第3部 4202年03月03日
僕達の家は、人工的に成された丘の上に立っている。僕達の、とはいっても、それはもともと彼女の家で、僕はそこに居候させてもらっている。そして、人工的に成された、というのは、もともと自然にできた丘を、人の手で開拓して住宅街にした、という意味だ。人の手でない開拓というのは、果たしてありえるのだろうか。
丘の縁に伝うガードレールに寄りかかって、僕と彼女は話していた。そんなふうに寄りかかると、決まって白い粉が衣服に付着する。だから、僕はその被害を最小限に抑えようと考えて、軽く腰を下ろす程度に留めておいた。一方で、彼女は前方向に思いきり身体を覆い被させている。馬鹿なのかなと僕は思う。思っただけで決して口にはしない。そんなことを言えば、二度と口が利けなくなる。
「nee, kiite iru?」
僕の方を振り返り、彼女が尋ねる。
「聞いてるよ」僕は応じた。
「sono wari ni wa, nani mo iwanai jan」
「いつものことだと思うけど」僕は言った。「相槌なんて、面倒なだけだよ」
「shitsurei da ne」
「それも、いつものことだと思う」
時刻は午前十一時半。十時頃に起きたばかりで、僕も彼女も何も食べていない。別に食べなくても良い、と僕は思っているのだが、彼女は決まって何かを食べたがるし、何でも食べる。今日は、朝食の前に、少し散歩をすることを僕の方から彼女に要求したのだ。なんとなく、すぐに朝食を作る気になれなかったし、朝の涼しい空気を取り入れたかったからだ。
「watashi, koohiiya de hatarakitai」
前方に顔を向けたまま、彼女は言った。
「働けば?」僕は簡単に応じる。
「duo sureba, ii ka na ?」
「何が?」
「hataraku tame ni wa」
「ハローワークに行くとか?」
「baka ja nai no ?」
「どうして?」
「sonna koto shinai de, sassato mensetsu o ukereba, ii deshou ?」
「じゃあ、受けてきたら?」
「issho ni itte yo」
「どうして?」
「hitori ja fuan da kara」
「一緒に行ったって、どうせ面接の場では一人になるよ」
「tsuite kuru dake de, ii no」
「ふうん」
「nani, fuun tte」
「不運な人だな、と思って」
彼女に背中を叩かれる。
ふと空を見上げると、分厚い雲が太陽を遮りつつあった。しかし、雨が降ってきそうな気配はない。匂いでそれが分かった。降るとしたら、明日か明後日だろう。
「行くなら、今から行こう」僕は言った。
「e ?」
「面接を受けに」
「mada, asagohan o tabete inai yo」
「そのコーヒー屋で食べればいいじゃないか」
僕がそう言うと、彼女は一度指を鳴らした。
「tensai」
彼女の手を握って、僕は舗装された丘の斜面を下り始める。知らない内に彼女がスキップを始めていて、気づいたときには僕も自然と巻き込まれていた。
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