悪者は皆の敵じゃ! ~コトハの静かな逆襲劇~
はづき
第1章:レジ係・コトハの苦難の道
第1部:再会の裏に潜む暗雲
第1話:約7年ぶりの再会?
2018年の正月。早番の朝9時からシフトが入っている
「新年早々朝イチで駆り出されるとか、ホント人使い荒いよね……」
と、文句を言いながらお雑煮を作っているのが、母・
「ごめんってお母さん。私ぐらいの若い子なんて、お正月だからって特に何もあるわけじゃないんだから、仕方ないでしょー」
テレビではお正月番組が放送されている。音声だけを聞きながら、身支度を済ませる羽那。昨日の夕食は冷めたオードブルの残り物を、入浴後に寂しく食べた。食べ終わった後歯磨きをしてすぐ寝たから、年越しには何だか物足りないような時間だった。
お雑煮ができたようだ。テレビを観ていた父・
「明けましておめでとうございますっっ!」
この年、23歳になる羽那の1年が、この元気良い一声で幕を開ける。
お雑煮を食べ終わり、歯磨きを終えるとすぐ家を出発した羽那。外は静まり帰り、すれ違う人も車もない中、自身がオープンからレジ係として働く24時間営業のスーパー『ボキューズ』A店へ歩みを進める。今年で5年目。短大1年のオープン当時学生バイトで雇われ、将来何もやることがなく就職せずに卒業してしまった羽那を温かく歓迎してくれたこの職場は、いい人たちばかりだ。
A店に着き、ロッカー室で制服のエプロンをつけている最中に、羽那の背後から声が。
「おはようございまーすっ!」
声の主は同じレジ係のパート・
「おはようございます、立田さん。明けましておめでとうございます!」
「今年もよろしくね、コトハちゃん」
コトハという呼び名は、羽那のフルネームの真ん中を切り抜いただけのあだ名である。中学時代に誕生したこのあだ名は、高校・短大と続きイチ社会人となった今も多くの人に浸透している。
(このあだ名も今年で10年。あだ名の力って凄いわ……)
羽那がタイムカードを押そうとすると、勤務者一覧の中に見覚えのある名前を目にする。
(――あ、
「どうしたコトハちゃん?」
江里子が覗き込むように羽那の様子を伺う。
「あ、いえ何でもないです! ……私も出勤しました。さあ、行きましょうか」
羽那は慌ててタイムカードを押し、江里子と共にレジへ向かう。するとそこには見覚えのある人間が、そこに立っていた。正体は間違いなく、羽那の小・中学時代の同級生・
「お疲れ様でーす。今年もよろしくね」
「あ、はいお疲れ様です。今年もよろしくお願いします」
早朝で働く朱巴は江里子とレジを交代するようだ。向かい合いのレジでぽつんと立つ羽那は、簡単な挨拶を交わす2人の様子を見ていた。朱巴は羽那の姿に気づいていたのか、
「お疲れ様です」
それだけ言ってレジを離れていった。
その後数人のお客さんのレジ対応を終え、羽那は誰もいないうちに江里子に話す。
「先程いた人……実は、小・中学の時の同級生なんです。苗字が変わっていたからもしかしたらって思っていたんですけど。中学卒業してから初めてです、見かけたのは。約7年ぶりですね……」
「ど、同級生!? 世間は狭いねぇ。あの子――紀本さんは高校卒業してすぐ結婚して、2人子供がいるんだって」
22歳で既に子供が2人。この事実を知った羽那は頭を抱える。
「そんな顔しないでコトハちゃん。まだまだこれからだって。いくらでも出会いなんてあるから〜」
会話を遮るかのように、寿司やオードブルといった正月のご馳走をごっそり持ってやってくるお客さんの数々。羽那の胸の内は。
(……いるけど、自分勝手過ぎてどうしようかって悩んでるのよぉぉっ!!)
羽那は、SNSで知り合った同い歳の男と数か月付き合っている。別に女の影があるわけではないが、既読無視や電話の約束破りが酷く、もうじき別れそうな気配がしていた。
先に江里子が退勤する。そして、あっという間に退勤時間になってしまった。羽那は新年早々、久々に個数間違いを犯してしまった……。1個のはずが2個、打たさっていた。
(新年早々何なんだ……)
何となく、この年は嫌な1年になる気がしていた。それが的中する出来事が、朱巴によって引き起こされることとなる――
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