冷房の使えない教室
とある地方の高校には『夏にエアコンを付けてはならない』と、担任がキツく言う教室があった。まだエアコンが普及期で、割と早めに導入したらしいが、一番活躍しそうな夏場につかってはならないと言う。
その理不尽なルールに生徒たちは腹を立てていたが、冷房のスイッチに鍵が付いていてどうにもならなかった。時代が時代なので窓を開けていれば熱中症にはならずに済んだが汗はダラダラとかく。
そしてそのエアコンは冬期に暖房としては活躍をしている。しかもその時期はエアコンのスイッチのカバーが外され、生徒が誰でも調整出来るようになっている。そのせいで夏にだけ使えないことには不満がたまっていたものの、高校の教室のため、一年すれば別の教室に移るので我慢して汗をかいていた。
「まあ……よく分かんない習慣だとは思っていましたよ。なんでそんなわけのわからないルールがあるのか知らなかったんですが、暑いからと教師の心証を悪くしようと思うやつもいなかったんですよ」
そうかたる西園寺さん。彼の通っていた高校の話だそうだ。
そして、禁止されていればそれを破ろうとする人も出てくるもので、エアコンをつけようと鍵を探していた生徒もいた。当然ながらそんなことをすると叱られていた。
「それまでは問題無かったんですよ……ただ、ついに力技に出るやつが出てきまして……」
エアコンの電源を覆っているカバーはプラスチック製だ。鍵があるとは言え、カバーが頑丈でなくてはどうしようも無い。とある素行悪めの生徒がある日教室でドライバーを取り出した。
「まったく……エアコンくらい自由に使わせろってんだ」
そう言ってエアコンのカバーの隙間にねじ込んだ。生徒たちはざわめいたものの、ソイツは続けてついにカバーがネジで留められているところが折れた。これで誰でもエアコンが使えるようになってしまう。
設定温度をイタズラに十八度まで下げて、冷房モードで起動した。すぐに冷たい風が出たのだが、あっという間に教室から生徒は逃げ出した。エアコンから出てくる風がとんでもない悪臭を放っていたからだ。カメムシなど比ではない、腐った卵より酷い悪臭が勢いよく出てきたのですぐに逃げた。
その様子をたまたま見ていた教師が、口にハンカチをあてて教室に入り、エアコンを切って窓を全開にして出てきた。そうしてしばし教室は使えなかったが、一時間ほどでその悪臭は流れ去った。
「その時は不思議だったんですが、エアコンをつけた生徒が怒られなかったんですよ。どうしてだろうと思ったんですが、後日匂いの原因を聞いて納得しましたよ」
その理由はゴシップ好きの生徒が探り当てたと言ってコソコソ噂として流していた。
それによると、どうやら真夏の休日中にあの教室で自死した生徒がいたらしい。真夏であり、夜も十分な熱気がこもるような環境だったため、遺体は腐敗が進んで酷い悪臭を放っていたらしい。それからエアコンを夏につけるとあの悪臭が流れてくると言う話が立って、生徒が自死したことを広めたくない学校側は夏場のエアコン使用禁止を決めたらしいとのことだった。
学校側はその生徒にカバーの破壊以外の処罰を加えるとその忌まわしい事件が蒸し返されると思いあまり強い処分は下せなかったという話がまことしやかに流れていた。
「結局、噂ですし、何故学校を死に場所に選んだのかは隠し方が上手いのか分かりませんが、それ以来その教室で夏場にエアコンを使おうとする生徒はいなくなったらしいです」
話してくれた西園寺さんは結構な年だがそんな状況が猛暑が辛くなった今でも続いているのか訊ねると、彼は笑って答えた。
「心配は無くなりましたよ。少子高齢化ってやつで、生徒が減ったので真っ先にその教室が使われなくなったんです。だからエアコンは電源が繋がっていないらしいです。もう夏にも冬にもエアコンが動くことはないらしいですよ」
そう言って話を締めた。謎はいくつか残るが、これ以上何も起きなければ良いでしょうというのが西園寺さんの談だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます