母は、

低空浮遊

母は、(二十首連作)

「写真では綺麗でいたいの」ドレッサー見つめる母の細い眼差し


への字口 感情殺し唾を呑む 父の言葉で変化する母


夕方の煮物の匂いに誘われて 「ただいま」響く 暗いキッチン


ガタガタとミシンが走る音がする ナップサックに心躍る日


田んぼ落ち汚れた靴をひた隠し 翌日庭に干されてあった


自転車でカルガモ真似てあの街へ どこまでも行ける気がした夏


寒い日にこたつに入ったジーンズが 小さな愛を伝えてくれる


しわ深い荒れたその手に反抗し 振り解くけど繋がったまま


「連絡がない方がいい、大丈夫」つぶやく母の背中寂しく


膨らんだ腹を撫でてはあの人もそうだったかな にやけてしまう


「あの子はね、」話す母の目輝いて 私の心薄汚れていく


子守唄 思い出せないなぜだろう あのメロディーで眠ってたから


まめに塗るハンドクリームべとついて 母のあの手が反面教師


帰省して冷蔵庫見る あの頃に好きだったやつ詰まってる


「お母さん!」響くサイレンうなだれる 帰ってきてよ、ここにいるから


教えてよ お母さんはさ、何が好きなの? 知らずに生きて知らずに死ぬの


片麻痺で脱力した手握りしめ 保湿剤塗り無言で帰る


幸せは他人の尺ではかれない わかっているけど幸せだった?


包み込む玉蟲色の泡になり 私のことを見守っててね


抱きしめた我が子の顔が滲んでいくと この世界から守りたくなる

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母は、 低空浮遊 @tysno03

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