023.聖女、機械人形を召喚する
「マキア・クロノギアですか」
ステップアップガチャを回した翌日、私は異次元ハウスの一室で何度目になるかわからないつぶやきを漏らしてカードを眺めていました。
「主様。その呟き、何回目なの?」
「そうですな。それにここまで喜ばないとなるとマキア様は悲しまれるかもしれないですな」
「それもそうですね。すみません」
マキア・クロノギアは機械人形ですから悲しむという感情があるかどうかはわかりませんが、確かに失礼な反応をしてしまったかもしれません。
しかし、マキア・クロノギアですか。
「そんなに悩んでどうしたのよ? マキア・クロノギアってやつの性格に何か問題でもあったかしら? わたくしが知る限りでは問題はなかったと思うのだけど」
「性格に問題があるわけではないんですが」
実際、マキア・クロノギアは機械人形ということもありマスターに従順な性格をしています。搭載されている言語プログラムが高度であるという設定もあり、皮肉や冗談も言えるほどボキャブラリーがある高性能な機械人形ではありますが、従順さでいえば全キャラクターの中で最も優秀といえるキャラでしょう。
問題は、その高性能すぎるが故の能力の高さ、それによる弊害なのですが。
「まあ、考えすぎてもしょうがないですね」
「そうよ。さっさと召喚してあげないと可哀想じゃない」
「1日悩んだままで召喚していないですからな」
二人にうながされて、持っていたカードを実体化させます。
光が人の形になって出てきたのは近未来のようなメカニックな戦闘スーツに身を包んだ美しい女性です。ショートボブ髪は水色に染められ、青く光る瞳と軽く結ばれた唇が無機質に私の方を見つめています。時計の針を模した長剣と歯車状の盾を携えた彼女は、ところどころ機械的パーツから露出したピチッとしたスーツ部分が女性らしさを際立たせ、機械らしからぬ色っぽさを醸し出しています。
なお、胸部は装甲に隠され定かではないですが確実に大きいですね。Eはあるでしょうか? うらやま妬ましい限りです。
「召喚を確認。あなたがマスターですか?」
「はい。セラフィナと言います。よろしくお願いしますね」
「個体名セラフィナをマスターに登録しました。しかし丸一日もマスターに呼ばれずとても悲しい思いをしましたのでよろしくするつもりはありません」
「えっ……」
「冗談です。これからよろしくお願いいたします。マスター」
あ、あぁ。冗談ですか。まさかいきなりジョークを入れてくるとは思いませんでした。無機質の声から言われると冗談に聞こえないから困ります……。
「よ、よろしくお願いします」
「随分と面白い子が来たわね。わたくしはリリス・ノクティア。主様の第一の臣下よ。リリスと呼ぶことを許すわ!」
「私めはアティリウス・サーヴェント。リリスの言葉を借りるなら第二の臣下となるのでしょうか? アティとお呼びくださいませ」
「リリス・ノクティアとアティリウス・サーヴェントをライブラリに登録しました。以降、リリス、アティと呼称します。本機のことはマキアとお呼びください」
リリス達との挨拶も終わったみたいですね。
……リリスやアティリウスに対するあたりが私に対してより優しいような気がするのは気のせいでしょうか。
「マスターの想像は自意識過剰です」
そうですか。自意識過剰ですか。なぜ、当然のように私の思考を読めているのかが気になりますが、おそらく悩んでも無駄なのでしょうね。
「解。マスターの脳内と自機のライブラリを無線接続して、思考を盗聴しています」
「やめてほしいのですが……」
「否。マスターの要求に応えるために必要な処置です。諦めてください」
だから、召喚するの嫌だったんですよね。マスターの安全のためなら私の思考のプライベートなんてどうでもいいのでしょう。
「わかっているようで何よりです」
「やっぱり、この子、面白いわね」
「ですな。できることなら我々も思考が読めるようになりたいですからな」
「時間をいただければ自機を起点に思考を横流しすることも可能になります」
「絶対やめてくださいね!!」
「そのようなことより、自機は善行ポイントの収集に向かうべきだと提案します」
「それがいいわね。主様はもちろん行くとして、アティはどうする?」
「私めはここに残るといたしましょう。皆さんで行ってきてくださいませ」
勝手に話が進んでる!? やっぱり私だけ蔑ろにされてますよね!?
あとサラッと流しましたけど、思考を横流しとか絶対やめてくださいね? 絶対ですよ? フリじゃないですからね?
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