第12話 推しの願いを知るのですわ
夕食の後、いつものようにお城の庭で、魔法を披露。
学園で習うような魔法は集中して呪文を唱えて……と良くあるファンタジーらしい動作が要るけど、この傘を出す変な魔法だけは、特に意識しなくても出せる。
「ハッハッハッハ、相変わらずお前の魔法は面白いな、ソフィア」
「そ、そうですの?」
面白がられてるだけとはわかっていても、推しが嬉しそうだと気分がいいので、サービスしてバンバン出しちゃう。お庭が傘で散らかる。魔力が残ってる限りはいくらでも出せそうだけど、あんまり意味はなさそう。ちなみに一定時間経つと消える。
「それで、アビス様。何かわかりましたか?」
「フッ、この俺様を誰だと思っている? 魔の王と書いて魔王と言うのだ! そんな分析は朝飯前だ!」
アビス様がシリアスな顔をしている……! 最近可愛いとばかり思ってたけど、やっぱりキリッとしてるとカッコいいわ!
「……と言いたいとこだが、さっぱりわからん」
思わず古典的にズッコケた。
「どうした急に転んで! 無理をさせ過ぎたか!?」
「い、いえ……」
ギャグのリアクションを大真面目に心配されるとこっちも困るなあ……でも手を差し出して起こしてくれるアビス様優しい。
「まず魔法というのは、魔力さえあればなんでも出せるというものではない。地水火風、闇光。自然界のエネルギーを魔力と引き換えに引っ張り出すものだ」
ドレスの裾の土ホコリを払ってくれながら、アビス様が説明してくれる。よく聞く感じの魔法設定。なんだけど、ゲーム内でこの説明もろくになかったような……。どれだけ開発現場混乱してたのかな……。
「対してお前のはどれでもない物質を出す。これがわからん。レオナルドの奴は剣を出していたが、アレも光のエネルギーを剣の形にしているというだけで、剣そのものを出しているというわけではない。わからん。謎だらけだ」
立ち上がったアビス様が、頬に触れた。優しく払うような動きを見ると、まだ土がついていたらしい。
「だからこそ、知りたくなるのかもしれんな」
微笑みながら、真剣な赤薔薇の瞳が私をじっと見ていた。瞳の宝石を欲しがるみたいに、私もアビス様を見上げてしまう。
アビス様の美しいお顔がこっちに近づいて来てるような……!? ああっ、赤薔薇の瞳が閉じられて……!! わ、私も「推しのドアップだぁ〜♡」とか思ってないで目を閉じるべきかしらー!?
「は、葉っぱがついていたぞ。俺様が直々に取ってやった、感謝するんだな」
「あ、ありがとうございます……」
葉っぱごとポイ捨てられる変な空気。そ、そうよね気のせいよね! 今キスされそうだったかもなんて!!
「今日はこのくらいにしておくか。もう一箇所付き合ってもらおう」
「……? はい」
お城は中庭まで、いつも魔力の灯りが灯ってはいるけれど、やっぱり薄暗いせいか、アビス様が手を引いてくれた。
「疲れてはいないか」
「はい」
さっきズッコケたのを心配されているのかしら……。令和のヒロインとして古臭い挙動は控えないとね。でも実物アビス様、面白い人だからつい。
連れて来られたのは、大きなテントの前。
「このサングラスをかけろ」
サングラスかけたアビス様、すごく悪い男っぽいなあ。あ、魔王様でゲームでも敵だった。
魔王様の後に続いて入ってみると……地上の太陽みたいな激しい魔力の光に照らされた、魔界イチゴの苗がいっぱいあった。アビス様が貸してくれたサングラスがなかったら、目が光に眩んでたかも。
「すごいだろう、この魔界イチゴの豊作ぶり。魔界イチゴは育つまでに多量の光が必要だから、常にこうして光合成をさせているのだ! 」
「お陰で眩しくて手入れが大変モグ〜」
ボコッ! なんかいちご畑から出て来た! サングラスしたモグラさん?
「本来オイラは害獣でこういうの向いてないモグ〜」
とか言いながら、元気のない苗に水をあげたり、細かい雑草をブチブチ引っこ抜いたりしてる。天職なんじゃあ……。
「ふう、いい仕事したモグ〜逢瀬の邪魔だから、帰るモグ〜」
「お、逢瀬って!」
「ご、ご苦労だったな」
モグラさんは額の汗を拭う動作をすると、さっさと帰ってしまった。
「ど、どうだ? すごいだろう、欲しければここを丸ごと、お前にくれてやってもいいんだぞ?」
いちご畑を丸ごとかぁ……。アビス様、魔界イチゴ大好きだし、子どもの頃からいちご畑丸ごと食べたーい! って願望変わってなさそうで可愛い……。
っていうかいちご畑丸ごとは私にとっても魅力的な提案ですね!元々好きだし!! 手入れは優秀な部下モグラさんにお願いして、私はいちご狩りし放題だよ!ヤバイ!!ラビじゃなくても体型がラビになるよ!!! でも……。
「イチゴは大好きですけれど、やっぱりアビス様と一緒に食べたいです。だから、お気持ちだけ頂きますわ」
攻略なら素直にもらった方が好感度上がったかしら。でもアビス様ルートなんて元々ないし。
それなら、素直な気持ちを言った方がいいよね。
「……フン、欲のない奴だな! お前が指を咥えている横で、この畑を染める朱色を食い尽くしてやろうか!」
えっいちご狩りしてるアビス様生中継してくれるの?? この畑、モグラさんの手入れの賜物かイチゴがぎっしり鈴なりなんだけど、魔族だったら一息で飲み尽くせるのかしら……。お食事は男の人の平均程度だけど。
「はい、アビス様がおいしそうにイチゴをお食べになるのを横から見学させてもらいますわ」
「……冗談だ、お前にもやる!」
拗ねちゃった、可愛い人だなぁ。
「一つ、別のお願い事をしてもいいですか?」
「なんだ、言ってみろ」
「お食事はもう少し近くで……アビス様と向き合って食べたいですわ」
ホントに、切実! でも魔王様に恐れ多い事言ってる? アホな選択肢でバッド直行とかしたらどうすんの! って今更思ったけど、切実すぎて言っちゃった!
「なんだそんな事か……明日からにでもそうさせよう」
向こうを向いたまま、あっさりアビス様は了承。そんな事って! 結構緊張したのになぁ。
「話が反れた。お前が面白過ぎるせいだ」
私がおもしれー女ルートから脱せるのはいつかしら……。でも、明日からのご飯がもっと楽しみ!
「魔界は常に夜だ。なのに魔界イチゴが育つには、多量の光が必要とされる。何故だかわかるか?」
「そういえば……元は地上の植物を、誰かが持ち込んだとか?」
それこそ私がアビス様にさらわれたみたいに。地上の灯りがなくては、か弱き植物は育たないのね……じゃあ推しとご飯と本があればヘラヘラしてる私は何? 図太い動物?
「違うな。魔界イチゴは、俺様が産まれるずっと前から前からある魔界固有種だ。なのに何故、他の植物とは違い、月の明かりだけでは上手く育たないのか──。魔界イチゴが大好きだった幼少の俺様はそれが気になって気になって、調べて調べて調べまくった」
イチゴの繁栄の為に、たくさんの本をめくるミニアビス様! ああ、コレがスチル枚数豪華な乙女ゲーの攻略キャラなら、可愛い幼少スチル付きで語られるのになぁ……! ダメよ笑ったら! 今は大事なお話をしてるんだから!
「そうしてわかった事がある。遥か昔、ここも太陽の光差す場所だったのだと。太陽があれば魔界イチゴだけでなく、たくさんの植物が効率的に育つ。月明かりと魔力の光に頼るしかない魔界はもっと豊かになる。だから──」
魔界の冷たい風が噴いて、アビス様の漆黒の髪を揺らす。赤薔薇の瞳が、楽しそうにきらめく。
「俺様は、魔界に太陽を呼び戻したいのだ。その為にソル王国に伝わる秘宝が必要だ」
輝く推しの瞳と一緒に、彼がどうしてソルファンタジア内でお騒がせキャラをしていたのか、私はようやく知ったのだ。
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