雨女
「私は雨女なんですけど、それにしたって酷い目に遭いましたよ」
そう語るのは天野さん。大学生だが、高校時代に何とも理不尽な目に遭ったことがあるそうだ。
ええと……FPSって言えば分かりますか? 銃で撃ち合うゲームですね。
私は頷く。一時ほどの熱気は冷めたとはいえ、まだまだPCゲームの主流と言っていいジャンルだ。
梅雨時に友人とゲームをプレイしていたんですよ。チームでランクマッチに参加してそこそこの順位をとっていたんです。勉強の方は程々に、ゲームに熱を上げていたんです。雨の中出かけて遊ぼうなんて場所も無いですし、地元じゃ駅まで結構な距離がありますからね。
私はボイスチャットで通話しながらゲームを始めようという事になりました。見知った友人たちとのゲームなので気楽にプレイ出来るんですが、それでも負けたい人はいませんから、作戦を練りながら皆でゲームを始めたんですよ。当時はグラボがまだ安かったですからね。今みたいにPC本体より高いなんてことのない時代ですよ、良い時代でした。
彼女は感慨に耽っているが、つい数年前のことをそんな感傷的に語るのかと思った。
それで私がスナイパー、ショットガンとメディックでスリーマンセルでの戦闘を始めることになりました。待機所で待ってから戦闘が始まりました。飛行機からの落下地点は相談済みです。悩むことなく輸送機から降下して戦闘が始まったんです。
運が良かったんでしょうね、私たちのチームが降りた場所はちょうどエリア外にならないギリギリの場所でした。少し外に動くとダメージエリアになっているのでジリジリと減っていくエリアにそって動きました。私たちは高所を確保してそこからよってきた人をスナイプするのが役目でした。ショットガンの出番はそんなになかったですね。
ただ……そう上手くはいかないもので、突然雨が降り出したんです。ボイスチャットで『なにコレ!?』『新しいギミックじゃない?』『こんな時に!』と突然の雨にイライラしながら戦闘を継続しました。でもスナイパーライフルの主観に雨が写って遠くがよく見えないんですよ。スコープ無しのオープンサイトにしておけばと思いながら戦闘を続けました。最後の方まで残ったんですが、私はスナイパーライフルが使い物にならず、結局三人でショットガンで戦う羽目になりました。運良くその試合は勝てたんですが、その後ログアウトして公式を見たんです。
ボイスチャットを繋いだまま話し合ったんですが、誰も雨のエフェクトが実装されたという情報を見つけられなかったんですよ。それで友達が冗談で『天野は雨女だよね』なんて言うんですよ、いい迷惑ですよ。
その減少は何回かあったんですが、梅雨が明けると不思議と起きなくなりました。今さら蒸し返すようなことでもないのかもしれませんが……私たち以外にあの雨のエフェクトに言及している人がいなかったんですよ。まるでそんな新機能はないとでも言いたげでした。私は本当に実装されていないはずの機能だったらと思うと怖くて言い出せませんでした。
大学でもサークルでゲームはやっているんですが、宇宙を舞台にしたものなので雨の概念はありがたいことに無いんですよ。あまり思い出したくない経験ですね。
私は彼女に謝礼を渡すと、彼女は『これでグラボが買える!』と喜んで駅の方へ向かっていった。真相を確かめる気にはならなかったが、それにしても理不尽な話だと思う。
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