第2話 ユイと香澄 歪な主従関係
とある豪邸の一室。
この豪邸の家主の令嬢、高校三年生の前川香澄(まえかわ かすみ)は机に向かって勉強していた。
その綺麗な茶色の長髪を耳からかきあげながら、参考書とノートを机の上に広げ、スラスラと数学の問題を解いている。
その少し大人びた気品のある顔の眉間には小さくしわが寄っていた。
「………」
しかし手に持っているペンが止まった。
どうやらつまずいてしまったようだ。
「ユイ、ちょっといいかしら?」
香澄が後ろを振り返りながら誰かに話しかける。
その目線の先には一人の女性が立っていた。
漆黒のロングスカートのメイド服に白いエプロン、頭には白いカチューシャを付けていてまさしくメイドそのものといった恰好をしている。
ギチッ…ギチッ…ギチッ…
そのボリュームのある茶色の髪をふわふわと揺らしながら香澄に歩み寄る。
履いているスリッパと床が擦れる音だろうか、なにかがこすれるような音がする。
ユイと呼ばれているメイドは椅子に座っている香澄の横に立った。
「ここなんだけど…教えてもらえる?」
香澄は問題を指さす。
ユイはコクリと小さく頷く。
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」
ユイは白い長手袋で包まれた手をしばし口元に置いた後、参考書を手に取り別のページを開いた。
そしてそれを再び机に戻し、いくつかの公式を指さした後、ペンを香澄から借りてノートに数式を書く。
とても特徴のある丸文字で。
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」
「……あぁ、これを使って解くのね。ありがとうユイ、相変わらずわかりやすいわね」
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」
香澄はユイにニコっと微笑みかけ、ユイはそれに対してコクリとお辞儀をする。
しかし妙だ。
先ほどからメイドのユイは一切話さない。
勉強を教えるのであれば喋った方が効率が良いだろうに。
そして…いや、決定的におかしな点がある。
ユイは顔をマスクで覆っているのだ。
それは感染防止用の不織布のものではなく、顔全体をプラスチックのマスクで覆われている。
まるでアニメからそのまま出てきたようなマスクを。
加えてメイド服と肘まである長手袋の僅かな隙間、その隙間から見える肌は人のそれではない。
テカテカと光るゴムで覆われている。
そう、ユイはただのメイドではなく、全身をラバーでできた肌タイツ、顔をアニメ調のマスクで覆われた美少女着ぐるみメイドなのだ。
その首には黒い首輪が巻けれ、ハート型の錠がきらりと光っていた。
まるで等身大の人形のようなユイは香澄にもう一度お辞儀をし、何も言わずに香澄から数歩下がったところで立ち止まる。
どうやらここがユイの定位置らしい。
メイドらしく腰のあたりで手を前に組んだ状態で。
そんなユイを眺めながら香澄は少し頬を赤く染める。
そして右手をポケットにいれ、何かピンク色の卵型の機器を取り出し、ユイに見えるように顔の位置まで上げる。
「!!!」
ユイは体をビクッ!っと震わせた。
そんなユイを見て香澄はニコッと微笑み、椅子から降りてユイの元へ歩み寄っていく。
そしてユイの前で立ち止まり、ユイの目の前にそのピンク色の機器を見せつける。
「ご褒美…あげないとね?」
「!!!ふぅ!ふぅ!ふぅ!」
ユイは呼吸を荒げながら何度も首を横に小さく振る。
相変わらず一切喋らない。
香澄は何を訴えるようにブルブル震えるユイにまたニコっと微笑みかけ、左手をマスクで覆われたユイの唇に添える。
その瞳はどこか怪しげな光を宿していた。
「喋っちゃダメでしょ?今のあなたは"ユイ"なんだから」
「!!!ふぅ…ふぅ…うぅ…」
「それに私のお願い…断れるの?そういう契約でしょ?」
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…」
"契約"という言葉を聞き、ユイは俯いてしまう。
香澄はユイの唇に当てていた手を離し、右手に持っている機器のボタンを押す。
ヴィィィィィン!!
「うぐっ!」
その瞬間にユイは声にならないうめき声をマスクの中から漏らす。
ユイの股間の辺りから振動音が聞こえてきた。
頭を項垂れ、腰のあたりで組んだ手をギュッと握りしめ、体をビクビクと震わせている。
しかしそれを香澄は許さない。
香澄は左手をユイの額に当て、右手をユイの腰に回してユイの姿勢を無理やり正す。
「うぅ!ふぅ…ふぅ!ふぅぅ…」
「ユイ?姿勢を正して?ほら」
「ふぅ!ふぅ!ふぅ!うぅ…うぐ!」
「声も出しちゃダメ。貴女は今は人形なんだから…ね?」
「ふぅ…ふぅぅぅ!ふぅ…ふぅ…」
ユイはメイド服とエプロンで包まれたお腹を激しく出たり引っ込ませたりしている。
香澄に人形と言われているが、これがユイの中に人が入っていることを示していた。
ブルブル体を震わせるユイを見て、香澄はまたニコっと微笑む。
そして香澄は再び手に持った機器のボタンを押し込む。
「!!!うぐっ!んんぅ!うぅ!」
ユイが大きくお尻をビクンッ!と震わせた。
ロングスカートで隠された太ももを擦りあわせ、ギチ…ギチ…と艶めかしい音を鳴らす。
「うぅ!ぐぅぅ…むぅぅ!」
「今日は何分…耐えられるかしら?」
「ふぅ!ふぅ!うぅ…うぐぅぅ!」
声を抑えろと言われているが、もう抑えきれない。
前かがみになりそうになるとまた香澄に無理やり姿勢を正される。
香澄はユイの腰に両手を回しながらユイの顔を見る。
顔は笑っているが、左の口角がピクピクと痙攣している。
顔立ちがいいせいで余計にその歪みが際立っている。
「うっ…うぐ!むぅむ!」
「………」
ユイがまた必死に何かを訴えるように首を横に振った。
ゴム肌で包まれた体をギチギチいわせながら。
しかし香澄はそれを無視し、右手に持ったピンク色の機器のボタンをグッ!と力強く押した。
「むぐぅううぅ!!!」
その瞬間に、ユイは背中を弓なりに反らせ、ビクン!っと大きく体を痙攣させた。
その場に膝から崩れそうになるユイを香澄はしっかりと支える。
「うぅ!うぐっ…むぅむぅ!!」
香澄の腕の中で何度も痙攣するユイ。
その切なく、淫らな籠った声は抑えきれない。
香澄は顔を真っ赤に染め、マスクで覆われたユイの顔を見ている。
また左の口角をビクビクっと小刻みに痙攣させた歪んだ笑顔で。
そして手に持った機器のボタンを数回押した。
ヴィィィィン…
ユイの股間から響いていた音が小さくなっていく。
その音とともに大きく肩で息をしていたユイの体の痙攣も次第におさまってきた。
「ふぅ!ふぅ!ふぅぅぅ!すぅぅぅ…ふぅぅぅぅ!ふぅ…ふぅ…うぅ…」
「かわいい…」
ユイの呼吸がやっと落ち着いてきた。
香澄はユイの腰に回していた手をほどき、うっとりした顔をしながらユイのふわふわのウィッグで覆われた頭を優しく撫でる。
そしてユイの少し乱れてしまったメイド服を手で直し、机に戻っていく。
香澄は椅子に座り、またうっとりした顔を浮かべてユイを見つめる。
ユイは姿勢を正し、腰の前で手を組んでいる体勢に戻っていた。
しかし、未だに肩で息をしており、お尻をビクビクと震わせている。
「ふぅ…ふぅ!ふぅ…ふぅ…うぅ…」
「…………」
香澄は意味ありげな笑みを浮かべ、再び勉強に戻った。
部屋の中にはユイのふぅ…ふぅ…という苦しげな呼吸音とゴムが擦れ合う音が響いていた。
綺麗な顔立ちをした令嬢と、人形のような美少女着ぐるみ。
立派な豪邸に似つかわしくないこの光景。
一体何が行われているのだろうか?
その真相は数カ月前まで遡る。
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