115.すべてを投じて

上位チャット:決勝にドラマはないかもしれない


 少し曖昧あいまいなその言葉は、予言となった。


        ◇◆◇


「えい」


 掛け声とともに、俺は水車から零れてくる水を避けていた先行者を谷底に突き落とした。


上位チャット:さよーならー

上位チャット:水とエルフに挟まれてはどうしようもない

上位チャット:えっちな話題か?

上位チャット:違います

上位チャット:今、何位になったの?

上位チャット:五位

上位チャット:ついに、決勝ライン到達!


「もう一丁」


上位チャット:おたっしゃでー

上位チャット:四位!

上位チャット:ここまで割と大人しかったエルフさん、大爆発

上位チャット:大水車エリアだけで三人か四人、一気に抜いたもんね

上位チャット:いやー、このエリアが草刈り場と化すとは

上位チャット:移動速度がおかしいもん

上位チャット:唐突に「覚えた」したと思ったら、水車の零れ水の中を突っ切って動き始めたよね

上位チャット:あれは疑問だった

上位チャット:何を覚えたの?


「水」


上位チャット:水

上位チャット:お水

上位チャット:えっちな話題か?

上位チャット:違います

上位チャット:エルフさん、もう少し詳しく


「お前らが水の圧力は弱いって教えてくれただろ?」


上位チャット:はい

上位チャット:教えた

上位チャット:俺は教えてないけど、俺たちは仲間だから俺が教えた

上位チャット:でも、足は取られる強さだね


「だから、水に入って、転びそうになったらジャンプして水から出るようにした」


上位チャット:水の中で小刻みにジャンプしてるなーとは思ったけど……

上位チャット:なんで、それでいけると思ったのか

上位チャット:現実と違って、ジャンプ姿勢でリセットできるってことか

上位チャット:理屈はわかった、実践はできない

上位チャット:とか言ってる間に、三位浮上!

上位チャット:スタート早々に二十秒はロスしたのに

上位チャット:で、そうなると


「やっぱり、お兄ちゃんは上がってくるんだね」

「キョーカ」

「四位とか五位とか、もう少し可愛げのある順位でやってきなさいよね」

「キリシたん」


上位チャット:キョーカちゃん現る!

上位チャット:キリシたんも高台でタルを構えてる!

上位チャット:さあ、決戦だ!


 場所は水車エリアを抜けた先。正面は上方に向かう急坂エリア、横手に滝壺を臨む、エリア間にある最後の平地。

 前方にはタルを構えたキョーカ。その後方の高台から、同じくタルを構えてにらむのはキリシたん。


「ここでいいのか?」

「ここがいいの」

「そうか」


 俺は一度だけタルを掴むキーを確認した。


上位チャット:キョーカちゃん、あえて平地を選んだのか

上位チャット:平地で勝てる算段があるってこと?

上位チャット:キョーカちゃんは、複数のプレイヤーとタルのタイミングを合わせてようやく当てられたんだよね?

上位チャット:ドッヂタールしたキリシたんの結論は、エルフさんと一対一じゃなんでも捕られるって感じだったけど

上位チャット:実はここもタルが生えてくるとか?

上位チャット:ないなぁ

上位チャット:本当に何の仕掛けもない休憩エリアだよ

上位チャット:じゃあ、どうするの?


「お兄ちゃん、《落ちりて》は面白い?」

「おう」

「どういうところが?」

「皆で遊ぶのが楽しい。走って跳んでタルを投げて捕るだけなのに、こんなにいろんな角度の戦い方がある」

「そうなんだ」


 俺は滝を背にして、じりじりと円を描くように歩き、キョーカとの距離を縮める。



 集中。



 このまま動き出さないのなら、もう少し詰めたところで、キョーカに飛び掛かる。




 集中。




 一段階、ギアを上げる。距離が詰まれば詰まるほど、避けるのも捕るのも難しい。




 集中。





 投げモーションに入ったら掴むキーを押す。投げモーションに入ったら掴むキー。






 集中。






 モーション、キー。モーション、キー。モーション、キー。モーション、キ――


「やられた」


上位チャット:え

上位チャット:あ


「お兄ちゃんなら聞き分けてくれると思ったんだ。投げモーションの『音』」


 それはキョーカがやってのけたこと。複数人のモーションを聞き分けて、タイミングを合わせるという技。

 そこまでのことはできずとも、ただ目の前のキョーカの投げモーションだけならば、俺でも聞き分けられる。

 そこを狙われた。


「わたし、声真似上手なんだよ」

「投げモーションを『声』にするとは思わなかった」


 先んじて掴みモーションに入ってしまった俺に、キョーカのタルが。次いで、キリシたんのタルが襲い掛かった。

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