第11話 新しい依頼

エリスが旅立ってから数週間が経ち、村の生活は静かに流れていた。アルト、リナ、エリックは工房でそれぞれの作業に没頭していた。窓から差し込む柔らかな陽光が、埃が舞う工房の中を照らし出していた。


その日の午後、村の長老が訪ねてきた。長老の表情には緊張の色が浮かんでいた。


「アルトさん、リナさん、エリックさん、お願いがあります。」長老は深々と頭を下げた。


アルトは手を止め、「どうしたんですか、長老?」と問いかけた。


「実は、村の近くにある古い神殿で奇妙な現象が起こっているのです。村人たちは皆、不安を感じておりまして…」長老の声には重みがあった。


リナは心配そうに、「具体的にはどんな現象なんですか?」と尋ねた。


「神殿の周りで夜な夜な奇妙な光が現れたり、異様な音が響いたりしています。何か悪い予兆ではないかと皆が恐れているのです。」長老はため息をついた。


エリックは真剣な表情で、「その神殿、いつからそんなことが起こっているんですか?」と質問した。


「ここ数週間です。エリスさんが旅立ってからのことです。ですから、何かの因果があるのではないかと…」長老は言葉を続けた。


アルトは考え込んだ後、「分かりました。我々が調査しましょう。その神殿の場所を教えてください。」と決意を固めた。


長老は感謝の意を込めて、「ありがとうございます。神殿は村の東の森の中にあります。どうか、お気をつけて。」と告げ、再び深々と頭を下げた。


その後、アルトたちは神殿の調査に向けて準備を始めた。リナは回復薬や道具を集め、エリックは武器の点検を行った。アルトは地図を広げ、神殿へのルートを確認しながら、「皆、準備はいいか?」と声をかけた。


「もちろん。」リナは微笑みながら答えた。


「いつでも行けるぜ。」エリックは自信満々に応えた。


こうして、アルトたちは新たな冒険に向けて一歩を踏み出した。彼らの心にはエリスへの思いと、村を守る決意が宿っていた。


アルト、リナ、エリックの三人は、村の東に広がる深い森の中を進んでいった。木々の間から差し込む陽光が道を照らし、鳥のさえずりが耳に心地よい。神殿は森の奥深くにあり、その道中は不気味な静けさが漂っていた。


「ここがその神殿か…」エリックは前方に見える古びた石造りの建物を指さした。


神殿は苔むした石の階段が続き、その先には巨大な石扉が立ちはだかっていた。扉には古代の文字が彫られ、その謎めいた模様が光の反射でかすかに輝いている。


「不気味ね。」リナは周囲を見回しながら言った。


アルトは慎重に扉に近づき、その表面を触れた。「この文字…見たことがある。古代の封印術だ。」


「封印術?」エリックは興味深げに問いかけた。


「そうだ。何か重要なものを封じ込めるための術だ。この扉の向こうに何かがあるのかもしれない。」アルトは真剣な表情で言った。


三人は力を合わせて石扉を開けようと試みた。エリックの筋力が活かされ、重い扉がゆっくりと音を立てて開いた。扉の向こうには、暗く長い廊下が続いていた。


「行こう。慎重にな。」アルトは先頭に立ち、廊下へと進んでいった。


廊下の壁には、ところどころに古代の絵が描かれていた。その絵は魔物との戦いを描いたもので、恐ろしい姿の魔物が人々を襲う様子がリアルに描かれていた。


「この絵…昔の戦いの記録かしら?」リナは壁の絵を見ながら呟いた。


「そうだな。きっとここに何か重要なものが隠されているんだろう。」アルトは答えた。


廊下を進むと、突如として罠が発動した。床が突然開き、深い穴が現れた。エリックは瞬時に反応し、リナを引き寄せて助け出した。


「危なかった…!」リナは息を呑んだ。


「この神殿、そう簡単には進ませてくれないみたいだな。」エリックは苦笑しながら言った。


さらに進むと、奥の部屋に到達した。そこには、若い女性が古代の魔法陣の中で倒れていた。彼女は古代の魔法陣の中で倒れていた。


「彼女を助けないと…!」リナは駆け寄り、魔法陣を解除しようと試みた。


リナは魔法陣の周囲を慎重に観察し始めた。古代のルーン文字が床に刻まれ、その周囲には光るラインが幾重にも重なっている。彼女は一度、エリスから教わった回復魔法の知識を思い出し、慎重に言葉を選んで唱え始めた。


「アルト、この魔法陣、かなり複雑よ。エリスから教わったことが役に立つはず…」リナは額に汗を浮かべながら呟いた。


「リナ、信じてるよ。君ならできる。」アルトは優しく励ました。


リナは深呼吸をして集中力を高め、エリスから教わった古代の呪文を一つずつ思い出しながら、魔法陣に手をかざした。手のひらから淡い光が放たれ、魔法陣のルーン文字に触れると、それぞれの文字が一瞬輝き、次第に光を失っていく。


「オーラ・リム・ナトゥス…」リナは慎重に呪文を唱え続けた。魔法陣のラインが次々と消えていく様子を見守るアルトとエリック。


やがて、最後のルーン文字が消え、魔法陣が完全に解除された。その瞬間、フェリシアの体が少し動いた。


「よし、解除できた!」リナはほっとした表情で呟いた。


アルトとエリックはフェリシアに駆け寄り、彼女の様子を確認した。「大丈夫かい?君の名前は?」アルトが優しく尋ねた。


フェリシアはかすかに目を開け、かすれた声で答えた。「私はフェリシア…この神殿の秘密を解明しようとしていた。でも、罠にかかってしまって…助けてくれてありがとう。」


「一緒に神殿の謎を解明しよう。君の知識が必要だ。」アルトは手を差し伸べた。


フェリシアはその手を取り、立ち上がった。「ありがとう。私も協力するわ。ここには古代の力が眠っている。このままでは危険だわ。」


アルト、リナ、エリック、そして新たに加わったフェリシアは、神殿の奥深くへと進んでいった。廊下は次第に狭くなり、古代のランタンがかすかな光を放つのみで、闇が支配していた。


「この先に何が待ち受けているのか、全くわからないわね…」リナは不安そうに呟いた。


「でも、私たちならきっと乗り越えられるわ。」フェリシアは励ますように微笑んだ。


アルトは慎重に前進しながら、「フェリシア、この神殿にはどんな秘密が隠されているんだ?」と尋ねた。


フェリシアは古代の文字が刻まれた壁を指さし、「ここには、強力な魔法の力が封じ込められていると言われています。その力を悪用しようとする者たちがいるので、私たちはその封印を強化する必要があります。」と説明した。


「なるほど、その力が封印されているから、こんなに厳重な罠が仕掛けられているのか。」エリックは納得したように頷いた。


進むごとに、古代の彫刻や絵画が現れ、その中には恐ろしい魔物や戦いの光景が描かれていた。特に目を引いたのは、巨大な魔物が人々を襲う場面だった。


「これが…封印されている力の正体なのか?」アルトは絵を見つめながら呟いた。


フェリシアは神妙な面持ちで、「そう、これが解き放たれたら、この村だけでなく、世界中が危険に晒されるわ。」と答えた。


さらに進むと、奥の部屋に到達した。その部屋の中心には、巨大な石碑が立っており、その周囲には再び魔法陣が描かれていた。石碑には、古代のルーン文字が刻まれ、強力な魔力が感じられた。


「これが…封印の中心か。」アルトはその場に立ち止まり、周囲を見渡した。


「そう、これを強化しなければなりません。でも、その前にもう一つ罠があるはずです。」フェリシアは緊張した声で言った。


その瞬間、部屋の四隅から金属の音が響き、壁から鋭い刃が飛び出してきた。エリックはすぐに反応し、リナとフェリシアを守るために立ちふさがった。


「アルト、フェリシアを守ってくれ!俺がこの罠を解除する!」エリックは力強く叫んだ。


「わかった、エリック!」アルトはフェリシアを引き寄せ、彼女を守るために盾を構えた。


エリックは罠の仕掛けを見極めるために、鋭い刃の動きを観察し始めた。そして、一瞬の隙を突いて、罠の機構に手を伸ばし、巧みに解除した。


「よし、これで安全だ。」エリックは安堵の表情を浮かべた。


「ありがとう、エリック。君のおかげで無事に進めるわ。」フェリシアは感謝の意を示した。


アルトたちは石碑の前に立ち、封印を強化する準備を整えた。フェリシアは古代の呪文を唱え始め、アルトとリナはその周囲を守るために警戒を怠らなかった。


「フェリシア、頼んだぞ。」アルトは静かに言った。


「わかったわ。これでこの神殿の封印を再び強化できるはず。」フェリシアは集中力を高め、呪文を唱え続けた。


やがて、石碑が光を放ち始め、古代の魔力が再び封印されたことを示した。部屋全体が静寂に包まれ、封印の強化が完了したことを感じ取った。


「これで…村は安全だ。」アルトは安堵の息をついた。


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