第25話 アデルと対戦魔法

「やっと授業が終わった」

 

 魔法の実験が終わり、今日の授業は終了だ。


 俺は教室を出て、リアと一緒に帰ろうとする。


 クレハはレポートが終わらなかったようで、教室で補習だ。


 そこそこボリュームがあったため、時間内に終わらなかったのだろう。


 そんなことを考えながら歩いていると、後ろから声をかけられる。

 

 振り向くとそこには不機嫌なオーラを纏っているアデルが立っていた。

 

「ロラン、君に話がある」

 

「どうした? アデル」

 

「明日の昼、僕と対戦魔法をしてくれないか?」

 

 アデルの言葉を聞いた周りの貴族達は、ざわざわと騒ぎ出す。

 

 俺の周囲は相変わらず騒がしくなるが、俺は気にすることなく返事をした。

 

「別に俺は構わないが、いいのか?」

 

 俺がそう聞くとアデルはニヤリと笑う。

 

「ははは! 僕は現段階で中級魔法を全部網羅しているんだ! 君なんか僕の相手にもならない」

 

 アデルは余裕の笑みを浮かべてそう宣言する。

 

「そうか、なら明日、昼休みに戦うとしよう」


「手続きは僕が全部しておくから、君は首を洗って待っているんだな」


「ああ、楽しみにしておくよ」

 

 俺はアデルの発言に乗ってやり、昼休みに対戦魔法を行うことを決定する。

 

「ロランお兄様、頑張ってください!」

 

「リ、リア、なぜ僕を応援してくれないんだ!」

 

 アデルはリアに文句を言っているが、それを無視してリアはニコニコと笑っている。

 

 周りの貴族達も明日の対戦魔法が気になるのか、俺達の会話に聞き耳を立てている様子だ。


 珍しく半分寝ているセシルも目を覚ましている。

 

 そんな視線を浴びながら、俺らは学園を出るのだった。



「いやー、厄介な事になっちまったなぁ」

 

 俺は部屋で独り言を呟きながらベッドにダイブする。


 正直いって対戦魔法なんてやりたくなかったが、あの場面で断るとアデルが調子に乗りそうだし、貴族達の俺への視線が痛いものとなる。


 ただでさえ俺のイメージは最悪なのに、これ以上悪くなるのはごめんだった。

 

 俺はベッドの上で寝転びながら考える。

 

「本気でやるか? いや、でもな……」

 

 もし本気でした場合、リスクが高すぎる。


 何故ならセシルに俺の魔法を見られるからだ。


 一度俺はセシルと対戦した事がある。


 俺は冒険者『仮面の男』としてセシルと勝負し、互角の戦いを繰り広げた。


 少しでも上級魔法を使えばセシルに不審がられる可能性がある。

 

 どうしようかと思いながら俺はベッドの上で寝転びる。

 

(よし、わざと負けよう)

 

 俺はベッドから起き上がり、そう決断する。

 

「中級魔法で戦って、ある程度戦ったら倒れておこう。そうすればアデルも満足するだろうし、見応えのある戦いが出来たら俺のイメージも悪くはならないはずだ」

 

「ロラン師匠、1人で何をブツブツ言っているのですか?」

 

 俺が1人で作戦を考えているとクレハが部屋に入ってくる。


 どうやら俺の独り言を聞かれていたみたいだ。

 

 俺は慌てて誤魔化すように言う。


「あ、いや何でもない。ちょっと明日のことでな」

 

 俺がそう言うとクレハは、少し暗い表情になり、俺に言う。

 

「もしかしてわざと負けようとか、考えていませんよね?」

 

 クレハはそう言うと、鋭い眼光で俺を睨みつけてくる。

 

 俺は突然のクレハの変わりように困惑していると、クレハは溜め息をつきながら俺に近づき、指で俺の胸元を押す。

 

「堂々と戦ってください。ロラン師匠は強いのですから」

 

「だが、もし俺が本気で戦ったら……」

 

「正体がバレるのが不安なのはわかりますが、ロラン師匠はそんな人ではありません」

 

 クレハはそう言うと俺の胸元から指を離して、俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。

 

「ロラン師匠は、そんな簡単に負けてしまう人ではないです」

 

 クレハの言葉に俺はハッとする。

 

(そうだな、何をビビってるんだ俺は……)

 

 こんなチキンな俺だが、クレハの期待を裏切りたくないと思った。

 

「分かった、全力で戦ってくる」

 

 俺はクレハに向かってそう言い、拳を握りしめる。


 するとクレハは満面の笑みを浮かべて、俺の腕に抱きついてきた。

 

 そして上目遣いをしながら微笑むのだった。


―――



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