ちんちん売りの中年

我孫子営業所

1

 それはそれは寒い日でした。雪が降っていて、空はもう暗くなりかけていました。その日は一年のうちでいちばん幻想的で破廉恥なクリスマスイヴの晩でした。人々はきらきらした装飾で飾られた街を、家族と、友達と、恋人と、幸せそうな笑顔で歩いています。その雑踏から少し離れた雑居ビルの近くを、みすぼらしいスウェットを着た一人の中年がぐずぐずとぼとぼと歩いています。中年のズボンの中にはくたびれた下着に包まれ、小さな小さなちんちんがありました。


 中年は交差点の片隅で立ち止まり、寒さに震えながら顔をあげて人々を見ます。「…ちんちんはいりませんか……」中年の言葉は人々の声にかき消されて届きません。たまに目が合うと、その人へ向けてぽろんとちんちんを見せながら、さきほどより少し大きな声で「ちんちんはいりませんか」呼びかけます。でも、みんな中年の小さな小さな皮の余ったちんちんを見るなり、冷笑を浴びせてさっさと歩いて行ってしまいます。

 朝から町中を歩き回っていますが、ちんちんはひとつも売れません。お腹は減り、身体は冷え切ってしまい、それでも震える声で「…ちんちんは…いりませんか……」と呼びかけ続けています。このまま家に帰れば、旦那さまにうんとぶたれるにきまっています。それに、食べ物もなく寒いのは家だっておんなじです。


 歩く人の姿も減ってきました。みんな、暖かい家で、愛する人と幸せな時間を過ごしているのでしょう。中年は降りしきる雪から逃げるように路地裏へと歩き、雪の積もっていないコンクリートの上にうずくまりました。

 中年はため息をつきながら、氷のように冷たく彫刻のように固まってしまった手を見ました。ああ寒い、こんなときには、たとえ小さなちんちんでも少しの暖かさをえられれば、どんなにかありがたいかしれません。でも、売り物のちんちんを使ってしまったことが旦那さまにしられたら、ものすごく叱られてしまうに違いありません。


 空腹と寒さでぼんやりした中年は、とうとう手をズボンの中に突っ込み「シュッ、シュッ」とちんちんをいじり始めました。すると不思議なことに、暖かい光がぼうっと中年を包み、先ほどまで震えていた身体がうそのように熱くなり、幸せな気持ちでいっぱいになりました。

 「シュッ、シュッ」中年が夢中になってちんちんをいじっていると、明るい光の中に階段が現れました。そして、その階段を女子高生が昇っているのです。中年は下から覗き込むように頭を下げました。もう少し、もう少し、と中年は心の中で叫びました。

 そしてとうとう女子高生の紺色のスカートから、眩しい白がちらりと見えたその瞬間、暖かい光は消え失せ、中年は暗くて冷たい路地裏にいるのです。先ほど、あれだけ大きくて暖かかったちんちんも、すっかり冷え切って小さくなっています。中年は手についた体液を傍らに積もった雪で拭うと、再びがたがたと震えはじめました。

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