第31話 魔王軍
魔界の王、魔王の愛する城下町。人民の避難が大体済んで、
「ギャアァアア!」「ぎぇええええ」「ンゴォ!!!」「オゴォオオオ!!!」
人間の兵士の叫び声が、城の入口に掘られた穴の中から響いてくる。
「モグさんの落とし穴は相変わらずえげつないねえ」
ガイコツ騎士の一人が、笑いながらモグラの功績を褒める。
「やっぱりイチゴ畑の手入れより、こういうののが向いてるモグ〜お前らは絶対こっち来るんじゃないモグよ〜」
「言われなくても近寄らねえよ、『魔界モグラの住処にゃ近寄るな』って、魔界じゃ常識だからな」
カタカタケラケラと笑うガイコツ騎士も、一振り、二振りどこか気楽に剣を振っては、人間の侵略者を次々なぎ倒して行く。
その骨筋だけで振るわれる太刀は疲れを知らず。人間の男達が疲弊してもなお、元気いっぱいに振るわれ続ける。
六本もの腕のあるガイコツ騎士団長のデタラメな剣筋で蹴散らされていく仲間達に、人間の兵士達は悲鳴を挙げた。
「こ、コイツら化け物過ぎるだろ!」
無情に、無軌道に剣を振るいながら、ガイコツ騎士団長が歯茎のない歯を見せて嗤う。
「褒め言葉ですなあ。なんせ私達、骨だけのガイコツですので」
騎士団長の笑顔に合わせ、部下のガイコツ達もニンマリ嗤う。
○
城下町。逃げ遅れた母子が、人間の兵士に追いかけ回され、行き止まりに追い詰められていた。
「手こずらせやがって……弱そうな化け物に八つ当たりでもしなきゃやってらんねえぜ!!」
母が娘を抱き締め、振るわれる剣から子を護ろうとした瞬間、
剣は、オオウサギに喰われた。
「早く逃げるウサ〜」
「す、すみませんありがとうございます!!」
背中に庇った親子が逃げるのを確認して、オオウサギ、ラビは口の中の刃物をボーリボリ。
「マズいウサ〜。料理長の料理が恋しいウサ〜」
「て、テメェ!! フザケやがって!!」
半ばでへし折られた長剣を、人間の兵士が振りかさずが、ラビはなおも食いついて、刃を全て平らげてしまった。
「な、なんじゃこりゃー!!」
柄だけになってしまった剣を握って叫ぶ人間の兵士に、ラビは舌舐めずり。
「マズいけど、たまには人間の肉を食うのも悪くないウサね〜」
「ギャアアアアアアアアア!!」
○
「ウエッ、脅しとはいえ男の下着まで食うのはやっぱり気持ち悪いウサ〜」
全裸で泡を噴いて気絶している人間の兵士の前で、オオウサギはいつまでもえづいているのだった。
○
「まお〜様は行っちゃった〜♪」
「野望の為に行っちゃった〜♪」
「お嫁さんも一緒ですぅ〜♪」
人間と魔族の斬り合い押し合いの最中。場違いに歌う、小さな妖精サイズの少女達がいる。
「バカにしくさりやがってよぉ!」
斬っても斬っても復活するガイコツ騎士達との剣戟に疲れた人間の兵士が、逆上しながら少女達に斬りかかる。
「お茶どころじゃないよ、悲しいね〜」
「まお〜様不在で、悲しいね〜」
「こわーい人間、悲しいね〜」
三人娘、即座に輪になり人間囲い。
「「「ヴィェエエエエエエエエエエエエエエエン!!!!」」」
「アンギョォオオオオオオオオオ!!!????」
鼓膜と脳を揺るがす悲鳴で、一声泣いた。
「バンシーの声は人間の絶望を採るに最適ブヒねぇ」
「いや〜」
「エヘヘ〜」
「それほどでもぉ〜」
耳栓を取ったオーク料理長が、大きな瓶の中に詰まった混沌とした液体をタプン、と揺らしてニヤリと笑う。その後ろで、小さな見習い子豚コック達が、一心同体の動きで寄ってたかって一人二人の人間兵士達に包丁を振りかざしていた。
「お前らもほどほどにしとくブヒィ。どうせ人間の肉なんか、食べても美味くないブヒィ」
「「「「「「「「「へい、師匠!」」」」」」」」」」
適当なところで切り上げて、またもや寄ってたかって人間の兵士達をロープでぐるぐる巻きにする。
「俺も痛めつける程度で料理したい気分にならんから、丸くなったもんブヒねぇ」
食事を残さず平らげ、賄い炒飯を喜び。魔王の為、ケーキやサンドイッチを一生懸命作っていた人間の少女の顔を思い浮かべながら、料理長は一人ごちた。
○
「ピピィ!」
黒い大きなイグアナに翼が生えた程度の生き物が、人間の兵士の周囲を飛んだ。
「なんだアイツ」「撃ち落としちまえ」「ぶっ飛ばせ」
人間達が矢をつがえ、呪文を唱えようとしたとき──愛らしさが勝つ爬虫類らしき生物の身体が光に包まれ、大きな屋敷ほどの大きさのドラゴンになった。
「グオォオオオオオオオオオオ!!!」
「がひいいいいいいぃいいぃぃぃ!!!」
黒い竜のブレスが、人間達を包みこむ。
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