第28話 緊急事態ですわ
アビス様は性急に事は進めて来ないけれど、こんな触れ合いは求婚を喜んで受けてから増えた。私からも、アビス様からも。
突然テーブルの向こうから手を握られても、アビス様は不思議そうな顔をするだけで、好きなようにさせてくれた。
手、大きいなあ。こんな男の人の手の感触も、盛り過ぎなスケールの大きいセンスも、ゲーム画面越しじゃわからなかった。幸せに思わずアビス様へ微笑んだら、視線を逸らされてしまう。結構な照れ屋というのも、立ち絵差分がないゲームだと知りようがない一面だ。
転生出来て、良かったなぁ……。
「婚約指輪は、作り直させる」
「だったら、コレはコレでいただいてもよろしいかしら?」
「それは構わないが……」
流石に付けられないけど……せっかく貰ったものだし。
というかドドラも連れてもう一つの紋章があるダンジョンも攻略したのだけど、二つのダンジョンのボス部屋で見つけた宝石類貰い過ぎて、もうコレ以上プレゼントもらわなくてもな。という感じもする。ただのプレゼントじゃなくて、「どれもマジックアイテムだから、持っていればいざという時ソフィアも身を守れる」とアビス様も言ってたけど。
婚約指輪よりは、やっぱりおそろいで普段身につける結婚指輪の方が……。っていうのも重い女かしら!?
女の人にも実用性を兼ねたプレゼントをしたがるアビス様、この大盛り結婚指輪の宝石も魔力を帯びているっぽい。大事にしまって……ケースもデカイ!!長い!! コレも特注品かしら……。何にしてもプレゼントは護身用、売ってお金にすることも出来るだろうし、全部非常用持ち出し袋に入れておこう。なんか「推し旦那様からのプレゼント♡」って感じじゃないけれど……。
魔法といえば。最近アビス様の魔界に太陽を呼び戻すお手伝い(と言っても私は主にアイテム係で大した事をしてないけれど)ばかりで、傘魔法の研究が滞っている。
「最近、傘魔法のご研究をなさってませんが、今ちょうどアビス様も手が空いていますし、中庭に行きましょうか?」
「んー……ああ、その事か。アレは……もういい」
えっ? 意外とそっけない返事!!
「あ……違う、違うぞ!! 」
思ってたよりガッカリした顔してたみたい、アビス様がワタワタする。その間も手は握らせてくれたままなの、優しいなあ。
「その……最初は見たことない魔法目当てでさらったと思っていたが……。思えば、勇敢で美しい女を連れ去りたくて、とっさに理由を探しただけのような気がする」
「えっ!?」
「魔王の俺様に立ち向かってでも他の女を助ける勇気……それを美しいと思う事の何が不自然だ?」
「アレは! 別にただ! とっさに!」
私があの状況を招いたようなものだし! というかクララちゃん、あの後会えてないけど元気かな! 気にはなるけど両親に見つかるわけにもいかないし!!
「もちろんあの魔法のことも、ソフィアの一部として気にはかかる。だが、解き明かすのを急ぐ必要もないと思ってな。これから長く、共に在るのだから」
「アビス様……」
気付けば、互いに手を握り合っていた。どうも恥ずかしかったせいか、めちゃくちゃギュウギュウ握り合ったまま、腕相撲状態になって私が勝った。推しに腕相撲で勝つとか、乙女ゲームでも見ない経験……女だから普通に手加減してくれたんだと思います。
明日には魔界大冒険に載っていた、朝焼けの紋章と夕焼けの紋章を供える、復活の祭壇に行って来る予定。そしたらアビス様の野望も叶うはず。
「大変です、アビス様!!」
礼儀正しい騎士団長のボンボーンさんが、ノックもせずに駆け込んで来た事で、浮かれていた空気が消し飛んだ。
「──何があった?」
アビス様もただ事でない空気を感じたのか、即座に魔王のべールを纏って問いかける。
「人間共が、城下町と城に攻めて来ました!」
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