第16話

「いいなー綺麗な女と南の島で海デート、アイツ本当になんも考えてねぇんじゃねぇんすか?」

パラソルの下、1人は金髪の男、もう1人はTシャツに短パンで缶ビールを飲んでいた

真樹人が荷物を置いた所の対側、離れた場所で見張っている

「てか前田さん、帰りの運転は?」

「ガタガタうるせぇな黙って見張ってろ」

「へーい」

「しかしあの女はいい女だな」

「変なところ膨らませないでくださいよ?」


バコォ!

前田が金髪の男の頭を殴った


「イテッ!」

「ふざけた事言ってると沈めるぞ?」

「冗談でも言ってねぇとやってらんねぇすよ、上からの仕事じゃなくて局長と前田さんの独断で俺ら急にこんな所まで呼ばれてコキ使われてるんですから」

「グビ…グビ…ふぅ…いい加減アイツを局長って呼ぶのやめろ、今のアイツは「大善寺」宗家当主だ。それに今回の仕事はアイツが持ってきた、俺はノータッチ」

前田は缶ビールを飲み干し次の缶ビールに手をやった


プシュっ!


缶ビールの栓を開けまた口に運ぶと前田のスマホに通知が入る


「奴から連絡がきた、上原 誠二と思われる人間と蓮の死亡診断書を書いた医者達がそれぞれ別の場所で行方不明だと、お前どう思う?」

「は?何がっすか?」

「アイツが張り付いてる女だよ」

「お願いできるなら1発…」


バコォ!


「イッタ!」

「バカか!てめぇは!」

「すんません!…どう思うったって…俺にはわかんねーっすよ、だいたいそんな前の事なのにこれだけ人間が消えてたらわかんねーっすよ」

「おめーちったぁ頭使えよ、あの女は歳の頃は26.7だ上原 誠二と蓮が消えたのは26年前だぞ?」

「?!まさか!上原の…」

「憶測だがな…だがまだ点が繋がんねぇ、と言うより確信がねぇ…あの女の底が見えねぇし…な!」

「でもあの女、山城 芽衣に不審な点は何もないっすよ?」

前田はスマホのデータを見ながら答えた

「補導歴、がある以外綺麗すぎると思わねぇか?…ここ見てみろ」

「ん?え…?!誰かが赤ん坊の山城 芽衣をわざわざ施設前に捨てたってこと!!」

「そうだ、まるで「何か」から山城 芽衣を隠すように。施設前に赤ん坊がいるって通報も匿名だったらしい…いいか?上原達を取り巻く人間がこれだけ消えてる、上原 誠二と蓮、上原 誠二が乗ったされる船の持ち主の砂川、上原 蓮を轢いたとされる人間、それぞれの医者や通報者…山城 芽衣に関しちゃどこで産まれたかもわからん、当時を知る人間が誰も居ないんだぞ?これは意図的に隠してるとしか思えない。てかよ?上原誠二や蓮、関係者がほぼ死んでるなら仲根を締め上げればいい、なのになんでこんな回りくどいことをやるんだ?山城 芽衣を張る理由…お前分かるか?」

「さぁ?俺にはわかんねぇっすよ」

「お前は気楽でいいな」

「コマは考えなくていいのが特権すよ、てか気になってたんですけど告発文の内容ってなんなんす?」

「気楽な奴に言えるか、バカ」

「教えてくれたっていいじゃないっすか、それに知事宛の告発文をどうやって局長は手に入れたんすか?」

「……知らねぇ」

「は?」

「知らねぇって言ってんだ!全部アイツが絵を描いてる。アイツが唐突に俺に見せたんだ、「沖縄県知事周りにいる内部告発者」からと……」

喋り終わる直前に前田のスマホに着信


「なんだよ?………」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「送ったデータ見たか?」


ーインカメにしろー


「必要ない、いちい…」


ーうるせぇな、黙ってやれー


「ったく、顔見れて良かったか?」


ーてめぇ、何考えてる?ー


「いきなりなんだよ」


ー合点がいかねぇから聞いてる、何嗅ぎ回ってるんだ?ー


「なんだよ急に、必要な事を調べる、当然だろう?ならお前が変わってくれたか?」


ーこれ以上何を調べる?時間がねぇって言ってのんはてめぇだ、なのによ…ー


「事が事だ、確実に証拠を掴む前に迂闊な事はできない、そんな事お前だってわかるだろう?」


ーなら今俺がやってる尾行はなんの位置がある?ー


「あの男は何かを知ってて山城 芽衣に張り付いてる、もうお前だって見当つけてるだろ?山城 芽衣の正体を」


ー上原の娘だろ?ー


「あぁ、間違いない」


ー確証がある言い方だなー


「消去法だ、発端は26年前、彼女は出生から謎だらけ…次に狙われるとしたら彼女しかいない」


ーそんな気配すら見えねぇな!そもそもお前が先に沖縄に来て俺を呼びつけた後も沖縄に来てからずっとお前は単独で動いてる、お前他に何か隠してないか?ー


「バカ言うな、いつもの事だろう?他にも調べたい事があるからこんな与太話…」


ーこれ以上何を知る必要がある!証拠もねぇよ!でもお前言ってるよな?いつも。証拠はいらねぇって!状況的に黒なら消すだけだってな!なのに告発文に関してははぐらかすような言い方をして山城 芽衣に関しちゃ確信的な物言い…言え!何を隠してる?!ー


「何もねぇよ!何にイラついてる?!いちいち突っかかるな!」


ー いーや!お前とは長いんだ、こんな無駄な尾行なら俺を付けずにこのボンクラ1人で事足りる!俺をつける理由がねぇ!2人で調べた方が速ぇのにだ!それにアイツはソコソコ強い、尾行に2人もいらねぇ!はっきり言ってやろうか?!これの目的は尾行じゃねえ!護衛だろ!違うか?!えぇ?!ー


「ちげぇよ!バカが!どっち大して変わらないだろうが!」


ー おーおー本心出たな!護衛と尾行じゃだいぶ違ぇぞ?ー


「言葉のアヤだ、お前が突っかかってく…」


ー もういい、オレぁ降りるー


「駄々こねんな、何かあったらど…」


ーならお前がちゃんとアイツと話せ、山城 芽衣の事を。俺の目の前でー


「そんな事して何の意味がある?」


ー奴は関係者だ、事情を聞くのは当たり前だろう?俺は嫌われてるしな、お前が適任だー


「…わかった、位置情報を送れ」


ーこれ切ったら送る、逃げんなよー


ブチッ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「だそうだ、良かったな、俺がこの役回りで」

部屋は硝煙の匂いと血の匂いがただよっている

電話を切った長身の男が銃をしまいながら目の前のスーツの初老男性に声をかけた


「やっぱり六道が…私を…」


「それはそうだろ?お前は全てを知っているからな」

長身で左足を引きずる男は転がってる死体からスマホを取り出し死体の親指でロックを解除、中のデータを調べだした

「ほら、見てみろ」


画面には差出人の名前は 六道 御仁 と表示され内容は


上原 誠二の生死を確認、生存確認の場合処理

関係者と思われる人間、上原 誠二の娘、及び仲根 健太の処理

処理後の写真をこちらに送る事


以上


と記されていた


「どうしたら私は助かる?!全部六道の指示なんだ!私は傀儡にすぎんよ!聞いてるのか?!マツダさん!」

「大方全ての責任を仲根知事…アンタに押し付ける気だ、少し待て、考える」

マツダと呼ばれた男はスマホで何かを操作し送信した後に話を続けた

「仲根知事、貴方のやった事は知らないでは済まない…が…あんたが知っている事を全て打ち明け六道を見限り虚式を潰す手助けをするという条件を飲むなら安全な場所にアンタを移す」

仲根知事は懇願しマツダという男にしがみつきながら

「頼む!なんだってやる!死刑だって受け入れる!だがこのまま黙って殺されるなんてゴメンだ!1番悪いのはあの時、虚式を乗っ取った六道だ!あの時も上原さんがあの椅子に座るはずだった…なのに…」

「しがみつくなよ…老害が!」

「なんだと!誰のおかげであの娘の存在が分かったと思ってるんだ!六道はおそかれ早かれあの娘を捕まえ…あんた…本当にマツダさんか?」

「お前が見つけるとっくの前に奴があの娘を探し当ててたよ。偉そうなこと言うな。それにしてもさすが老獪な政治屋だな、勘がいい」



マツダは腰の後ろに隠してある拳銃を瞬時に抜き

「…ま、でも気づくのが遅かったな」


パァン!


乾いた銃弾の音が響き、眉間から血を流した仲根知事は膝から崩れ落ちたのだった


マツダは銃をしまうとスマホで誰かに電話をかける

「おい、今済んだ、これを取りに来てくれ。急ぎでな」




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