第2話 勇者の正体
遠い昔、ここ愛羅市には魔王がいた。そして、その魔王を倒した勇者もまた、石となって長らくこの街に眠っていた。
私はその遠い子孫。彼が残した、唯一勇者がいたことの証明。
毎日彼の石像を磨き、意味は無いとしても供え物をして、たまに上手くいかないことがあればお祈りをして。
本物の神様がいたり、結構魔法や奇跡が適当に扱われるようなこの街で、なぜか彼だけが本当に頼れる存在のように感じていた。
けど、今目の前にいる勇者は、私そっくりだけど品のある女性で……
「ふむ、何万年経とうが、結局通信機器は薄く小さくなるものなのだなぁ」
スマホを片手に、目を輝かせるような人だった。
「あの、勇者……様。私の知るかぎり、あなたは男性とお聞きしたのですが」
「いや? ご覧の通り、私は女だ。おそらくは、旅の仲間が男として記録したのだろう。当時の女なんて、子供を産み育てるばかりで、何をするのも許されなかったからな」
「そんな……でも、それじゃあどうして勇者様が魔王討伐なんかをしたのですか?」
「簡単な話だ。私が女にしては珍しく剣の才を持ち、この聖剣に選ばれた。それだけだ。
あと、勇者様と呼ぶな。私の名前はアイラ。この街の名前の愛羅は私の名だ。覚えておくように」
私の中の、勇者様のイメージが崩れていく。
私の家に保存されている、勇者の仲間が記した伝記には、彼は明朗快活で、熱血な好少年であると書かれていた。
なのに、目の前のアイラ様は、落ち着いて思慮深く、まるで子供を育てた母親のような……実際、私の遠いおばあちゃんであることに間違いは無いのだが。
「それで、私の子孫……名前は?」
「えっ、あっはい。私は、その……愛菜といいます」
「アイナか、いい名前だ。それで、アイナ。君に聞きたいこと、頼みたいことがある」
「私に出来ることなら、なんでも言ってください」
「うん、じゃあまずは……スマホが欲しいな。私の分」
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