113.水の洞窟
「セイレーン、わかってるわね?」
「はい、キリシたんさん。ここを逃したらチャンスは限りなく少なくなります」
「そうよ。決勝戦なんて期待すべきじゃないわ」
上位チャット:いよいよ、長丁場の戦いもラスト二戦か
上位チャット:キリシたんもキョーカちゃんも気合入ってるな
上位チャット:レース二回だからエルフさん有利が変わりそうにないのが残念
「んー?」
上位チャット:エルフさん、どしたの?
上位チャット:何か疑問?
「レースなのか?」
現在は待機画面。少しの後にレース内容が決定されるのではないのだろうか?
上位チャット:ある程度、パターンが決まってるんです
上位チャット:このステージの場合は、港の次はランダムで、海賊船との戦いが長引くとレースのステージになる
上位チャット:決勝戦はどれもレースだからレース二戦で決まりってわけ
上位チャット:ちなみに、海賊船との戦いが短いと、別の港→商店の店先レースになる
「へえ。じゃあ、こっちは入り江とか洞窟とかか」
言い終わると同時に、画面が切り替わる。
準決勝の舞台は、薄暗い洞窟のようだった。
上位チャット:正解
上位チャット:よくわかったね
上位チャット:長々戦うとボロいステージってちょっと嫌な罰だよなw
「海賊船に勝ったか負けたかだろ」
上位チャット:え?
上位チャット:どういうこと?
上位チャット:あ、試合始まるぞ!
「行くぞ」
俺たち十人が走るのは、あちこちに深い谷間が覗く、天然の大洞窟。終端から光が降り注ぐ、地上を目指すコースだった。
上位チャット:行けー
上位チャット:エルフさんがいいスタートを切った!
上位チャット:勝てるぞ! エルフさん!
「簡単」
俺が先頭でたどり着いたエリアは、あちこちに穴は空いているものの罠らしい罠が見当たらない場所だった。
俺は減速せず、そのまま駆け込んで――落ちた。
上位チャット:いや、そこは簡単なんじゃなくて
上位チャット:あ
上位チャット:遅かったw
「何これ?」
上位チャット:切り替わる床です
上位チャット:正面に見える水車が一周するごとに、床と穴が切り替わるの
上位チャット:結構、はっきり見える水車なんだけどなw
「むう」
俺がスタート地点から復帰する間に、他のプレイヤーは全員、切り替わる床エリアを抜けてしまった。
「ああもう! これが決勝戦なら決まりなのに!」
上位チャット:と、キリシたんは申してますが
上位チャット:どうかなぁ?
上位チャット:エルフさんだし、また変なことして試合ひっくり返しそう
上位チャット:それな
「変なことなんてしてないぞ」
上位チャット:してる
上位チャット:してます
上位チャット:何度もしてました
上位チャット:様式美すら感じてる
上位チャット:とか言ってたらひとり抜いた
上位チャット:抜いたというか吹っ飛んでったな
俺の前を走っていたプレイヤーがひとり、噴き出した水に弾かれて谷底へと落ちていった。
「間欠泉?」
上位チャット:そう
上位チャット:周期的に水が噴き出る
上位チャット:噴出孔があるところは気を付けて渡る感じ
「これに乗って上に行ける?」
上位チャット:また変なことして試合ひっくり返そうとしてる……
上位チャット:舌の根も乾かぬうちにw
上位チャット:水の勢いじゃ無理
上位チャット:『落ちりて』の水は、そこまで強く押さないからねぇ
「そうか」
上位チャット:残念そう
上位チャット:そんな水に乗りたかったの?
「クジラの潮吹きに乗りたかった」
上位チャット:なんかメルヘンなこと言い出したぞ
上位チャット:エルフもメルヘンな存在だし、調和は取れている
上位チャット:このエルフ、納豆ご飯食べたがるんですが
上位チャット:メルヘンの敵、納豆
上位チャット:このゲームにはクジラいないです
「そうか……」
上位チャット:凄い残念そう
上位チャット:クジラが好きなだけだ、これ!
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