ダーウィンズオーダー

益井久春

第1話 強肉弱食

「お前、能力持ってないんだってな。ウケるw」


「何もできないとか無能かよ?」


「雑魚は学校来んなよwwwバーカバーカw」


「こら!そこの3人とも、異能を持ってない竹男くんを虐めるのはいけませんよ!」


そう言いながら先生は電気を右手に纏い、それを3人のいじめっ子たちに向けて放った。電気はビリビリと音を立てながらいじめっ子たちの方に向かう。


「「「ああああああああああああ!」」」


高い叫び声を上げながら3人が床に倒れる。


「ごめんなさい、もうしません……」


いじめの中心だった安崎くんが床に顔を向けながら言った。残りの二人も続けてそう誓った。


この世界では、弱いものいじめは絶対悪だった——。


————


それから10年後、僕、矢橋やはし ようは大人になっていた。


『続いてのニュースです。先日、無能者デリケイトとして知られる男性芸能人、飯村いいむら 竹男たけお氏をインターネットで批判した疑いで穴木 椎夏容疑者が逮捕されました』


そこには、僕の元クラスメイトの竹男くんを侮辱して逮捕された女子高生が映っていた。

全く。こんなニュース報道しなくていいと思うんだけど……。


今から数十年前。謎の光によってほとんどの人が「異能」と呼ばれる不思議な力を手に入れた。

でも、1%の割合で何の力も持っていない人たちもいた。彼らは『無能者デリケイト』と呼ばれ、不平等の是正のためにかなりの優遇措置を受けた。次第にそれはどんどんエスカレートしていき、その結果がこれだ。


たかだかネットで一言侮辱したぐらいでこうなるとは、怖い世界になったと思う。もし竹男くんが異能者だったら、これくらいで逮捕されて実名で報道されるようなことにはならないだろう。


「洋!朝ごはんできたよ!」


お母さんが僕に向かってそういう。僕はゆっくりとダイニングルームに向かうと、そこでゆっくり朝ごはんを食べた。今日の朝ごはんは白米と焼き鮭、味噌汁だ。


「よっ……と」


僕はそう言いながらコップに力を込める。すると、コップの底から水が出てきて、4分の3くらいのところで止まった。


これが僕の能力、【水作りアクアメーカー】だ。水を生み出すっていう一見すごい能力だけど、操ることはできない。


ごくごくごくごく……僕は生成された水を飲む。自分で言うのもアレだけど、僕が能力で生み出した水はとても美味しい。


「ごちそうさま」


僕は出された朝ごはんを全て食べ終わると、そのままパジャマから今日の服に着替える。


今日は彼女の菱田ひしだ 絵梨奈えりなちゃんとデートする日だ。彼女は茶髪のロングヘアが特徴の美少女で、15cmほど浮遊できる能力を持っている。


僕は服を着替えると家を出て、40分ほど歩いた先にある待ち合わせ場所に向かう。予定時刻である10時30分の10分くらい前に到着した。


「あ、おはよう、洋くん♪」


ぷかぷかと浮遊しながら絵梨奈ちゃんがこっちにやってきた。


「あ、来てくれてありがとう、絵梨奈ちゃん」


「今日はどこにデートしようかな?」


「隣の地区に最近できた美術館とかどう?」


「いいね。そっちに行こうか」


僕と絵梨奈ちゃんは並んで隣の地区に向かった。嬉しさのあまり全力で駆け出してしまって、途中から浮いてる絵梨奈ちゃんとの間に少しだけ距離ができ始めた。


でも、彼女を置いていきそうになったらわざわざバックして、できる限り離れないように最善は尽くした。


「あ……」


俺が絵梨奈ちゃんを置いていきそうになって戻ろうとした時、目の前には赤信号が見えた。


「……信号が青くなるまで待っててね」


「わかった」


十秒くらい後に青信号になると、絵梨奈ちゃんは浮遊をやめて走り出した。しかし、その横から明らかにスピード違反をしている速度で砂利を積んだトラックがやってきて、彼女の体にぶつかった。


「……え?」


右手に何かを掴んだのでみてみると、それは絵梨奈ちゃんのものと思われる血まみれになった片手だった。


「うっ……うわあああああ!」


ぶつかって停止したトラックを運転していた中年の男は、泣き叫んでいる僕の顔を見るなりどこかに行ってしまった。


僕はその様子を見て警察に通報する。しばらくすると、何人かの警察官が奴を取り押さえて、警察署に連れて行った。


2日後、僕は裁判所に被害者の関係者として、絵梨奈ちゃんの家族と一緒に呼ばれた。

そこには昨日彼女を轢き殺したあの憎き男がいた。


「判決を言い渡します……被告人、木佐きさ 香四郎こうしろうを無罪とします」


無罪……だと?


ふざけるな。スピード違反をし、赤信号が出ているのに罪のない女の子の命を奪い、それで現場から逃走したこの男が無罪だなんて。


「ふざけるな!なんでお前が無罪に……」


「法廷ではお静かに」


「まあまあ。一ついいことを教えてやるよ。弱いものいじめはダメなんだぜ?」


木佐は最悪な笑いを顔に浮かべてそういった。


「ふざけるな。お前のどこが弱者だ。もしお前が異能者だったら無罪で済んでるわけがないだろ!この生まれた時の運がたまたま良かっただけの卑怯者が!」


「卑怯者?ハッ!笑わせてくれるな!俺からすれば力を持って生まれたお前らの方が十分卑怯者だけどな?」


「……ふざけるなよ。こいつらがいなかったら何もできないくせに」


「負け惜しみザマァ〜wま、俺は無実だって証明されたんでお先に失礼しますねぇ〜」


「お前ぇ……」


僕は閉廷の合図と同時に奴を追いかける。裁判所から数十メートル離れたところで、俺は奴を捕まえた。


「なんでついて来たんだ、お前エェ!?」


「決まってるだろ。僕の恋人を殺したお前が憎いからだ」


僕はそういうと木佐の胸ぐらを掴み、奴の肺に水を限界まで送り込むイメージを作る。木佐が苦しみ出した瞬間、僕は奴の首を掴み、腹部を全力で蹴り上げた。


「ぐはぁっ!」


「これが……僕によるお前への罰だ。せいぜい反省しろ」


「う……うう……」


僕はそういって木佐を後にする。


「……ターゲットを発見。排除する」


その声が聞こえて俺は振り向いた。するとそこには赤と黒のセーラー服のようなものを身につけた、中性的な外見の少女がいた。


彼女はナイフを取り出して自分の手首を傷つけると、そこから出た血を鎌状にして、木佐の首を切断した。


「……無能者ゴミを掃除完了」


「……は?」


「憎かったんでしょ?こいつのこと。私、傍聴席からこいつが裁判受けてるところ見てたの。やっぱり最悪な奴だった」


「あ、あの……ありがとうございます」


「礼はいい。そんなことより、あなたが本当にこいつを憎んでて殺したいんだったら……ここに来て。それと、私に会ったことは誰にも言わないで」


彼女はそう言いながら僕に二つ折りされた小さな紙を渡して、どこかに消えていった。


僕がそれをペラッと捲ると、この裁判所がある町の地図が印刷されていた。そのうちの一箇所には、謎のマークが描かれていた。

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