120.猫とエルフさん

「お兄ちゃんの視聴者さん、船乗りさん、おはようございます。セイレーンです」


上位チャット:キョーカちゃんは挨拶ができるよい子

上位チャット:船乗りも呼んでもらえた!

上位チャット:今日もなんだか可愛いの着てるね

上位チャット:ねこねこ


「ありがとうございます。これもお兄ちゃんが選んでくれたんですよ」


 リビングで視聴者と遊ぶキョーカ。黒い猫の足跡が描かれた大きめの白地のシャツに、足跡がお尻まで続く揃いのスカートが本日の装い。猫耳のような癖の付いたフードも似合っている。


上位チャット:ほう

上位チャット:これもエルフさんコーデなのか

上位チャット:エルフさんって猫好き?


「ん」

「お兄ちゃんは猫捕まえるの上手なんですよ」


上位チャット:猫捕獲のプロ、エルフさん

上位チャット:エルフに自信ニキ、これはもしや!?


「地面に丸を描くと来るぞ」


上位チャット:あ、違った

上位チャット:エルフに自信ニキの出番じゃなかったです

上位チャット:解散

上位チャット:よく考えたら、キョーカちゃんが知ってる時点でエルフになる前か


「残り物でエサを作ると長居してくれるぞ」

「わたしもあげたかったんですけど、止められちゃって……」

「人間は食べられても猫が食べられないものは多い。あと、人間用の味付けは猫には濃すぎる」


上位チャット:詳しいな

上位チャット:猫扱いに自信エルフ?


「猫にイカを食わせると腰を抜かすと聞いて、ちょっと調べた」


上位チャット:はえー

上位チャット:そんなのあるんだ

上位チャット:生イカの内臓にある酵素が猫のビタミンB1を破壊して、足のふらつきを引き起こすらしい


「あ、お兄ちゃん」

「なんだ?」

「パン、何枚焼いてるの?」


上位チャット:目をそらしたぞw

上位チャット:草


「七枚はいけるはず」

「いけないよ!?」

「俺はキョーカを信じてる」

「もっと違うところ信じて!?」

「挑戦する心を失っちゃいけない」

「先に健康を失うよ!」


上位チャット:いやー、七枚は男でもきついっす

上位チャット:書道部の俺でも無理です

上位チャット:そこは運動部で

上位チャット:吹奏楽部は運動部にカウントしていいですか?

上位チャット:ギリギリ運動部


「キョーカの胃を鍛えたい」


 俺はトーストを載せた皿をテーブルに並べる。今日の服は、木の葉柄の淡い色のシャツと膝下のスカートに、薄手のボレロを引っ掛けてよしとした。


上位チャット:可愛い格好して、うちの部の顧問みたいなこと言ってる

上位チャット:胃液吐くほどしごいてから焼肉屋に連れ出して「あれぇ? お前ら食わないのぉ? グフフ」するOB思い出したわ

上位チャット:鬼か

上位チャット:こっそり相撲部員と入れ替わったら、OBのしごきがなくなったぜ

上位チャット:悪魔か

上位チャット:今朝の献立は?


「ふやかしたパン」


 俺はパンを細く切り分けて大皿にまとめ、キョーカの前に、伸ばしたシチューとカレー、インスタントのポタージュスープとお吸い物と味噌汁を並べた。具は少なめにしてある。


上位チャット:あー、やばい

上位チャット:これはパンを浸して無限に食べられるやつ

上位チャット:お吸い物や味噌汁って合うの?

上位チャット:ご飯に合うものならだいたいパンにも合う

上位チャット:エルフ料理のやっちゃいけないことやってる感よ


「い、いただきまーす」

「たくさん食べろ」

「あっ、美味しい……。出汁を感じるパンって不思議だけど」

「パンに合うよう、具を減らして味を薄めにしてある」

「そうなんだ。これなら本当にたくさん付けたくなるよ」

「クルトンもたっぷり入れるぞ」

「あー、凄いサクサクしてるぅー」

「チョコクリームの賞味期限が近いから食べきってくれ」

「甘ーい! 美味しーい!」


上位チャット:ポタージュの半分、クルトンになってるw

上位チャット:賞味期限が近い(来年の春)

上位チャット:陥   落かんらく

上位チャット:早かったなぁw


「あと三ヶ月くらい引っ張ってみせる」


上位チャット:また延びてる

上位チャット:餌付けに自信エルフだ、これ!

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