)めて無関(むかん)に在った。落ち着き始めた舞台(ぶたい)の装置は人間(ひと)へ跳び退(の)き暗さを生じて合点の行かない職場の風紀に大きく頷き徒労を配し、俺へ向かった〝気力〟の程度は気迫と成り着き初めて覚えた無関の連想(ドラマ)へ飛び立ちながらも、一つ処で蚕(レトロ)を想わす小さな空気を温床(ねどこ)に配して眠って在った。〝初めに覚え〟た看護婦(おんな)の容姿は軟く撓(しな)んで方々へ散り、俺へ向かせた微弱(よわ)い表情(かお)には痘痕が火照って粒と成り消え、女性(おんな)の気質へどんどん渡った脆弱(よわ)い腰には看護婦(おんな)の柔らが奪われ始めて広間(へや)へ彩る虚飾を表し物静かとなる。威風に撓(しな)んだ〝堂々巡り〟はこれまで見知った退屈(ひま)な流行(なが)れを経過(じかん)に見て取り小さく成り行き、看護婦(おんな)の容姿は狂々廻って後光(ひかり)を引き連れ俺の真後(うしろ)へ立脚したまま仁王に逆立つ気色を講じて紅潮して活き、透った表情(かお)には失(き)えた痘痕がばらばら騒いで空気を頬張り、化(か)わった姿勢(すがた)は最初に仕事の初歩(いろは)を憶えた以前(まえ)の職場に程好く居座る老練・熟女へ流行(なが)れて入(い)って、俺の元へは何時(いつ)に咲き得ぬ母性が温もり広間(みっしつ)成る儘、丁度途絶えた有頂の如きを俺から攫って遁走していた。
暗い夜道を程好く独歩(ある)いた俺の感覚(いしき)は光曜(ひかり)の騒いだ密室(へや)の内へとひっそり篭って這入って行っても如何(どう)にも解(と)け得ぬ未熟が転がり在る事無い事俄かに夢見て落ち着かずに活き、看護婦(おんな)に問われた時間の末期に宜しく揃えた活気を観てさえ俺のやる気は気迫を灯して自分の成し得た〝正義〟の在り処を他人(ひと)に伝(おし)えて立腹して居り、〝広間(ここ)へ来るのに如何(どう)してこんなに遅くなったか〟問われる間(ま)に間(ま)に俺の思惑(こころ)は粗暴に騒いで大きく成り果て、一糸纏わぬ生粋(もと)の姿勢(すがた)で気勢を張り抜き、掘り得た墓穴は折れから離れて冷めた独我(どくが)を故無(ゆえな)く操(あやつ)る権力者へと順々送られ小さく成り果て、俺の眼(め)からは仔細を言わない唯の空洞(あな)へときらきら輝き透って行った。
「ええ!?そんなに遅いか!?」
こう切り返した蛻の俺にはその後(ご)に続いた勝気の遣り取りに迄は熱気が続かず小言を謳った淡い気色に鈍さが生じて臭味が漂い、白い壁へとそれでも打(ぶ)つけた気性の程度を気迫負けした脆(よわ)い糧とは一切捉えず嗣業に張り得た小さな分業(ノルマ)は空転しながら俺の下(もと)まできっちり還って自体を根下(ねおろ)す。内心騒いだ看護婦(おんな)に対する怒調(どちょう)の延命(いのち)が如何(どう)とも言えずに憤慨して在り空(くう)に漂う自信の根城を故無く捜して黙々して在り、末に黙った犠牲(えじき)の体裁(かたち)は〝微温〟を透して〝熱気〟に振る舞い、〝勝気〟に小躍(おど)った「門前払い」は俺の目前(まえ)でも前方(まえ)にも、行方知れずの俺の路(みち)など目敏く透して歌舞(かぶ)いて在った。経過を呈する腕時計(とけい)を振り上げ看護婦(おんな)の目前(まえ)へとぽてんと落し、〝どうだ?今の時刻は規定の時刻に一ミリ程度に少し遅れた時刻にあって、お前が言うほど遠(とお)に過ぎ得た大昔にない!これでも俺の辿った到着時刻を大きく遅れた規則外れと押し通すのか!?〟と憤慨しながら多少に乱れた怒声を携え、後先知り得ず叫んで在ったが、当の看護婦(おんな)は〝ふうん〟と発して既に過ぎ足る時間の〝木馬〟を難無く見送り自活に寝入り、深く刻んだ〝回転木馬〟は縁(えにし)を定めに順繰り廻り、「明日(あす)」を訓(おし)えぬ教訓(ならい)の境地へ程無くしたあと俺の心身(からだ)を放置していた。そうして看護婦(おんな)は事に騒がず無感を呈して仕事を始めた。そうする内にも経過(とき)は撓(しな)んで続行して活き、俺の周囲(まわり)は既に遠目に当てを下げ得た従業員(ひと)の群れなど俄かに挙がって流動し始め、そうした内(なか)でも俺の心中(こころ)は唯々、〝申し送り〟の手順を忘れて呆けてあって、そろそろ騒いだ焦りの境地に自分を追い遣り苦労して居り〝努力で講ずる策の態(てい)には何時(いつ)でも見知った限界(かぎり)が在る〟など真面に対して囁いてある。忘れた道理が偉く跳ねては天井(そら)まで届き、俺の精神(こころ)を重々際立て暗黙(やみ)を育てて外方(そっぽ)へ放り、他人(ひと)が黙して騒いだ軌跡(あと)など、矢庭に見付けた安堵を拾って独歩(ある)いて行っては、薄ら茂った白壁(かべ)を見付けて踏ん反り返らず軌跡(あと)から逸れ得る暗算(やみ)へと這入って安着(あんちゃく)してある。それでも通らぬ次元の内(うち)には具象(かたち)が遊泳(およ)いで堂々成り立ち、立ち行く姿勢(すがた)が人間(ひと)を伝(おし)えて俺の目前(まえ)では一切透らず途方を仰いだ真摯の両肩(かた)には安易(やす)く積まれた〝妬み〟の程度が以前(まえ)にも増して俺の仕種を睨(ね)め付けている。俺の覚悟は広間(ここ)へ留まり、一糸纏えぬ体裁だてらに表情(かお)を隠して独唱し始め、脆弱(よわ)い記録を手元へ置き遣り〝堂々巡り〟に真向きに対して在る事無い事語って行った。
申し送りを不満に仕上げて誰も見知らぬ密室(へや)へ入(い)っても熟々(じゅくじゅく)騒いだ熱気は冷めずに〝堂々巡り〟の人間(ひと)の流行(ながれ)にぽつんと突っ立ち、低く嘲笑(わら)った機嫌を捉えて屈んで在ったが、俺の心身(からだ)はそれでも何かと物々(ぶつぶつ)呟き他人(ひと)へ突き出た気迫(のろし)を手に取り経過(じかん)を乱され透って行って、挙句の果てには何とも言えずの達成感など気儘勝手に細めた両眼(りょうめ)に巧く捥ぎ取り粛々寄り添う「明日(あす)」への気勢(のろし)を講じてあった。此処(ここ)で逃がした成功への灯(ひ)を如何(どう)にも欲しがり俺の心身(からだ)は広く遊泳(およ)いで葛藤して行く〝茎〟の一流(ひとつ)に巧く微笑(わら)ってあったが、広間(ひろま)を抜けても寒さが募って温(ぬく)みを帯び得ず他人(ひと)の〝気迫〟が何処(どこ)で活き行き並んで在るのか、一向分らぬ暗黙(やみ)を先取り繁々凄々(しげしげすごすご)、遠い終着(ところ)へ辿って行くのが精一杯にて〝蛻〟の辛苦は俺を見限り孤島に遠退く。そうして独歩(ある)いた広間の周辺(あたり)は泥濘さえ無い晴れた様子に撓(しな)んであって、俺の様子は〝黒子〟を着飾り人間(ひと)の熱気に上手く解(と)け得て人間(ひと)から離れ、如何(どう)にも成らない個人の孤独を〝壁〟と呈して達観して活き、荒れた廊下に一つ温(ぬく)もる小さな敷地を具に講じて空気で囲い、〝魅惑〟を灯した自然(じねん)の小部屋は周辺(あたり)に懐いて俺をも透す。そうして懐いた〝空気〟の果てには夢想(ゆめ)に冷め行く気楼(きろう)が生じて常識(かたち)を採り添え、容易(やす)い白壁(かべ)には扉が現れ人間(ひと)など通し、俺の躰もそこへ懐いて這入って行った。一度逃がした失敗等からその時用意するべき糧など芽生えて俺の気力は自信へ目掛けて闊歩して活き、〝堂々巡り〟の淡い〝敷地〟へ心身(からだ)が這入って解(と)けて行くのを水ほど透った白紙へ認(したた)め上気を保ち、広間(ひろま)を出てから広間(ここ)へ来るのに一つ連ねた廊下が現れ自然に解(と)け落ち、俺を導く一通(みち)と成り得て俺は迷う事無く次の広間(ひろま)へ辿って行けた。好(よ)く好(よ)く辿った廊下を見遣るとどうもそれまで〝失敗〟して来た広間(ひろま)から出る人間(ひと)の発声(これ)など容易(やす)く立ち得て自然に落ち着き、俺の心身(からだ)が先の広間(へや)からそうそう遠くへ離れてないのを俄かに表し静かに在って、俺の思惑(こころ)は感覚(いしき)を連れ添い先の広間(へや)から隣部屋へとすんなり通った明度に立ち得た。しかしそうして立ち得た隣の広間(へや)には以前に知り得た河田と西田にそっくり並んだ小癪な若輩(やから)がすんと立ち得て微動だにせず、未だに自信を上手く掴めぬ俺の体裁(ようす)を巧く見据えて冷たく振舞い、ぎょろっとした眼(め)で俺の周辺(あたり)を仔細に観た後、各自へ課された排泄介助に静かに移って黙って在った。河田と西田は俺の心身(からだ)が広間(ここ)へ来る以前(まえ)、初歩(いろは)を知り得た初(はじめ)の職場で充分輝き、輝き尽して干乾び始めた先輩・同期に双方分れる女性(おんな)で在りつつ腹黒さを保(も)ち、我が物顔にて職場を牛耳る千両役者に図太く成り得た雌の怪(け)にある。総じて男を馬鹿にし舐めて、自分に従う弱気な男を揚々飼っては気丈を示し、示し終えれば刺激欲しさで無謀な賭けをし女性(おんな)に参った九度(くど)の気質を充分逆立て男女へ対し、目下輝(ひか)った常理(じょうり)の総てを両手に掬って舐める姿勢(すがた)は堂々足る儘、少し足りない未熟の仔細を露わにしている。俺の未熟は晴嵐(あらし)を待ち侘び暴挙を灯し、白壁(かべ)に懐いて革命(よく)を知るのを如何(どう)にも嫌って逆立ち始め、新たに居座る女性(おんな)を観ながら宙(そら)へ失(き)え行く丈夫を追い駆け哀しくなりつつ、女性(おんな)の微温(ぬる)さを殺し切れない悔しさばかりが悲鳴を挙げ出し空虚に漏れ活き、〝思った事など容易く言うのが如何(どう)してこれほど労を要して、要らぬ固さに対峙して行く自分の愚弄を見据えて行くのが男女に懐いた仕業にあるのか〟、滔々流行(なが)れる広間(へや)の湿気は俺から離れて上気を生やし、根底(そこ)へ流動(なが)れる熱気の在り処は俺に隠れて散乱していた。
広間(へや)の熱気に退屈(ひま)を知り抜き二人を消し行く瞼は揃って重い帳に身体(からだ)を閉ざされ視界を曇らし、次に拡げた明度の果(さ)きには、俺に落ち得た思春の学舎が揚々灯され、範囲(クラス)を掲げたプラカードには〝三年四組〟等と拙く大事に黒い活字で記(き)された模様が呈され在った。それを観た瞬間(とき)、俺の脳裏は辷った態(てい)して一流(くき)から漏れ落ち、得体知れずの学生などが無機に宿った体を呈して俺の目前(まえ)へと現れて居た。中学・高校二つを透して連なる空間(すきま)は俺を連(つ)らまえ物々(ぶつぶつ)語り、知らず内にも範囲(クラス)は仕上がり田尻、佐田良(さだよし)、奥田と塩田を巧く違(たが)えて表せていて、舞台は総じて高校となり、俺の感覚(いしき)は二者を感じてほくほくしている。四人の気色は気配だけ観せ具体を言わない因業(いんごう)から成る姿勢(すがた)を講じて拡散して在り、俺の感覚(いしき)はそれまで得て居た失敗等から挽回図った空慮(くうりょ)へ飛び付き仲間を求め、自分と同じに介護に就き得た一途(いっと)を辿って奥田を呼び寄せ、奥田の記憶が介護に着き得て次第に膨らむ許容を知りつつ抱擁され得た俺の孤独は褒美を欲しがり彼を据え置き、〝申し送り〟の仔細な続きを彼へと宛がい彼を通して周囲(まわり)から得る小さな温(ぬく)みを拾ってあった。課程が終って気楽を知りつつ、ふっと周辺(あたり)へ注意を向けると田尻が身近にひっそり在るのに目敏く気付いて周辺(あたり)を見廻し、彼女の周囲(まわり)に何時(いつ)も付き得た鶴崎有美の可憐な姿勢(すがた)を隈なく捜して黙って在ったが、鶴崎有美の幼女の容姿(すがた)は煙(けむ)に巻かれて透ってあった。
「寝たきりの人が風邪気味ではなく、流動食と痰が喉に溜まって、それ故見た目は風邪に見て取れ、喉の奥には粘々(ねばねば)固まる粘稠痰など執拗(しつこ)く流行(なが)れず人を悩ます。だから誤嚥に注意ですな。」
と感覚(いしき)を逆行(のぼ)って自分に辿れば俺の台詞は引き継ぐ際にてこんな内容(こと)など伝(つた)えたそうで、公示され行く引継ぎ事項に全てを固める終止符など打つ白壁(かべ)に対してだんと居座り腰に根を保(も)ち、俺の感覚(いしき)は奥田を捕えて想像(うち)へと沈め、輝き立たせてそれから暫く活気を灯せる自分自身の相手とした儘、緊張せずとも不満を拭える夢想(ゆめ)と間見得(まみえ)る〝申し送り〟に自信を認(したた)め環境(あたり)を認(したた)め、誰に見得ても充分話せる美談の行方を知らず知らずに俺の心身(からだ)は追い掛けていた。
固まり始めた夢想(ゆめ)の型(かたち)に逆上せる程度の逆境(さかい)が現れ黄金色した豆九辺りに犬の糞とも人の糞とも見分けの付かない利用者がした人糞が在り、瑞々しいまま久し振りにも派手に漂う臭味に落ち着き俺の心身(からだ)は一旦退(さ)がってめそめそして在り持ち場を失くし、排泄介助に勤しむ頃にはそうした糞など手に付きそうにもなり嫌気が差して、一度、それが元で介護の仕事を辞めようかと左往(さおう)して居た。
~坩堝~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji
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