124.エルフ上級者

「契約するぞ」


上位チャット:始まった

上位チャット:大事なことなので第一声で言いました

上位チャット:※告知は三分前です

上位チャット:それより、ここどこ?


「《2.5D》事務所」


 駅近くにある古ぼけた小さなビル。その二階部分にある応接室に俺は来ていた。


上位チャット:え

上位チャット:契約ってそっち!?

上位チャット:ちょっと待って新情報に頭が追い付かない

上位チャット:つまり、エルフさんがVに!


「ならないぞ」


上位チャット:あれ?

上位チャット:違うの?


「俺、エルフだろ?」


上位チャット:はい

上位チャット:そうですね


「契約できない」


上位チャット:なんで?????

上位チャット:圧縮言語やめてもろて

上位チャット:もう少し詳しく


「ダイレクトメッセージが面白そうだったから契約しようと思ったんだけど、今の俺は戸籍もない状態だからな。本人証明がしにくい」


上位チャット:あー、そっか

上位チャット:キョーカちゃんとも証明でひと悶着あったのすっかり忘れてた

上位チャット:日本人の男性名で契約書作られても困るわなw

上位チャット:それでどうなったの?


「キョーカが《2.5D》に連絡を取ってくれて、キョーカの案件に俺が登場するという形でまとまった」


上位チャット:なるほど

上位チャット:所属タレントの家族を名乗って仕事を請け始めるエルフ

上位チャット:傍から聞くと、めちゃくちゃ怪しい話だ

上位チャット:身元不明の未成年外国人に仕事させて、自分の口座にお金を入れさせるキョーカちゃん

上位チャット:あれ? エルフさんよりキョーカちゃんが怪しくなってきたぞ?


「念のために発言するが、私はやましい契約をするつもりは毛頭ない」


 俺はガラステーブルを挟んだ対面側にカメラを向けて、仕立てのよい服を着た痩躯の青年を映す。


上位チャット:どちら様?

上位チャット:誰?

上位チャット:2.5Dの社長だよ

上位チャット:若いな、まだ二十代くらい?

上位チャット:へー、男性だったんだ

上位チャット:やましい契約をしないって、どんな契約をするつもりなの?


漁火いさりびセーレを経由する形であるが、この案件に関して、我が社は取り分を主張しない」


上位チャット:あ、そうなんだ

上位チャット:「キョーカちゃんをダシにうまいことやったな」って思ってすみません

上位チャット:名義貸し無料!


「払っても構わないんだぞ?」

「私は所属タレントの環境を整えることが箱の仕事だと自認している。所属していない配信者が自力で得た案件から利益をかすめ取るのは、我が社の仕事ではない」


上位チャット:ほえー

上位チャット:しっかりした考え方してるのね

上位チャット:そのおかげか、2.5DはVの中でも個性的な面子が揃ったよね

上位チャット:確かに

上位チャット:炎太郎の筐体の手入れもしてると聞いた

上位チャット:喋らなすぎて電子音声疑惑すらあったセイレーンは他社じゃVやれないわ


「これからもキョーカをよろしく頼む」

「満足に活動できるよう微力を尽くそう」


上位チャット:お、エルフさんが2.5Dを認めた

上位チャット:エルフさんを怒らせて、キョーカちゃん脱退の展開にならなくてよかった

上位チャット:夏だからって怖い話はやめて


「そういう心配はしてなかったぞ」


上位チャット:そうなの?

上位チャット:過保護エルフさんにしては意外






「だって、エルフに自信ニキだぞ?」






上位チャット:ん?

上位チャット:は?

上位チャット:え?

上位チャット:んんんんんんんんんんんん?

上位チャット:待って、誰がエルフに自信ニキ?


「社長」


上位チャット:?

上位チャット:……?

上位チャット:待って待って、どういうこと?


「社長がエルフに自信ニキの中の人」


上位チャット:どういうこと?

上位チャット:え、待って、衝撃が大きすぎて意味がわからない

上位チャット:マジで?

上位チャット:それ、言っていいの?


「Vじゃなくても、中の人は言っちゃダメなのか?」


上位チャット:そうじゃないw

上位チャット:あのー、社長さん? マジっすか?


「事実、そうなのだが……どうして、私がエルフに自信ニキと呼ばれる人物だとわかったのだね?」

「喋り方」

「……そうか」

「おう」


 なんか、社長が額を押さえ始めた。頭痛でもするのか?


上位チャット:もうちょっと、何か推理要素ください!

上位チャット:いつでも「エルフさんだからしかたない」で済ませてもらえると思うなよ!


「社長は俺を信用してたからな。タレントを大事にして環境を整えることを仕事と言っているのに、キョーカに近付く怪しいエルフをそんなに簡単に信用するのはおかしいだろ?」


上位チャット:まあ、うん

上位チャット:俺らもさっき身元不明エルフは怪しいって話をしてたわ

上位チャット:エルフさんを信じられるだけの下地があった、と


「あと、エルフ耳をめっちゃ見てたから」

「うっ!」

「触ってもいいぞ?」

「ううっ!」


上位チャット:これはエルフに自信ニキですね

上位チャット:間違いないわ

上位チャット:やっぱり、エルフ大好きじゃねーか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る