夏祭り会場にて
最近では諸事情で中止が相次いでいた夏祭りだが、最近では再び再開するところもあるらしい。一部はそのまま廃止になってしまったそうだが、これはフルタさんが体験した激減以前、割と多くのところで夏祭りが行われていた頃の話だ。
夏の日が傾き、夕焼けから夜空に変わってくる頃、友人のアキラから夏祭りに行こうぜと電話がかかってきた。彼女もいないのに退屈なんだよと思ったが、アキラはそれを見透かすように『高校も最後だしいい女がいたらいい思い出になるかもしれないだろ?』と言われ、下心に正直に彼は夏祭りに行くことを決めた。
なんだかんだ受験組は地元を離れる連中が多いので、必然的に恋愛関係にあった男女は遠距離恋愛か別れることとなる。案外あっさり別れる連中もいると聞いていたので、少し暗いチャンスが無いだろうか? そんな考えから皆で集まった。
アキラは遊人数人を呼び出しており、全員で会場だという近所の神社へ向かった。
そこでは幾人かの子供が駆け回っており、それを眺める大人がいるという光景だった。
残念ながら、可愛い娘どころか高校生がそもそもいない。甘酸っぱい出会いなどとは無縁の一言で片付くような静かな夏祭りが行われていた。
わずかに出ている夜店がここで夏末が行われていることを示していたが、生憎男子高校生に綿菓子だの日曜の朝からやっているアニメのお面だのは必要無い。
全員が白けてしまったのだが、せっかく祭に来たのだからと、全員無理をして夏祭りを楽しもうとした。しかし祭だというのに騒いでいる連中が全く見当たらない。静かなもので、駆け回っている子供さえ大声を発しているものは居なかった。
神社の本殿に目をやると、子供にキツネ面を配っている巫女さんが見えた。それなりの年だったがまあ美人だななどと思いつつ、よく見れば子供からお金をもらっている様子も無いのに面を子供が来ると渡していた。まあ、宗教行事的な意味もあるのだろうと納得するしか無かった。
稲荷神社なのでキツネ面なのかと大したことのないことを考えていると、アキラのスマホが着信音を発した。夏祭り会場だというのに静かなのでただのスマホの着信音がひどく目立った。
電話に出たアキラは顔色を変えて『お前ら、ちょっと来い』と言い、両手で二人を引っ張り、残りを顎でついてこいと合図をした。別にアキラがリーダーだというわけでは無いが、有無を言わせぬ雰囲気があったので全員それについて行った。
そうして神社から離れ、地域の公園に着くと、そこではザワザワと大勢の人が集まってお祭りをしていた。
「なんだ、ここでもやってんのか」
いい感じにフリーの女もいるななどと考えているとアキラが震えた声で言う。
「ちがう……ここでしかやってないんだ」
始めは意味が分からなかった。少しずつアキラが話したことによると、電話の主はアキラの姉で、この祭に来ていたのだが、弟の姿が全く見えないので何か悪いことをして居るのではないかと念のため電話をかけてきたらしい。そのときに神社で祭りをしてるだろと言ったら姉に『はぁ? お祭りは公園っていったじゃん』と言われ、急に目の前の光景が不気味になり、スマホから漏れ聞こえる祭のざわつきから、おそらくそちらが本当の会場なのだろうということで全員を引っ張るように連れてきたそうだ。
公園の祭は見事なもので、夜店もたくさん出ており、走り回る子供は林檎飴や綿菓子を持って、狐面などではなく、子供らしいアニメや特撮のお面を付けて騒いでいた。どちらが夏祭りらしいかといえば比べるまでもない差だった。
皆無理して祭を楽しもうとしていたのだが、どうしても納得がいかず本気で楽しむことが出来ないまま夏祭りは撤収を始めていた。
どうにも納得がいかないので『神社の方も確かめないか? あっちでも勝手に祭をやってたかも知れないだろ?』近所で二カ所同時に祭をするなど奪い合いになるのでするはずが無いとは思うのだが、見えてしまったものがある以上納得いかずそう提案した。
悲壮感も漂う顔でアキラが嫌がったものの、他の連中は納得がいかないので神社に行くのに賛同した。結局多数派に押され、アキラも最終的には参加して全員で神社に行った。
その結果は芳しいものではない。本当に神社は何も無かった。大人も子供もいない、あの巫女さんもいないし、いくらか点いていたような明かりすら無かった。
納得はいかなかったが、夏祭りはそこではなかったという結論になり、全員釈然とはしないまま帰っていった。
その後、アキラに会った時に不思議に思ったことを訊いた。
「なあ、あの時なんで神社に呼び出したんだ? 神社と公園じゃ間違えるにはおかしくないか?」
そう訊くとアキラは暗い顔をして言う。
「思い出せないんだ……確かに家族の誰かから神社で祭りをしているって聞いたはずなんだよ。でも誰も俺に祭の事なんて言ってないって言うんだ。姉貴は俺が祭に行ってくるというから公園に行ったと思ってたらしい。だから誰も俺に祭の会場なんて言ってないはずなんだよ……なあ、俺は誰にそれを聞いたんだろうな?」
結局、フルタさんはアキラのその問いに答えることは出来なかったらしい。
「結局、真相なんてものは無いんですが、アレを見た記憶だけは確かなんですよね。俺たちはキツネに化かされたんでしょうか?」
私は『それほど不吉なものでもないのではないでしょうか、少なくとも害は無かったわけですし』そう言うとフルタさんは納得していない様子だったが、なんとなくはその理屈を飲み込んでくれたようだった。
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