86.世界一高い手紙
「満足」
上位チャット:それはよかったです
上位チャット:俺はノドが枯れて声が出ないです
上位チャット:配信見て大声出すなよ。お隣さんにバレたら巻き込むしかないんだぞ?
上位チャット:巻き込んだのかよw
上位チャット:歌いも歌ったり三時間かぁ
上位チャット:見てるだけのつもりだったのに、自然と声出てたわ
上位チャット:疲れたけど気持ちいい
「それじゃ、終了」
時刻は五時を回り、そろそろ夕焼けが近付いてくる頃合い。
デパート側からの頼みを受けて、のど自慢大会は終了となった。
上位チャット:ェエエエルフゥウウウ
上位チャット:余韻くださいw
上位チャット:終了をお願いに来たデパートの人、めっちゃ惜しそうだったなー
上位チャット:本当は止めたくなかったんだろうw
上位チャット:夜になっちゃうと騒音になるからしゃーない
「けほっ。わたしでもちょっときついのに、お兄ちゃん凄いね……」
「エルフは頑丈なんだろ」
上位チャット:そういう問題ぃ?
上位チャット:ちょっとで済むだけキョーカちゃんもノド丈夫ですわ
上位チャット:さすが、セイレーン
上位チャット:セイレーンといえば、キョーカちゃんは顔出ししてよかったの?
「……い、
上位チャット:目を背けたwww
上位チャット:セイレーンとは言ってるから、ダメじゃないですかねーw
「何かあれば、俺が行くぞ」
「これはわたしが悪いから……でも、顔出ししちゃいけないって条項あったかな?」
上位チャット:お、光明が?
上位チャット:炎太郎と同じようなもんだし、お咎めなしに……
上位チャット:むしろ、前例があるのにやったから今回は叱られるかも
「でも、もし《2.5D》を出ることになったとしても、わたしはどこかで何かを歌い続けるから」
「そうか」
「うん」
「なら、いい」
上位チャット:めでたしめでたし
上位チャット:船乗りはもちろん付いていきます!
上位チャット:出港する!
上位チャット:エルフさんの配信も追い掛けるけどね!
上位チャット:セイレーンの歌に魅了されてろよ、船乗りw
上位チャット:それはそれ!
「ゲホッゴフッ! ……失礼。お嬢さん方、今日はいろいろとありがとう。僕ら役者一同を代表して、お礼を言わせてほしい」
「大丈夫か?」
「ゴホンッ! ……年甲斐もなく大騒ぎしてしまってね。すでに明日が怖いよ」
上位チャット:代表してってか、残り全員喋る以前に足元がおぼつかないように見えるんですがw
上位チャット:どんだけノリノリだったんだ、こいつらw
上位チャット:こいつらも近く船乗りになる
上位チャット:そして、エルフさんの視聴者にも……うーん、いい加減、俺らにもなんか呼び名が欲しいなぁ
上位チャット:それは思う
「ささやかだが、僕らからお嬢さんたちに謝礼を渡させてもらえないかい?」
「俺は要らん」
「わたしも要らないです」
「まあ、そう言わずに――っとっとぉ!?」
「ドアはちゃんと見ないと危ないぞ」
「す、済まない」
上位チャット:ナイス、エルフさん!
上位チャット:素早かった
上位チャット:ドア開いてた?
上位チャット:っていうか、なんか、ドアノブ回そうとしたら抜けた感じ……?
上位チャット:あ
上位チャット:エルフさんがドアノブ壊したんだった!
「あっ」
「そうなのかい?」
「すまん。最初に入る時、力入れ過ぎた」
上位チャット:こーわしたーこーわしたー
上位チャット:いーけないんだーいけないんだー
上位チャット:出入国在留管理庁にー言ってやろー
上位チャット:おい、やめろ
上位チャット:マジでエルフさんが入管で引っ掛かったらどうすんだ
「ちょうどいい。弁償するから、領収書くれ」
「いや、それも……ちょうどいい、とは?」
「もう一通くらい手紙を出したかったんだ」
上位チャット:手紙?
上位チャット:どういうこと?
「名目は『教材費』で『上様』宛にしてくれ」
「……よくわからないが、用意しよう」
上位チャット:これ、嫌がらせだwww
上位チャット:パソコン代と同じかw
上位チャット:教育の闇2 ~エルフからの逆襲~
「別に嫌がらせじゃないぞ」
上位チャット:あれ?
上位チャット:違うの?
俺はリーダーから受け取った領収書に、二文字ほど書き足す。
「ん。よし」
「お兄ちゃん、なんて書いたの?」
「それは後でな。じゃあな」
――この配信は終了しました――
上位チャット:あ
上位チャット:ちょま
上位チャット:あーーーーーー
上位チャット:しまったぁああああ
上位チャット:疑問に気を取られたぁああああ
上位チャット:ェエエエルフゥウウウ!
◇◆◇
「どーも、理事長さん」
夕暮れの理事長室には、まだスーツ姿の太った老爺が残っていた。
「何をしに来た、
「いやぁ、やっぱりダメでしたぜ。どーこも払わねぇの一点張り。ケチなもんでしたよ」
「まったく……半日も何をやっていたのだ、お前は! もういい、領収書をよこせ!」
「はいはいっと」
アロハシャツ姿の白髪の男は、老爺の言葉を気にした様子もなく、領収書を手渡した。
老爺は領収書を受け取ると、宛名を確認して、鍵の付いた引き出しの中にしまい込んだ。
「坊主を大事にする気があるのはあんただけだって、わかってたんでしょうに」
「……何のことだ」
「塾や予備校の連中ですよ。あいつらは金で買った合格実績や模試結果にしか興味がなかった。あんたと違って、教育者じゃなかったってぇことです」
「ワシとて、その下衆どもと一緒であろうが!」
「あんたがそんな下衆なら、坊主はピアノなんて覚えちゃいませんし大学入学後まで教材費の面倒なんて見てもらえやしませんよ」
「ふん! 知らんわっ!」
老爺は机を叩いて、アロハの男にさっさと出ていくよう
「はいはい。出ていきますよ。……しかしまあ、あれですね」
「……なんだ?」
「たった二文字で一〇〇万円弱は、世界一高い手紙なんじゃねぇですか?」
「出ていかんか! この
理事長室の鍵の付いた机の中に大切にしまい込まれた領収書。その宛名は、二文字付け足されて『お爺上様』と書かれていた。
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