藍は青より深く

乾杯野郎

第1話

1998/9/29 22時 那覇港中央灯浮標海域近く


プレジャーボートに3人、うち2人の男が言い争い1人抑える男がいた


「理想と現実は違う、それを正すためにここにいるのだろう?いい加減理解…」


「もう何度も話したじゃないか、俺は日本を強くする為…この組織に身を捧げた!こんな荒唐無稽な事を実行する為じゃない!万が一これが実行されたらまたここで大量の血が流れるんだ!お前こそ考え直してくれよ!」


「お前は相変わらず理想だけは立派だな!?!俺があれだけの事をしても幕府は変わらなかったろ?!俺は死にものぐるいで日本に帰ってきた時に理解した、バカがトップじゃ何も変わらん…事の重大さを国民が理解せず目をつぶったままでいるなら目を覚まさせる必要が何故わからん!」


「わかんねーよ!そんなもん!人は無関心だ、でもそれで平和ならそれでいいんだ!人がいて国がある、そこに西も東も関係ない!その平和を支えるのが俺たちの役目だろう!なのに仮初の平和だどしてもそれを一方的に破壊するなんてありえない!これはその為の物か?!えぇ?!」


男が何やら1枚の紙を見せた


「…?!どこでそれを?!」


「上手く隠していたつもりだろうがな!こんな狭い所だ、地元じゃないお前が隠せるわけねぇよ」


「それをどうする気だ?!」


「お前が考えを変えないなら…お前を告発する、お前の目的はなんであれ一蓮托生だよ、お前から誘われこの組織に入った身として幕引きをする」


「そんな事してみろ、お前も無事じゃ済まない、それにアメリカが黙ってないぞ?またここが野蛮人の侵略者達の物になるかもしれん…なぁ、見上げてみろよ、この綺麗な空も海もまた奪われるんだぞ?考え直してくれ、俺の正義はお前の大切にているものも守りたいんだ」


「正義をかざして…理想を押し付ける…未来の子供達に誇れるのか?!こんなもん作って何から何を守るんだ?!バレたら日本の信用を失墜させる国際問題だぞ!!重大さを分かってるのか?えぇ?!…まさかもう使ってないだろうな!」



「綺麗事を抜かすな!バレる?どうして?これを作るのも外来種達だ、まとめて始末すればどうと言うこともない。それにもう向こうの高官には渡しているさ。さすがはバカな同族外来種達、騙し方が上手いな、気がつく素振りもない。せいぜい今のうち溜め込み自国でまわせばいいさ、使えない物を何十年も…気がついた時に奴らは破綻する。守る力、攻める力は何も武力だけではないさ。」


「なぁ?もうやめよう…今なら止められる、引き返せる。未来を守るのはその時代の芽の事だ、これは俺たちがやることじゃない」


「お前は手を汚してないから言えるんだ!もう遅い!知らないのはお前だけだよ、なぜ反対派にあの連中を使っているかわかるか?」


「?!…まさかそのための……?!」


ドチュッ


背中脇腹に鋭い衝撃が走り捻られる感覚


「残念だ…悔しいか?目をかけてたからお前の味方とは限らない、だろ?」


刺された男は信じられないと言った顔で背後の男の顔を睨みつけた


「…グッ…お前まで…そっち側…な…はね…俺を…最後まで…お前らしい…よ、こ…こで俺が死ねば…お前があの…椅子…お前の思い通りにさせない」


刺された男は力を振り絞り背後の男を突き飛ばしもう1人の男にぶつけポケットの携帯を取り出し操作、追い詰められる前に携帯を海へ


投げ終わると今度は胸の真裏に劈く衝撃、男は意識が切れる前


ー抱いてやれなくて…ごめんな…ー


それだけを思い意識を失った…



ーーーーーーーーーーーーーーーーー

2024年7月


「これ以上は医者として…治療する気は無いのは変わらないのかな?まだ諦め…」


南の島の総合病院の診察室では医師が患者を説得していた


「…諦めてなんかない、ただ…こう…現実感がないんだ。それに…人が死んでいくのを俺は沢山見た…その俺が生きる事にしがみつく事は違うと思う、それに俺が選択を間違わなければ死ななくていい生命は沢山あったんだ…」

患者は医師の言う事がピンと来ないようだ


「それはタラレバだよ、それに君はその失われた生命を君が背負い先を見続ける必要が君にはあると思うけどな」

「先生…やっぱり俺は何を言われてもこのままでいいよ」


医師は天井を見上げメガネを外し眉間を摘む


「………わかった……緩和剤を処方しておくよ、しかし…なんでこんな南の島にまでわざわざ来るんだい?東京の病院だっていいだろ?」

端末に情報を打ち込み処方箋をプリントアウト後に自身の判子を押して渡した


「どこから情報が漏れるか分からないからね、この事を知っているのは俺と先生だけでいいんだ」


「…必然的に君の身体の事が誰かに伝わったら私が漏らしたってなるな」


「そういう事、それに…」


「それに?」


「ここに来たかった男がいたんだ、ソイツはこの綺麗な楽園の土を踏む前に…ソイツが見られなかった物を見たかった。それにここまで綺麗な海は本土ではそうそう見られないしみんな俺に親切にしてくれる、だからかな、じゃあ先生…また」


男は一礼して診察室を後にすると


「…ここは楽園…か…」

と医師は呟き窓の外を見つめた



診察室を出た後、会計して病院向かいの薬局へ

病院の外へ出るとそこはカンカン照りの太陽の日差しがモロに体に当たる

6月の梅雨明けの空はもう既に夏そのものだ


「うひゃーこんなに日差しが強いと身体が焦げちゃうよ」


ここは日本の最南端の県「沖縄」

沖縄の首都那覇市から30分ほどの「糸満」の病院

男は海沿いに立てられたこの病院の景色がいたく気に入っていた

麦わら帽子を深く被りサングラを掛けて小走りで調剤薬局へ

昼時前なのか薬局は混んでいた

処方箋を渡し待っているとそこは処方箋薬局、あまりいい雰囲気ではない、皆どこかが悪くてきたいるのだからだ

その中でも男はアロハに短パン、スポーツサンダルに麦わら帽子でサングラスと異質だ

薬局内待合室のテレビには基地反対運動が報道されていたが横目でそれを見て直ぐにテレビから目を逸らし薬局に飾られていた海と風景が書かれた絵に見入っていると隣りにいた老人が男に話しかけてきた

「アンタたまに見る顔だな、若いのにどこが悪いんだい?」

男は急に話しかけられてびっくりしたのかキョトンとした顔で老人を見つめこう返した

「うーーん…性格かな」

「面白いなぁアンタ」

「そうかな」

「性格が悪い奴があの絵を見ないよ」

「よくわからないな、綺麗な物を見るのに性格の善し悪し理由はなくないか?」

「関係あるんだよ、ワシにはわかる」

「ふーん…」

「昔はここの海はあの絵以上に綺麗だったんじゃ、それがのぅ…」

老人はため息を混ぜながら話した

「文明が進むと自然は失われる、それは人の常だよ」

「文明だけじゃない、人の思いが濁ると土地や水は汚れるんじ……」

「なぁじいさん、その話長い?俺ここには療養と観光に来てるんだ、ここ2、3日のうちに東京に帰る俺に出鼻をくじく事言うなよ」

それだけ言うと丁度薬剤師がいるカウンターから

「36番の方〜」

「あ、呼ばれたから行くわ、悪いね爺さん」

そういい男はカウンターへ

「すみません、ご本人確認の為お名前をフルネームでお願いいたします」

薬剤師が男言うと

「トヒラ マキト」

「はい、トヒラさんですね、今回も前回と同じお薬が出ています。お痛みやご気分は…」

「良いわけないだろ?自分の体の事だ、自分が1番分かってる、毎度毎度…聞くなよ。うんざりする」

トヒラと呼ばれた男は少し強い口調に気づき口を閉じた

「…ご気分を害してしまい申し訳…」

「…いや、患者に聞くのも貴女の仕事だよな、ごめん。少しイライラしてしまって…悪かった」

戸平は軽くアタマを下げて謝罪をする

「いや、いいんです、私も聞き方が…」

「いやいや…あ、あの絵綺麗ですね」

戸平が話題を逸らす為に絵を指を指すと薬剤師の女は少し笑顔になった

「わかります?あの絵…実は近くのビーチなんですよ」

「え?そうなの?!」

「はい、そこのビーチを描いてもら…」

談笑していると後ろから舌打ちした音が聞こえた

「興味ある話だけど待ってる人いるから…ごめん」

「私こそすみません!あ、これお会計札です」

「うん、色々ごめんね」

そういい戸平はクスリを受け取り会計をして薬の入った袋の中の錠剤を見てため息をついた


ーまだだ…やるべき事をやるまで…ー


戸平は薬局を出て近くの駐車場に向かうと後ろから声がした

「戸平さーーーん!」

振り向くと先程の薬剤師だった

「ハァ…ハァ…間に合った…これ戸平さんの写真ですよね?」

薬剤師は麦わら帽子を被った戸平と綺麗な髪の女と目の周りが汚れている男が写っている写真を渡した

「…ありがとう、わざわざこのために?」

「この写真の戸平さん、とてもいい笑顔でしたから、大切な写真なのかなって…」

「うん…ありがとう、今の俺にとって大切な人なんだ」

「良かった、ここで無くしたらしばらく寂しくなっちゃいそうな顔してますよ?」

「え?そんな顔してた?」

「えぇ」

「ありがとう、俺はさ?人に借りを作るのは嫌いなんだ、何かお礼をさせてよ」

「えぇ?!いいですいいです!こんな…」

「良くない、良い行いには良い行いを返す、俺の流儀なんだ、これはナンパとかじゃない。この写真はホント俺にとって大切なんだ、それにさっきのお詫びを兼ねてってのもある」

薬剤師は少し困った顔をしたが戸平が引き下がらないので

「私結婚してるので困ります、そういうの」

「ウソだね、君は結婚をしていない」

薬剤師は少しムッとした表情で返した

「失礼ですね、私…」

「君が結婚しているなら薬指に指輪があるはず、それが無…」

「指輪は仕事中外して…」

「外してるいる可能性も低い、もし外しているなら指輪の痕か…この日差しだ、指輪の日焼け痕が残る、それに…」

「それに?」

「君からは既婚者独特の焦りや不安感、落ち着きは感じられない、それに君はマスクで隠しているが薄化粧もしていない、ネイルを剥がした痕があるがまだうっすら色が残ってるたぶん慌てて爪の処理をして今日寝坊か何かしたのだろう?既婚者ならもう少し…」

「ぷッ!アハハハ!戸平さん?それ凄い偏見ですよ?でも当たってます、戸平さん、なんなんですか?独特の焦りって」

「半分はブラフさ」

「私の負けです、何回かお会いしてますが戸平さんって東京の方ですよね?」

「うん、顔バレてたんだ。」

「どこに泊まってます?」

「那覇市内のビジネスホテルのアサノホテルって所」

「わかりました、あそこだと…旭橋か…じゃあ夕方18時にモノレールの駅の旭橋の改札で、私仕事戻らないと」

そういい薬剤師は走って戻ろうとすると戸平が呼び止めた

「ねー!君名前は?」

「芽衣!山城 芽衣!」

「山城さん、後でね!」

そういい2人はお互い背中を合わせてその場を後にした

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