第2話 神様アマテラス

苦しい!苦しい!苦しい!苦しい!


助けて...助けて...誰か助けて...辛い...辛い...




息ができないということがこれほど辛いこととは全く想像もしていなかった。




もっと楽に死ねる方法あったかもなぁ…


なんで首つりがメジャーな自殺方法なんだよ、めちゃくちゃ苦しいじゃねぇか!




でも...


俺が今まで経験してきた人生に比べたらマシだな。


あと数分この苦しみに耐えるだけですべてから解放される...


今までのような終わりのない苦しみとは訳が違う。


あと少しで終われる。




俺の意思に反して身体は生存本能に従い、激しく抵抗して縄を引きちぎろうとする。




もういいんだ、頑張ったよ俺は。理不尽な仕打ちを何十年も受けてきた。


よく耐えきったよ俺は...もう...抵抗...しなくて...いい...ん...だ...








「大丈夫ですか?小山恭平さん。」




女性の優しい声が聞こえる...


俺にこんな優しく話しかけてくれる女性は人生で母ぐらいしかいなかったが、母の声ではない。




「もしもし?聞こえていますか?小山恭平さん」




え?...




目を開けると色白美人が目の前で、俺の顔を覗き込んでいた。


30年近く童貞を貫いてきた(貫かざるを得なかった)俺にとってはドギマギしてしまう展開だ。




「あっ!目が覚めたようで良かったです!小山恭平さん」




なんだ?ここはどこだ?さっきまで自宅にいたはずなのに、いつの間にか真っ白な空間にいる。


そして目の前の色白美人、ずいぶんと派手な格好をしているな。


巫女のような着物に、細長い飾り布を身にまとっている。そして額には太陽のような飾りがついている。




「あの~?もしもし?聞いていますか?」




はっ!そうか!ここは天国なのではないか?そして目の前の美人は天使!そうかそういうことか!




「お~い。私の声聞こえていないですか~~」




でも天国ってもっと色々あるんじゃないのか?なんでこんな真っ白な空間なんだ?




「あなたに話してるんですよ~!小山恭平さ~ん!!!」




そうか...やっと長い長い苦しみから解放されたのか!




「ちょっとぉ!!!!聞いてくださいよ!!!!!」




ビックリした... 俺に話しかけてるのか!?こんな美人が!?






「初めまして小山恭平さん。私、神立ハローライフ日本支部、担当のアマテラスと申します。」




よく分からない単語がいきなりいろいろ出てきて混乱してきた...




「ハローライフは簡単に言うと世界中のお亡くなりになった方に、我々のような神が新たな人生を提供させていただくサービスです」




あぁ...やっぱ死んだんだな...俺...


てかそんなハローワークみたいなのがあるのかよ...


神って言った!?この人神様なの!?




「勿論、小山さんのように犯罪歴が無い方は天国に行くことも選択できます。」




ならば無論、天国に行くに決まっている。


なぜ人生に絶望して終わらせた俺が新たな人生を始めないといけないのだ。




「ではまず小山さんのプロフィールを確認させていただきますね。」




資料のようなものを取り出して、俺のプロフィールらしきものを読み始める




「ふむふむ。なるほどなるほど......え?小中高いじめで不登校に...可哀想...」




目の前の色白美人の顔がどんどん青ざめていく




「えっ...就職した企業がブラックで毎日終電まで残業させられてた...ヤバッ」




「おまけに上司からはパワハラを受けていた...毎日人前で叱責...ひどっ」




まぁ俺の過去なんて悲惨なものしかないんだから、そんな反応にもなるわな


たまにギャル口調なのが気になるけど...




「学生時代に受けたいじめのPTSD、職場でのパワハラによって鬱病を発症...」




もしいじめられないで学生生活を過ごせていたら...


友達とか恋人とかできて一度きりの青春を謳歌できたのかなぁ




もしパワハラを受けずに働き続けていたら...


立派な社会人になって両親を養うことができたのかなぁ




もう叶いもしないことに思いを馳せてしまう...




「10年引きこもっていた末に...両親を事故で亡くし...生きる希望を見いだせず自ら命を絶つ......」




改めて振り返るとほんと悲惨だな...自分の人生ながら笑えて来るよ...


そんなこと思いつつも目からは涙が止まらなくなってきた...




「頑張りましたね、小山さん。今までお疲れさまでした。辛かったでしょう...」




俺みたいな奴に優しく話しかけて労ってくれる目の前の神様に更に涙があふれ出す




こんな人生じゃなきゃもっと生きたかった。


恋愛とか青春とかもっと経験してみたかった。


ここまで育ててくれた両親に親孝行してみたかった。




一通り泣き終えた俺に神様が問いかけてくる




「小山さん、あなたには二つの選択肢があります。天国に行くか、違う世界に転生し新たな人生を歩むか。」




違う世界に転生?日本に生まれ変わるわけじゃないのか?




「違う世界に転生する場合は地球とは異なる世界線のインゼルという国に転生していただきます。」




地球とは異なる!?言葉は?文化は?




「インゼルは現在、悪魔族と呼ばれる凶悪な種族と戦闘状態にあります。小山さんには是非インゼルに転生し、悪魔族と戦う勇者になっていただきたいのです。」




勇者?俺が...?




「悪魔族はインゼルの一般市民に対して略奪、誘拐、虐殺など暴虐の限りを尽くしています」




ははっ...異世界でもいじめとかあるんだな...


てかいじめとかの範疇を越えているか...


どの世界でもクソみたいな性格の奴がのさばって、弱くて力がない奴らから何もかも奪っていく


どこにいってもこれは変わんないんだな




「ち・な・み・に転生する場合、サービスとして生得スキルを付与させていただきます。」




「ほんとは前世での経験ポイントに応じて付与するんですけど...小山さんの経験ポイントがゼロなので...特別に私が付与してあげます!」




経験ポイントがゼロ?まぁそりゃそうか。まともな経験なんて何もしてないんだしな








「さて小山さん。いかがいたしますか?これだけ異世界のお話をさせて頂いてなんですが、天国に行くことを選択していただいても一向に構いません。」




「後悔のないような選択をしていただきたいと願っています。」




異世界に行って強い敵と戦うか?天国に行って現世で経験できなかったような幸せを味わいながら過ごすか?




そりゃあ天国がいいに決まってる。わざわざ自分から困難な道に行く必要はない。


今まで散々嫌な思いをしてきたんだ、少しくらいいい思いをしてもいいだろう。


天国に行って、可愛い天使たちに囲まれながらうまいもん食って、いじめやパワハラに怯える必要もなく天国を謳歌してやるんだ




でも...でも本当にそれでいいのか?




せっかく生まれ変われるんだ、もっといろいろ経験してみたい。




仲間とか恋人とか作ってみたい。




強くなってみたい。




人と話してみたい。




外に出て冒険してみたい。




俺を必要としてくれる場所に行きたい。




俺みたいに虐げられてる人々を守りたい。




そして何より天国に行って両親に会ったときに、胸を張って立派な人間になったと伝えたい。






もう俺の中で答えは出ていた。












「俺、インゼルに転生して勇者になります!」

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