019.聖女、執事を召喚する

 最後のステップでガチャが引けないなんてまさかの事態です。


「だから言おうとしたのに。主様の持っていた善行ポイントは3198ポイント。それに対して今まで使ったポイントは500、700、900、1000の合計3100ポイント。だから次のステップ5を引くにはあと902ポイント足りないわね」


 リリスの無常な声が追い打ちをかけてきます。さすが〈ガチャ〉スキル。最後の最後に酷い試練を与えて来るものです。


「一応言っておくけど、このことは計算すれば簡単にわかったことよ。主様が先走っただけなんだから」


「わかっています。目先のガチャに釣られて後先考えずまわしてしまったクズ聖女は私です」


「そこまでは言っていないのだけど」


 リリスはちょっとバツが悪そうな顔をして「ほら。元気出しなさい」と慰めてくれます。リリスは私の癒しです。


「それで? これからどうするつもりなの? このまま諦めるつもり?」


「諦める以外の方法があるんですか?」


「簡単じゃない。善行ポイントがなければまた貯めればいいのよ。幸いガチャ期間は3日間あるんだから、今までのポイントのたまり方からすれば902ポイントなんてすぐ貯まると思うわよ」


 そうでしょうか。そうですよね!


「まずは困っている人を探しにいくわよ! ちょうど近くに冒険者達がいるから聞いてみたらいいんじゃない?」


「なるほど。それはいいアイディアですね!」


 早速、先ほど助けた冒険者達に何か困り事がないか聞いて回ります。


「俺たちに困り事ですかい? 急に言われてもな〜」


「そうだな〜。スタンピードの被害は未然に食い止めたし、復旧作業というものもないしな」


「あそこなんかいいんじゃないか? スラム街の……」


「馬鹿野郎! 聖女様にスラム街に行かせるっていうのか? 正気か!?」


「スラム街、ですか?」


 スラム街は王都の外壁付近にある困窮者たちの暮らす場所でしたか? 私は連れて行ってもらったことがありませんが。確かにそこであれば困っている人には事欠かないかもしれません。


 問題は私にできることがあるのか、ということですが、とりあえず行ってみないことにはその判断もできないかもしれないですね。


「ありがとうございます」


「……聖女様。行く気ですかい」


「はい。そのつもりです」


「あー、俺みてーのが忠告するなんか烏滸がましいんだがよ。あいつらを中途半端に救うのはよしてくれねーか?」


「中途半端に、ですか?」


「ああ。あそこにいる奴らは日々の暮らしに困っている奴らばかりだが、一時の支援では根本的な解決にはならないからな、むしろ依存して生活を悪化させかねねー。支援するなら持続的なものか、そうでなければ自立を促す方向にした方がいいだろうよ。それが聖女様にできるのか?」


「……」


 この冒険者の方の言うことに考えさせられます。今の私だと彼のいう通り、一時的な支援をするのが関の山でしょう。


 ですが私には先ほど引いた頼もしい仲間がいますからね。きっとなんとかしてくれるに違いありません。


「召喚! 献身の執事アティリウス・サーヴェント!」


 私は初老の男性をカードから呼び出しました。整然と後ろに撫でつけられた銀色の髪に柔和な微笑み。背筋のまっすぐに伸びた彼は黒のバトラー服を身に纏い、手には白い手袋がはめられ、清潔感のある装いをしています。


 彼の名はアティリウス・サーヴェント。このユニットは戦闘力はほどほどですが、戦闘以外の能力がSSランクという破格のサポートキャラですね。戦闘以外を任せておけば無難以上にやってのけてしまう優秀なユニットです。その性能はLRでも遜色ないほどなのですが、戦闘以外のサポートという縛りがあるせいでURに甘んじていると思われる、かなりの当たりキャラですね。


「お嬢様。お呼びいただきありがとうございます」


「うおい、誰だこいつは。いきなり現れやがった!」


「あ、ごめんなさい彼は私の仲間です。警戒しなくて大丈夫ですよ」


「そうか……。ならいいんだがよ」


 いきなり呼び出してしまったので相談していた冒険者の人が驚いてしまったようですね。これからは気をつけることにしましょう。ですが今はそれより。


「呼び出して早々申し訳ないのですが、私たちと一緒にスラム街に来てもらってもいいですか?」


「もちろんですとも。お嬢様のご用命に応えるのが私めの使命ですからな」


「ありがとうございます。リリスも行きますよ」


「わかってるわ。主様は私が抱えて連れて行くから、アティリウスは走ってついてきて頂戴」


「承りました。リリス様」


「わたくしのことはリリスでいいわ」


「それでは私めのこともアティと呼んでいただけると。アティリウスという名前は長いですからな」


「わかったわ」


 リリスとアティリウスが顔を見合わせて頷き合いました。


 2人の仲がいいことはいいことですが私がのけ者感があってちょっと悲しいです。二人にそのつもりはないと思いますけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る