第28話:人手不足には逆らえず?
「我々は登録販売者として、お客様へ適切な医薬品を紹介・販売する義務があります。そのためにも接客が重要です。……自分から声をかけて、お客さんに自分を知ってもらうこと。
「はい……」
真剣な表情で話す悠葵を前に緊張が走る羽那。
「今ある知識で、今後どんどんお客さんに声をかけて、接客の回数を積んでいく。接客以外の業務に関してはひとまず問題はないから、これからの課題は"接客"であることを覚えてください」
「……はいっ」
悠葵から渡されたのは、A6サイズのリング付ノートだった。
「接客をしたら、このノートに記録をつけます。日時・お客さんの性別と年代・どんな悩みで来て、どう対応したかを書いて残していく。もちろん、持病の有無も聞いて書く。もし接客でつまづいてしまったら、すぐ僕らを呼んでください。僕らがどう接客したかもしっかり聞いて書いてください。……例として
最初のページを開き、今日の日付と日時、この目で分かる
「西垣さんの場合……ずっと使ってるけど問題ないよって話だったからいいけど、もし変えたいというお客さんがいたとする。血圧の薬飲んでいる人でも安全に使えるものって分かる?」
「えっと……これと、これでしたっけ」
「正解。糖尿病もだけど高血圧の人も多いから、特にご年配の方に対しては持病の有無を必ず確認しようね」
その後羽那は前出しと補充をし、サプリ売り場の発注をこなし、休憩を挟みまっすぐレジへと向かった。シフト確認で先にサービスカウンターに寄ると、そこには頭を悩ます
「
「学生バイトの子が急に2人も辞めた……」
シフト作成用のサイトを開きながら、頭をカリカリしていた幸乃。
「年末調整だってあるのに、これで1人でも時間オーバーしちゃったらまずいんだよなぁ……。朝9時から10時まで1人にするしかなかろうか……。申し訳ないんだけど、
「……分かり、ました」
力のない返事をし、レジに入り自分の仕事をこなす羽那。ようやく明るい兆しが見えてきたと思ったのに、再び暗い道に逆戻りになるのか――
☆☆☆
今年は保険会社からのはがきが届くのが遅く、提出締切ギリギリに年末調整の書類を出した羽那。
「コトハ、わざわざ電話して催促してくれてありがとう」
「こっちこそ、ギリギリになってすまんね」
出勤前、羽那は事務所にいる朱巴に書類を渡す。
「……実際、レジの人が足りてないのもあるんだけど」
「……」
「……何でもない。書類は何も問題ないから」
朱巴が羽那に何か言いたそうな顔をしていたが、羽那の背後に恭子がいることで"未だに薬局ででは使い者になってない"という本音を言うのをやめた。
「嫌そうな顔してたね、あの子」
「まだ使い者になってないと勝手に決めつけているんでしょう」
口に出さなくても、朱巴の心を読んだ羽那。
「私は、夜の納品の時に大変助かってると思ってるよ。あとは、接客だね」
正午から出勤し、先にレジに入るため一旦恭子と別れた羽那。休憩回しを終えた後薬局に戻り発注をし、夜に再びレジに入るという行ったり来たりの今日のシフトである。既に12月のシフトができており、退勤後確認していたが。
(こりゃあ、厳しいやつだな……)
幸乃も羽那の事情を組んで、悩んで作ってシフトだ。文句は言えない。言いたくない……。それでもかなり、レジに駆り出されやすくなっている。11月いっぱいで、
(……私を使い潰す気じゃないことを祈ってる)
翌日。この日も正午から出勤し、夜6時までレジに入る。何とか品出しが終わり、いつものように来月のレジのシフトを記入する羽那。
「今日は夜7時までに延長だったんですけど、暇だからって1時間早く切り上げてくれたんですよね」
「……そんなにこき使って、コトハちゃんをどうする気なんだろうね? 人足りてないのは分かるけど……裏であの子らが手出してないかしらね?」
ないようである可能性を、恭子は口にした。
「何のためにお願いしたのか意味ないじゃない。レジ係の人員募集を強化すればいいことじゃない。店長ったら何でやる気がないのかねぇ……」
「今月も変更続きます……ごめんなさい」
「コトハちゃんが謝ることじゃない。上が動かないと今の状況変わらないし、今のコトハちゃんの姿を見てないから、やってないと決めつけるのよ」
恭子のこの言葉は、どう見ても正論だった。
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