021.聖女、スラム街を救う②

「ここをまっすぐ進んだスラム街の境界付近で炊き出しをやっています! ぜひお立ち寄りください!」


 私とリリスは住人たちに炊き出しを行っていることを伝えながらスラム街の奥へ向かって進み始めました。住人たちは初めは半信半疑の様子でしたが、私が座り込んでいる人たちに活力充填スタミナチャージをかけて回っているのを見て気が変わったのか、今は多くの人たちが私に炊き出しをしている方向を聞いてきたり、アティリウスがいる方向へと向かって行ったりしています。


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 スラム街の住民に活力を充填しました。〈善行ポイント〉を1ポイント付与します。

 スラム街の住民に炊き出しを提供しました。〈善行ポイント〉を1ポイント付与します。

 スラム街の住民に炊き出しを提供しました。〈善行ポイント〉を1ポイント付与します。

 スラム街の住民に炊き出しを提供しました。〈善行ポイント〉を1ポイント付与します。

・・・

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 アナウンスが頭の中に響いてきます。アティリウスは順調に炊き出しを行えているようです。スタンピードの鎮圧の時も思いましたが、私自身が実際の善行を直接行わなくてもガチャキャラが善行を行っていればポイント獲得できるみたいですね。


 これはガチャキャラ軍団を作って善行をさせたら不労所得ならぬ不労善行ポイントが手に入るんじゃないでしょうか? 夢が広がります! そのためにはやはりガチャをもっと回す必要がありますね。


 そんなことを考えながら、横になっていた小さな女の子に活力充填スタミナチャージかけ、元気になったのを見届けたところでリリスが私の顔を覗き込んできました。


「やっぱりスラム街というだけあって、ひどい有様だったわね」


「そうですね。すでに亡くなられている方も多かったですし。王都にこのような場所があることを知らなかった自分を恥じるばかりですね」


「さすがの主様でも死体は生き返らせることはできないものね。そういえばスラム街の人間全員に食べさせるのはいいとして、そのあとはどうするつもりなの? あの冒険者が言っていたことと被るけど、中途半端に救うのはここの住人には酷よ」


「一応考えてはいるんですが……それはアティリウスがいるところで話しましょうか」


 私の中には一応ビジョンはあるのですが、ほとんどがアティリウス任せなところがあり、できるかどうかもわからないので明言は避けたいところですからね。


「わかったわ。でもいつまでも内緒にするのは嫌よ」


「わかってます。リリスに隠し事はしませんよ」


「……わかっていればいいのよ」


 リリスの瞳がほんの少しだけ柔らかくなり、しかしすぐに少し恥ずかしそうに目を逸らしました。


「では、話もしたいですしアティリウスのところに戻りますか」


 そろそろスラム街の中は一通り回ったので、動けなくて炊き出しをとりに来れない人はいないと思いますから。私の言ったことを信じられずに炊き出しをとりにこない人もいるかもしれないですが、その場合は強制はできないですから仕方ありません。


 ◇◇◇


「お帰りなさいませ。お嬢様。リリス」


 スラム街の境界付近に戻るとそこにはおそらく異次元ハウスであろう大きな家と出迎えてくれるアティリウスの姿がありました。


「ただいま戻りました。しかし、さすがはアティリウスですね……」


「丹念に掃除しましたからな」


 家の前でアティリウスが出迎えてくれるのは予想していましたが、異次元ハウスとその周囲には、アティリウスが丹念に掃除(?)した空間が広がっていました。


 かつて荒れ果てていた場所は、一転して清潔感のある落ち着いた雰囲気を漂わせており、先ほどまでのスラム街から別世界に足を踏み入れたかのようでした。ハウスの周囲には美しく整えられた石畳の道ができ、庭にはカラフルな花々が咲き誇っています。


「これは掃除したの一言で片付けられるものではないわ。異常よ!」


「はっはっは。家の中では炊き出しも順調に行われておりますぞ。さあ、中をご案内しましょう」


 リリスの異常発言を軽く受け流したアティリウスに連れられて異次元ハウスの中に入ると、外観からは想像もつかない広大な空間で家妖精シルキーたちが炊き出しを行っている風景が広がっています。


 招かれた住人たちはざっと500は超えるでしょうか? 彼らは食事に没頭していてよくいえば夢中になって、悪くいえばお行儀悪く食事にがっついています。


「スラムの住人たちもこ綺麗になってるわね。特有の強い匂いもしなくなってるし」


「僭越ながら彼らには入る前に私の魔法、洗浄クリーンをかけさせていただきました。そのほうが食事も美味しくなるでしょうからな」


「ありがとうございます。ここまでやってくれるとはさすがアティリウスですね」


「恐れ入ります、お嬢様。ですがこれもすべて、お嬢様のお心にお応えするためには当然のことでございます」


 できて当たり前というように恭しく礼を取るアティリウス。やはり頼りになりますね。これなら私が考えている住人たちへの対応案も実行可能かもしれません。


「アティリウス、これからはこの異次元ハウスを住人たちの新しい家にしたいと思っています。ただし、食事や住む場所を提供するだけではなく、彼らには職業訓練を受けてもらいたく思います。アティリウスには異次元ハウスの管理と住人たちの教育を任せたいのですが可能でしょうか?」


「住む場所と食事を提供して、仕事の技術まで教えるなんて、結構手間がかかりそうね。それに、やる気のない連中もいそうだけど、どうするつもりかしら?」


「もちろん、職業訓練を受けたくない人たちにまで強制するつもりはありません。ただしその場合は異次元ハウスから出て行ってもらうことになりますが。さすがに努力しない人にまで慈悲を与える必要はないですからね。どうでしょう。できますか?」


「もちろんでございます。徹底的に教育いたしますぞ。それにしてもお嬢様の計画は壮大ですな。ゆくゆくはお嬢様のお眼鏡に叶う者たちを集めてギルドを開くのも良いかもしれませんぞ。お嬢様であれば商会でも傭兵ギルドでも経営することができるでしょうからな」


 ギルドですか。確かに助けると決めたなら就職先まで斡旋してあげるほうがいいかもしれないですが。


 あっ、それであれば試してみたいことも出てきました!


「それなら善行ギルドを開くのはどうでしょう?」


「善行ギルド?」


「組合員には給料を渡す代わりに各地で善行を行ってもらうようにするんです。善行を広げる仕組みがあれば、もっと多くの人を助けられるはずです」


「さすがお嬢様。人々を救う素晴らしい案ですな」


「アティ。主様はそんな崇高な人間じゃないわ。どうせ善行ポイントを貯める方法として提案しただけよ」


 失礼ですね。さすがにそんなことは半分くらいしか考えてないですよ?


「まあ、今はそこまで未来のことを考えても仕方ないですね」


「そうね。それはそうとそろそろ最後のステップをひくためのポイントも貯まったんじゃないかしら」


「そうですね! 確認してみましょう! ガチャ・オープン!」


 ガチャ画面には1001ポイントの文字が目に入って、思わず口元が緩むのを抑えられないのでした。

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