6話 小さな手

ありとあらゆる物は、彼の手に余る物ばかりだった。

誰かから渡される傘も、耳元で囁いてくる的確な助言も、彼の椅子も。

手にあまり、身に余る。

誰かを愛する器用さもなければ、誰かに愛される不器用さもない彼は、助けの手綱を掴むはずの手すら小さく、崖にたったとしても下の風景が気になると言うばかりであった。


酒は少々タバコはやらず、女も愛せぬからいらんと抜かす。

彼のストレスのはけ口はどこにも無く、いや見つからず、出す言葉は地面に打ち付けられる雨のように取り留めなかった。

ノスタルジーのアルコールが美味いとよく言う。


さて、彼は可哀想な大人なのだろうか。

何もつかめずどこにも行けず。

いや。彼の手は未だに小さいのだ。

何も掴まずどこにも行かず。ストレスのはけ口はストレスそのものに酔いたいゆえに見ぬふり。


手に余るといえば、こいつのほうが社会にとって「手に余る」と言える。

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