12
箱。
「ピー」というほとんど正弦波に近い音を発する。少し不快。
特徴的なのは一つの側面に古めかしい物理ディスプレイがついている点だ。カラフルな長方形が敷き詰められた静止画を表示している。意図は不明。ボタンやダイヤルも備えられていたが、触ってみても反応はなかった。
薄暗い部屋の中で光る箱はどこか郷愁を感じさせた。鳴り続けるピー音も、音は変わっていないはずだが、単なる正弦波以上の情報をわたしの耳に届けているようだった。それはわたしも忘れていたわたし自身の記憶。
昨日の水が不味かった。
濡れたコンクリートの上で滑って転んだ。
あの時のジャガイモは結構重たかった。
冷凍肉じゃが美味かった。
数えなおす度に星の数は変わった。
所長の靴底には穴が空いていた。
カノと一緒に食べたかき氷の味はストロベリーだった。
わたしはかき氷が好きだった。
父の腕は大きかった。
わたしはセントラルを目指していた。
わたしの名前はヌ←@♯◉】∂〓々!?
まずい
変な箱の部屋を出た。
あの部屋にいる間、わたしは取るに足らない記憶を思い起こしているかのような錯覚に陥っていた。箱は記憶を掘り起こしていたのではない。記憶を吸い取っていたのだ。
少し混乱している。うまく文章が書けない。
わたしの名前は???yyyyyk???。
あぁ、大丈夫だ。
いったん寝よう。
おやすみなさい。
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