第13話 私と戦え

 俺は今、屋敷の外にある庭園に来ている。

 

 そして俺の目の前には、美しい黒髪の女性がいる。


 その女性は俺が知っているゲームのヒロインであり、この国の近衛騎士団の隊長でもある。


 年齢は18歳、真面目で正義感が強い性格であり、その性格から多くの国民に支持されている。


 だが毎日忙しいのか、眠そうな目をしているな。

 

「で、ですから、迷いの森の異変は冒険者が解決しましたし、森のトレントも倒されました」


 「信じ難いな、私は伯爵から救援を頼まれてここに来たのだが……」

 

「ですが救援からもう一週間が経過しています、なので伯爵は冒険者に頼んだのですよ」

 

 どうやらメイド長とセシルが口論をしている様だ。


 たしか近衛騎士団の仕事は、国王及び王妃の安全と王都の治安維持だったはずだ。


 だからこの国の有事の際には一番頼りになる連中であると言えるだろう。


 するとブライロン伯爵が前に出てきて、話す。

 

「セシル殿、今回の一件は冒険者が解決したのです。なので、もうお引き取りを……」

 

 ブライロン伯爵はセシルにそう言うと、セシルはブライロン伯爵を睨みつけながら言う。

 

「では誰が解決したというのだ?」

 

 するとブライロン伯爵は俺らのいる方に視線を送る。

 

 するとセシルも俺たちに気が付いたのか、鋭い視線を送られてしまった。

 

(うわー、凄い睨まれてる)

 

 俺はそんな視線を浴びながら考える。

 

 ブライロン伯爵は迷いの森の件に関して、セシルに救援要請をしたのだろう。


 しかし、もう解決してしまったので、セシルは無駄足になってしまったという訳だ。

 

 俺はそんな事を考えながらセシルの方を見ていると、クレハが俺の袖を引っ張る。

 

 そして俺にだけ聞こえるように小声で話す。

 

(師匠、あの騎士の人って剣爵家の人ですよね)

 

(ああ、クレハもよく知ってるだろ?)

 

 剣爵家は伝説の剣士の末裔であり、主に軍事関係の仕事を行っている。


 そして今俺の目の前にいるセシルは、剣爵家の令嬢なのだ。


 僅か18歳で近衛騎士団の隊長を務めているのだから、天才としか言いようがない。

 

「お前達が迷いの森の異変を解決したのか?」

 

 するとセシルが俺らにそう聞いてきた。

 

「はい、ブライロン伯爵の依頼でトレントを討伐しました」

 

 クレハはなんの恥じらいもなく答える。


 するとセシルはより一層、俺に厳しい視線を向けてくる。

 

「お前はS級冒険者のクレハ・ルシェルで間違いないな?」

 

「はい、そうです」

 

 クレハがそう答えると、セシルは少し考え込んでから口を開く。

 

「ならば納得だ、お前ならば、トレントを討伐するのもたやすい事だろう」

 

 クレハはS級冒険者だ、その実力は折り紙つきであり、知名度も非常に高い。


 なのでそう考えるのも無理はないだろう。

 

「ではそこにいる仮面の男は誰だ? その仮面はなんだ?」

 

 そしてセシルは俺について聞いてきた。


 まあ当然の反応だろう。

 

 しかし、俺はこの仮面を外せない理由がある。


 だからここは、適当に誤魔化そう。

 

 するとクレハが口を開く。

 

「この人は私の師匠です!」

 

「ほう? その男が?」

 

 するとセシルは、何故か俺の事をジロジロと見てくる。


 顔というよりか、頭の先から足の先まで見る様にこちらを見てくるのだ。

 

「どんだけ見てくんだよ……」

 

「お前の骨格や筋肉を見ていたんだが、お前、本当に冒険者か?」

 

 俺はそう聞かれて、少しドキッとしてしまう。

 

 確かに俺の体は普通の冒険者とはかけ離れている。


 筋トレとかはしているけど、それでも普通の冒険者の域は超えていない。


 俺は魔法を集中的に鍛えたから、普通の冒険者の体ではないのだ。

 

「師匠は魔法が使えるんです」

 

 俺が悩んでしまっていると、クレハが横からそう言う。


 するとセシルは驚いた表情をする。

 

「魔法? もしかして貴族か?」

 

「い、いや、違う」

 

 俺はそう答える。

 

 するとセシルは、顎に手を当てて少し考え込んだ後に、口を開く。

 

「仮面を付けていて魔法が使える……か」

 

 そう呟いてから、俺の顔をじっと見つめてくる。


 あまり見つめられると緊張してしまうから、やめて欲しいのだが。

 

 するとセシルは少し笑った後に、口を開く。

 

「仮面の男、私と戦え。お前がどんな魔法を使うのか、気になってしまってな」

 

「う、嘘だろ?」

 

 俺は思わずそう言ってしまったが、セシルはそんな俺の言葉を無視する。

 

 俺は少し不安だ。


 相手は近衛騎士団の隊長であり、勇爵家の令嬢だ。


 そんな相手と戦いになってしまったら、怪我をしてしまうかもしれない。

 

「安心しろ、この戦いが終わったら身を引く。私もそこまで暇ではない」

 

 セシルは俺にそう言ってくる。

 

(だったら俺と戦ってる場合じゃないだろ!)

 

 俺はそう考えながらも、セシルと戦う事になってしまった。


―――



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