第13部 4202年13月13日
見てはいけないものがある。たとえば、三階建ての学校の四階にある第四教室で、四月の四日に、午後四時四十四分四十四秒を指す時計。あるいは、四百カウントの某横スクロールゲームのゴール画面で、八が三つ並んだ様を示す残り時間。
朝起きて最後のカレンダーを捲ったはずなのに、最後ではなかった。昨日で間違いなく今年が終わったはずなのに、終わっていなかった。
「ちょっと」
と言って、僕は階下にいる彼女を呼びつける。三回呼んでも返事がなかったから、階段を下りて、コーヒーを飲んでいる彼女の手を掴み、自室に連れてくる。その際に、しっかりと指と指の間に指を挟んで、手を繋いだ。気持ち悪いと言われて、頬を思い切り引っ叩かれた。
自室に入って、僕は部屋の隅にかけられたカレンダーを指で示す。
「nani ?」
と言って、彼女はカレンダーを見る。
見る、見る。
しかし、何の反応もない。
「kore ga, nani ?」
と言って、彼女は僕を訝しげに見つめる。
「いや、何、ではなくてね……」僕は言った。「今日が何日か、知っている?」
「ha ?」
「何日か、言ってごらん」
「juusangatsu no juusannichi」
僕は、空いた口が塞がらなくなって、そのまま顎が外れてしまった。最早何の痛さも感じない。外れた顎は、そのまま床を転がって、階段を下りていってしまった。
「nani ?」彼女は一層僕を睨みつける。そんな顔をしている彼女は非常にキュートで、僕は好きだった。
「※#□?~¥○☆※~#△」
「a ?」
彼女は僕の頬に手を伸ばし、それを思い切り引っ張る。僕は慌てて彼女の手を掴み返したが、彼女は引っ張るのをやめない。そうしている内に、頬が横に伸び、さらに伸びて、顎氏の指定席が丁重に用意される。彼女が口笛を吹くと、階下から顎が駆け戻ってきて、僕の口もとにすっぽりと収まった。
「juusangatsu no juusannichi ! juusangatsu no juusannichi !」
彼女は再三僕の頬を引っ張る。
僕は堪ったものではなくて、大声で叫んでしまった。
叫んだのは、頬が痛かったからではない。
そんな物理的な痛みに起因するものではなかった。
見てはいけないものがある。
たとえば、三階建ての学校の四階にある第四教室で、四月の四日に、午後四時四十四分四十四秒を指す時計。あるいは、四百カウントの某横スクロールゲームのゴール画面で、八が三つ並んだ様を示す残り時間。
そして、一と三の二つの数字によって表わされる月。
僕達は、いや、少なくとも僕は、知らない世界に迷い込んだ。
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