生放送! TSエルフ姫ちゃんねる

ミミ

1.配信始めたエルフさん ―FPS―

1.初配信

「見えてるかー? 見えてたら、『見えない』ってチャットしろー」


上位チャット:見え……え、どうしろって?

上位チャット:初手から視聴者を試すなw

上位チャット:見えますん


 俺の言葉に数件の書き込みが付く。爆音報告もないし問題はなさそうだ。


「ん。ちゃんと映ってるみたいだな。それじゃ改めて、よく来てくれた。感謝するぞ」


上位チャット:感謝されてやるぞ

上位チャット:それでこの配信は何なの?


「配信タイトルの通りだぞ」


 俺のパソコンのモニタに映る配信画面。そのタイトルにはこうある。『TSしてエルフ姫になったから見に来い』


「エルフになったから、誰かに見せたくなった」


上位チャット:耳は長いな

上位チャット:髪も黄緑だな

上位チャット:美人というより可愛い系だけど、レベルは非常に高い

上位チャット:でも、服がダッボダボのシャツってどうなの? えっちくて大変よろしいです

上位チャット:自己解決するなw


 鏡でも確認したが、実際、今の俺は美少女だ。

 外見年齢は高校生くらいだろうか、まだ未成熟な雰囲気を持ちながらも女性としての色香も見え隠れしている。

 眺めていてほっとする柔和な顔立ちに、エルフらしい笹の葉形に突き出た耳がアクセント。腰まで届く長い長いエメラルドグリーンの髪は艶やかで枝毛一本見当たらない。そこらのアイドルが束になって掛かってきても一網打尽にできるだろう。


「付け耳や染めた髪じゃないぞ。ちゃんと動く」


上位チャット:おお、マジで耳動く……っておいw

上位チャット:髪動いてるw

上位チャット:そっちもかよw


「ウケた」


上位チャット:だいぶ、意表を突かれたわ

上位チャット:油断してた

上位チャット:どういうことなのよw


「なぜか知らないが髪も動く。見よ、ドラゴンスクリュー」


上位チャット:やめてwww

上位チャット:草生える

上位チャット:どうなってんのw

上位チャット:すげー

上位チャット:でも、それってエルフ要素かな?


「耳はエルフだろ?」


上位チャット:いや、エルフは様々な北欧の神話や伝承に出てくる妖精のことで、かなり解釈の幅が広い。容姿も多様で、牛の尾を持つものや背中に木のうろのような穴を持つものまである。


「じゃあ、俺は何になったの?」


上位チャット:なんで、知らないんだよw

上位チャット:【悲報】自分がエルフであると言い張る謎生物だった【可愛いのに】

上位チャット:どんな設定で配信開始したのさ?


「設定じゃなくて事実だが……。いいや、俺がこうなった経緯を話す」


        ◇◆◇


 気が付くと、真っ白空間だった。


「俺、死んだ?」

「いやいやいや、死んでいませんからね!? どうして、そうなるんですかっ!?」


 そうは言うけど、上下左右何もなくてほんのり乳白色な空間に、部屋着でプカプカ浮いてたら死んだと思ってもしかたなかろう。

 振り返ると、神々しいヒラヒラした薄衣に身を包んだ、エルフ耳の可愛い少女がこれまたプカプカ浮いていた。


「どちら様?」

「こほん……私はエルフェイムが第一王女ブラン・リーレッフィと申します。今日はお願いがあって、あなたをお喚び出ししました」

「日本語、上手だな」

「あっ、ありがとうございますっ! 凄く頑張って覚えたんです! もう、敬語とか難しくって!」

「何のために?」

「うっ……! に、日本語でアニメや特撮番組が見たくて……。その、保温戦隊デンシジャー大好きなんです……」


 なるほど、趣味人か。


「話を戻しますね。今、私たちは次元の狭間に作られた空間に、魂だけで来ています」

「魂」

「はい。魂です。厳密には違うのですが、空間を維持できる時間は短いので、説明は割愛させてください」

「この服は?」

「着慣れたものを自身の一部として認識するそうです」


 風呂上がりにいつも着てたニセモノくさい安売りロゴシャツ。お前、俺の魂の一部だったのか。

 それにしても、真っ白空間にエルフに次元の狭間ときて、ついには魂か。いよいよもってファンタジーだ。


「それで、あなたへのお願いなのですが」

「何だ?」

「体を貸していただけないでしょうか?」

「……手じゃなくて、体を?」


 俺は首を傾げた。


「はい。比喩ではなく文字通りの意味です。私の世界に現れた問題に対して、あなたの体がどうしても必要なのです」

「もしや、召喚というやつか?」

「あ、いえ、本当に体だけで十分なので、あなたの魂は日本に留まりますよ」

「そうか……」

「な、何か、ごめんなさい」

「構わない」


 ちょっとがっかりしたけど。


「つまり、俺がやることはない?」

「ありません。六十日後には元通りです。あなたが認識されている通りのあなたの体に、きちんと戻ります。ただ……申し訳ないのですが、世界を越えて一方的にはものを送れないので、できるお礼はささやかになってしまいますが……」

「礼は気にするな。ちょうど俺も夏休みに入ったところだ。六十日なら問題ない」


 大学の試験は先日終わったばかり。バイトの予定はないし実家に戻るつもりもなかったから影響らしい影響はない。

 俺の夏休みがなかったことになるだけで人が救われるのなら、悪くない取引だ。


「ほ、本当ですか!?」

「困ったときはお互い様だろ」

「ありがとうございます……。それでは、あなたの体をお借りします。六十日後、またお会いしましょう」

「おう。俺の体、大事にしてやってくれ」

「はいっ! 私の体も大事にしてあげてくださいね」

「ん? どういう意味――」


        ◇◆◇


「で、目が覚めたら、なぜかこの体だった」


上位チャット:一方的にはものを送れないって言われてるじゃん

上位チャット:双方向になら可能なわけかw

上位チャット:思ったよりアホな理由だったぜ

上位チャット:報連相は大事ってはっきりわかるね!


「そして、面白全部で機材買ってきて配信してる」


上位チャット:全部

上位チャット:面白半分じゃないのかよw

上位チャット:え、その体で目覚めたのっていつよ?


「一時間前」


上位チャット:行動力の化身かな?

上位チャット:ははーん。この謎生物さん、さては何も考えてねぇな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る