第18話
「ふぅ…久しぶりにプール以外で泳いだら疲れたよ」
砂浜奥、日除けエリアに戻り先程買った飲み物を持つと完全にぬるくなっていた
「あー…もう飲み物もぬるいってかお湯…だねぇ、アタシ何か買ってくるよ」
芽衣がスマホを取りだしサンダルを履き売店へ行く前に真樹人が芽衣の手を取る
「一緒に行くよ」
「いいよ、休んでて」
「一緒に居たいんだ、ダメかな」
「…ううん、いいよ、行こ」
何やら芽衣ははにかみながら視線を逸らしそっと芽衣は真樹人がスマホを持つのを確認すると真樹人の左手を握り2人はは歩き出す
「嫌じゃない?こういうの?」
「別に、嫌なら一緒にいないよ」
「そうじゃなくて、その…」
「いいじゃないか、誰にどう見られようが。関係ないね、他人なんて」
「あのさ?そう言ってくれるのは嬉しいけど他の言い方なくない?」
「ないね」
素っ気ない言い方が不満なのか少し呆れ口調で芽衣も返す
「あっそ」
「なんだよ?それ」
「別にー」
真樹人は繋いでいた芽衣の手を離すと芽衣は頬を膨らませ
「あ!何でそういう事するかな」
「だって気に入らないんだろ?」
「それとこれは別だよ」
芽衣が無理くり真樹人の左手を掴むと今度は強めに握る
「なんだよ、子供か?」
「えへへ、いいじゃん、仕事大変そうだね」
「ん?あぁこれか、プライベートだって言ってるのに伝言やらメールやら困っちゃうよ」
「いいよ、電話しても。お仕事優先だよ」
「ごめんね、気遣わせて申し訳ない…伝言か…」
真樹人はスマホを耳にあて伝言を聞く
一瞬だけ表情が変わるのを芽衣は見逃さかなった
「なんかトラブル?」
「え?」
「なんか怖かったよ…一瞬だけ」
「気のせいだよ、まぁちょっと今の仕事が面倒でね、でもこれが済んだら長い休みなんだ」
「聞いてもいい?嫌なら答えなくていいよ、真樹人って…」
「俺の仕事は…まぁセールスマンだよ、実演販売みたいなもんさ、一応これでも社長なんだぜ。っても従業員3人の小さい会社」
「なんか忙しそうなイメージだよ」
「まぁね、顧客から催促されたら休み返上なんて当たり前だから」
そんな会話をしながら売店のホットスナック売り場へ
「真樹人は何にする?アタシは…アメリカンドッグとビー…コーラで」
「酒飲みたいなら飲めよ」
「ううん、悪いよ、真樹人帰りの運転もあるのにアタシだけ」
「気にするなよ、飲め飲め」
「ううん、まだお昼だしね、コーラでいいよ」
「俺は腹は減ってないから…俺もコーラでいいよ」
真樹人がまとめて注文した後に受け取って日差し避けエリアへ
「ここは綺麗だな」
「気に入ってくれた?」
「あぁ、素敵なバカンスだ」
「…さっきは変な話してごめんね」
少し神妙な顔で謝るが真樹人は全く気にしてないようだ
「なんの話?」
「…なんかさ、自分をよく知らない人の方が自分をさらけ出せるって変だよね」
「別にそうでもないだろ?味が分かりきった物を食べるのか、それとも新しい物を食べるか?みたいなもんだ」
「だからわかんないよ、そういうの。その…さっきのは勢いとかじゃないから…」
「いちいちそんな野暮な事言うなよ、次そういう事言ったら俺帰るぞ」
「えーやだ!」
「ならこの話はナシだ」
「もしかてドS?」
「どうかな、考えた事ないよ」
「でも真樹人は振り回すより振り回される方かも」
芽衣は笑いながらコーラを口に運ぶ
「そうかも、従業員2人には振り回されっぱなしだ。2人とも自分からトラブルに首突っ込むからな」
「でも真樹人は見捨てないでしょ?」
「当たり前だ、従業員を守らないで何を守る、ウチの2人は…1人は口うるさい妹、もう1人は向こう見ずな弟みたいなもんかな」
「じゃあ真樹人がお兄ちゃん?」
「そりゃそうだろう?なのに2人とも「会社の金使うな」「人と会う時くらいまともな格好しろ」「嫌いな相手でもお客なんだから我慢しろ」とかうるさいんだよ」
「2人とも大切なんだ、いいな、真樹人にはそういう人がいて」
「大切だよ、俺という体の一部でもあると言っていい」
「気を悪くしたらごめんね、ならどうして治療しないの?寂しいよ?真樹人が居なくなったらその2人も」
真樹人もコーラを飲み一呼吸
「…散々怒られたよ、でも俺は無理に生きながらえる事に懐疑的なんだ。これが俺の寿命というなら受け入れたい、人間てのは惰性に生きるからな、時間が限られた方が張り合いがでるし。仮に俺が居なくなっても彼らには充分な退職金を用意してあるんだ…それに…」
「それに?」
「もう人の願望を聞くのに少し疲れた、生きて欲しいってのは願望、つまりはわがままだ。2人は俺に生きて欲しいってわがままを俺に言ってるだけ…彼らは優秀だ、俺がいなくてもやっていけ…」
ため息混じりに真樹人が答えるととそっと芽衣は真樹人の右手を両手で包む
「そういう問題じゃないよ、生きて欲しいって事は真樹人がいないと寂しいって事だよ?」
「……考えは変えない、俺は運命を受け入れる」
「…なんか似てるな、葉山さんと」
「葉山さん?あぁボランティアの?」
「うん、この前亡くなっちゃったんだ」
「…そっか」
「葉山さんも病気が発覚した時私にさえ教えてくれなかった、恩人なのに…私は…何もできなかった」
「心配かけさせたくないって気持ち、俺には分かるよ。芽衣がその人の事を大切に思っているからこそ言えないんだ。下手な言葉は残された人間にとって呪いになる…心配して欲しくない、いつも通り接して欲しいって…」
「でも生きてて欲しいよ、葉山さんが居なかったらアタシはどうなってたか分からない、お腹の傷…これ刺されたんだ、17歳の時クソ野郎に逆恨みされてね、アタシ少し珍しい血液型だったの。だからこの狭い沖縄に血液がなかったんだ…その時輸血してくれたのは葉山さんだったの。病院で目が覚めた時、葉山さんが横にいてくれてね、「アナタは1人じゃない、私はアナタが居ないと悲しい。だからもっと自分を大切にしてほしい」って。私だって葉山さんにいて欲しかったのに…これは私の運命だって…意味わからないよ」
「1人じゃないか…俺は人にそれを言ったことはあるけど言われた事ないな」
「1人じゃないよ、真樹人は。」
「…ほら、早く食べろよ」
真樹人は海へ視線をやり遠くを見る
「うん…」
2人は目を合わさず言葉も交わさない
真樹人は音に耳をやった
人の喧騒
風の音
波の音
そして反復する
「1人じゃない」
彼女にも彼にも言われた言葉だった
自身の身体の事を打ち明けた時
少し楽になれた気がした
もう気張らなくていい
自分が消えても世界は続く
もうそれでいい
そう思ったのに
そう決めたのに
山城 芽衣からの「1人じゃない」は重みが違った
救われた自分がいた
山城 芽衣を救った言葉
あれは本心だ
もしかしたら自分が誰かに言われたかったのかもしれない
捨てられた事、憎悪のはけ口になった事、全てに絶望し
「友」が堕ちるのを止める事もできなかった自分「友」に託された人も傷つけた事、全てに嫌気がさし自分を捨て「友」演じる事に正当性を見出した自分
中身が空っぽの自分だからできた
楽なのだ、自分が自分でなければならない理由は何でも良かったのだ
空っぽの器に注いだ新しい自分
ただそれを認められたかった、自分以外に
そう思うとなぜだか涙が溢れた…
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