もし落ちこぼれスマホメーカーが現代ダンジョン用カメラの開発に挑んだら

ツクモ@ニシタニ&ツクモクリエイティブズ

第1話:者乃木勇と現代ファンタジーな世界




 この物語はフィクションです。

 現代ファンタジーの特性上、一部実在の会社やメーカー、製品、商標、その他の名称が使われますが、本作とそれらには権利上の関係が一切ありません。




 カメラと言ったら真っ先に思い浮かべる会社はどこだろうか?

 ヨドバシカメラ、ビックカメラ、キタムラカメラ……イヤイヤそれはカメラを売る小売業だ。ここで言うカメラは撮影するカメラそのものを指す。国内だとキヤノン、オリンパス、ニコンもある。富士フィルムにパナソニック、やっぱりSONYだろうか。また人によっては韓国サムスンや、中国シャオミの億画素カメラを搭載したスマートフォンが思い浮かばれるかもしれないし、GoProやInsta360といったアクションカメラ、ドローンメーカーのDJIも予想の範疇だろう。


 でも不思議と、『帝國スマートデバイセス』の名は浮かばれては来ないのが現状だった。


 第二次世界大戦後、唯一解体を免れた日本の財閥『帝國財閥』は長年財閥系列メーカーや海外メーカーらと大きく争ってきた日本経済の雄だった。

 しかしそれも今や昔。バブル崩壊やリーマンショック、コロナ危機に揉まれ、時同じくして発生した『ダンジョン出現』というイベントにも商機を見いだせずにいる。

 一時期は東芝やシャープのように、海外資本に身売りするのでは無いかという話も出たし、実際に海外資本に身売りしたり提携した部門もある。

 その内の一つがここ『帝國スマートデバイセスImperialSmartDevices』であった。元々は『帝國電気』と呼ばれる白黒家電を作る大規模メーカーであったが、海外資本への技術人材の流出、そして事業再構築によって、ついにパソコンとスマートフォン、カメラのみのメーカーとなってしまった。パソコン事業やカメラ事業は今やもう形式上やっているだけ、となると頼みの綱はスマートフォンなのだが、国内シェアではもう有象無象の域に落ちてしまっている。


 帝國スマートデバイセス社員、者乃木もののきいさむは勇者であった。もう二十年は前の事である。2000年のその日、異世界に召喚された者乃木は数年を異世界で過ごし、魔王を討伐して、現代に戻ってきた。今となってはよく覚えていないが、当時は難解な失踪事件が解決したということで大騒ぎになった上、勇者としての身体能力と学習能力とが噛み合わさって社会的なドロップアウトから持ち直すことが出来たし、数々の幸運によって、日本最高峰の大学の一つ『帝國大学』に入学することが出来た。

 そこからはもうエスカレート式に帝國財閥、その帝國電気に入り、エリート街道をまっしぐらに行く……そういうモノだと、者乃木は考えていた。

 考えていた。

 しかし実際のところ、帝國財閥はみるみるうちに衰え、エリートはびこっていた帝國電気はただデカいだけで赤字をまき散らさないことがやっとの弱っちいメーカーに落ちぶれてしまった。

 37歳男性、独身。独身貴族などといえば聞こえは良いが、言ってしまえば行き遅れの男だと自覚するたび、憂鬱になる。

 こんなはずじゃなかった。若いうちに活躍して、綺麗な嫁さんと元気な子供に囲まれて、エリート社員として暮らしていたかっただけだ。そうでなくともいい。勇者としてのあの頃に戻りたいだけだ――




 仕事終わりの夜、秋葉原のヨドバシカメラに寄り行った。




 一階のノートパソコンコーナー、そして各キャリアのスマホコーナーにはISDスマートフォンが置かれていたが、どちらも人はまばらだった。

 当然だよなと思った。幾ら国産とは言え、ノートパソコンはNECや富士通よりも値段が高く、それにしてはあまりよろしくない性能だ。インテルやAMDといったCPUメーカーからも見放されているといった話も聞く。

(会社的な購入制限がなければ俺だったら台湾のASUSやMSIを買うね……)

 そしてISD製スマートフォンも例に漏れず。スナップドラゴン製のSoCを入れているのでカタログ性能は申し分ないのだが、軽さとバッテリー持ちを重視するあまり、ベイパーチャンバーを搭載していないので、夏場はすぐ熱くなってしまう。ガジェットオタクの間では「絶対に買ってはならないスマホ」として名高いのがウチだった。

(いつ見てもAppleコーナーは人がいるなあ)

 三階のカメラショップは(店名にカメラと銘打っているだけあって)大々的にやっていたが、そこでのISDカメラは端っこの方にちょこんとコーナーが置かれているだけだった。メーカー販売員はおらず、見ている人もいない。

 者乃木はISDカメラのラインナップを一通り見ると、ため息をついた。

(これじゃあSONYに客を取られる訳だ)

 SONYを含めた各社今年の新作は、上位下位ラインナップ共にAIを投入しての優れた補正を提供し、どんどんユーザーフレンドリーに高画質を極めつつある。アップスケーリング込みでならもう8K画質を大きく超える描写性能も出始めてきている。

 対してISDカメラは全体的に一世代二世代前の性能だ。補正機能だって、人力するといえば聞こえは良いが、結局優れたチップも実装せずのていたらく。AIによる優れた補正がマストになりつつある今にこの調子じゃあ……。


「…………」


 ふと、ウェアラブルカメラコーナーを立ち寄った。

 そこでは剣や魔法杖を背負った複数の冒険者達がGoProやInsta360、DJI製カメラを見ていた。

 冒険者。

 世界各所に出来たダンジョンに潜る人たちの総称で、現在ではダンジョンに潜りながらその様子を配信する『ダンジョン配信』が一大流行となっている。Youtubeやニコニコ動画などで配信が行われるが、その人達にマストなのがスマートフォンやウェアラブルカメラなのだった。

 そういえばISDはウェアラブルカメラには参入してなかったなと、者乃木は思い起こした。だから自分もウェアラブルカメラを扱った事がなかった。

 ……調査の一環だ。何の気は無しに、Goproを購入した。最新ナンバリングの『HERO BLACK』エディションで、アクセサリーも付けて八万円程だった。独身貴族には痛くも痒くもない。




 








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