いつかの平凡な少年は
@chatnoir_0321
この体は誰のもの?
第1話 異世界転移?
「うぐっ」
地面に放り投げられた。体全身が痛い。暗くてなにも見えない。怖いよ。
全身が徐々に冷えてきたように感じる。死ぬのかな。
(死にたくない、よ)
意識が途切れる、その瞬間、床が光った様な気がした。
---
カッカッとチョークと黒板が擦れる音がする。
小気味良い音を聞きながら、僕はのんきに将来の夢について考えていた。
ノートとにらめっこしながら丁寧に文字を連ねている先生の後ろ姿をぼーっと見つめる。
うーん、学校の先生は大変そうだしなあ、、将来は楽で楽しくて稼げる仕事に就きたいなあ、
阿呆みたいに口をあけながらそんなことを考えていた。
ふいに外から
ぽつぽつ
と音が聞こえ始めてくる。
天気予報は、晴れって言ってたけどやっぱあてにならんなあ、
今日はついてないと思い、顔をしかめながらカーテンのわずかな隙間から外を眺めた。
(…は?)
一瞬で目が乾いていくような感覚を得る。窓を挟んだ反対側で僕が今まで経験したことがない現象が起きていたのだ。
ありえない。
その時、僕の目に映っていたのは虹色に輝く雨だった。
雨空に虹がかかってるとかじゃなくて、雨の一粒一粒が色を持っていた。
僕はその非現実的かつ幻想的な光景に心を鷲掴みにされてしまい。
巨大な雷が落ちたかのような音と脳裏に電流がバチッと走ったような感覚を最後に、
意識を失ってしまった。
---
都内のとある男子校の校庭にたくさんの救急車が整列していた。次々と多くの人が担架で運ばれていき車に乗せられていく。その中には先ほどの少年の姿もあった。すべての人に外傷は見当たらなかったが目の瞳孔は完全に開いていてその後病院に搬送されたが死亡と判定された。
「脳が溶けてるのか?」
解剖医は死因を原因不明と診断し、ニュースでは摩訶不思議な事件として至るところで報道される。
平凡な人生を送るはずだった少年はあの時窓の外を眺めてしまったことが仇となりその地での生涯を終えた。
Day1
ひんやりとした空気を肌で感じ、目を覚ます。
うーんと唸り、周りを見渡しながら立ち上がる。
前方から少し光が差し込んでいて、うっすらとだけど周りがみえた。
頭がうまく回らない状態ではあったが、足早に光が差し込んできている方向へと向かう。小さいころから暗いのが苦手で、いますぐここから離れたいと思ったためである。
どうやら岩の割れ目から光が漏れていたようだ。
ここからどうにか出れるか試してみるとすんなりと出ることができた。
目が慣れておらず日差しが強く感じ、手で遮ろうとする。涼しい風に髪が揺さぶられる。辺りは広い草原であった。
慎重に周りを見渡すといたるところに動物がいた。が、どの動物もゲームでしか見たことがない姿をしていた。
日本じゃウサギに角は生えてなかったし、鳥やカエルもあんなでかくはなかった。
ようやく頭が回ってきた。深く深呼吸しながら、状況を再確認しようと試みる。
「え?」
自分の体を確認してみると、かなり手が小さくなっていて驚いた。視線もなんか低くなってるし、もしかしなくても僕は幼くなっているのか。
驚くべきことはまだまだあった。
まず服が変わっていた。それも中世の農民が来ていそうな粗末な服で着心地がかなり悪い。
右腰に違和感を感じ、ふと目を向けると短い剣がぶら下がっていた。おっかなびっくりで不格好に剣を鞘から抜いてみると刀身は鈍っており、まるでなまくら刀のようだった。危ないのでとりあえず納めておく。
…おそらくこの不思議な状況はまさにアニメでよく見る異世界転移というやつだろう。
「いや意味わからん」
顎のラインを右手で撫でながらをついぼそっとつぶやいてしまう。
2次元で見る分には面白いものだが、現実に起こってはただの死活問題になる。
そう死活問題。都合よく食料や寝床がそこらへんに落ちてるわけではないし、どうにか調達しないと普通に死んでしまう…
いろいろ知りたいことはあるが今誰かが教えてくれるわけではないのだし。
とりあえず今すべきことはそう。
食料を調達しよう。
カエルとか食料にちょうどいいんじゃないか、意外に高タンパク質らしいし。簡単に殺せそうだし。
なんて物騒なことを考えながら、潜伏した状態で近づいてカエルをじっくり観察する。
「いやでかすぎんだろ…」
前言撤回。僕には倒せそうにないです。
大きな口は大人一人なら簡単に丸吞みにできそうなほどであり、前腕は大木のように太く、そして脂肪をたっぷりと蓄えてそうなほど膨れ上がった腹をもっていて自分が持っている短剣では致命傷を与えることが想像できない。
「グエッ」
「うおっと」
気づかれてしまったらしいのでひとまずその場から離れた。
どうしようかと頭を悩ませる。カエルのほかにもウサギなどの小動物はいるが、やつらには鋭い角が生えていて、下手したらこっちがやられてしまう可能性だってある。
果物が見つかれば食料問題は解決するだろうが、見渡せる限り草原しかなく木は一本も生えてない。
あれ・・もしかして詰んだ?と半ば茫然として立っていると、どこからか人の笑い声が聞こえてきた。
自分以外に人がいることに非常に安堵し、助けを求めようと思ったが、どんな人間かがわからないので、結局見つからないようすぐにさっきの祠に戻り身を潜めた。暗くて怖いが、ここが一番安全だろう。
しばらく祠に隠れていると爆音や怒鳴り声が聞こえ始めてきた。カエルが激しく鳴いていたがそのうち静かになった。
外の様子を覗き見ると、なにやら複数人でカエルを解体している。
それはかなりショッキングでグロテスクな様子だったが、僕は解体されているカエルなんかよりも、解体している人たちに、詳しく言うなら顔に目が行った。
人間の顔じゃない、なんだあれ。
その顔は僕が想像していたものとは違い、いうならば犬や猫の顔そっくりであった。
それでいて人間の言葉を話しているからほんとうに驚く。
とんでもないところに来てしまったなと今更ながら実感。
そのあともしばらく潜伏しながら様子をうかがっていたが、一部の部位を残して彼らは去っていく。祠から出て、近くに寄ってから先ほどのカエルの肉片の様子を見ると、ほどよく焼けていて香ばしい匂いがしていた。戦いにおそらく火を使ったのだろう。
これはしめたと思い、肉を回収して僕は祠に戻った。
肉の置き場所がなかったので衛生上良くないとは思ったがその辺の岩の上においておく。…自分が実は大雑把な奴だったということを知った。新しい発見だ。
そういえば祠の中をじっくり観察してなかったなと思い立ち、四つん這いになり目を凝らしながら手探りで調べていくことにしたのだが、これがかなりの収穫を得た。食料があったのだ。乾いたパンと酒かワインのようなものが袋に閉じられた状態で置いてあった。パンはそのまま食べれるし、このお酒は当分の間水の代わりに飲むことにしよう、ということで食糧問題は無事に解決された。
これでしばらくは生き延びることができる・・・と安堵すると同時にどっと疲れが寄せてきて、眠気に襲われた。
寝る前に何か違和感を感じた。何か少し引っ掛かる。それもかなり大事なことのように思えたが、頭を働かせることが苦手な僕は考えるのをやめ、そのまま壁に寄りかかりながら意識を失った。
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