空は晴

空は晴

　スリッパに右左なき小春かな

　水路とも池ともつかぬ水に鴨

　かくれんぼ聖樹のもとで屈みこみ

　きりきりと自転車の行く冬銀河

　水仙よりも清新な白マスク

　コントラバスに抱かれるごとく負ふ春ぞ

　菫咲くや白昼に樹の葬儀ある

　教室の後ろに座り卒業す

　マカロンにたくさんの色春の海

　銭湯より燕と燕空は晴

　ヘッドフォン取つて涼しき京都かな

　先輩が虹だと言つた虹を見る

　紫陽花や悩みの多き頭一つ

　傷つくけどアイスクリーム食べたいの

　蠅留る予約席てふ銀の札

　油絵の群像に日や秋の声

　朝の桃触れて幼きモノローグ

　目が合つてかたさうだなあ赤蜻蛉

　憶えておく秋分の日の数多の影

　とりあへず分厚き二冊借り花野