6話 小さな手
ありとあらゆる物は、彼の手に余る物ばかりだった。
誰かから渡される傘も、耳元で囁いてくる的確な助言も、彼の椅子も。
手にあまり、身に余る。
誰かを愛する器用さもなければ、誰かに愛される不器用さもない彼は、助けの手綱を掴むはずの手すら小さく、崖にたったとしても下の風景が気になると言うばかりであった。
酒は少々タバコはやらず、女も愛せぬからいらんと抜かす。
彼のストレスのはけ口はどこにも無く、いや見つからず、出す言葉は地面に打ち付けられる雨のように取り留めなかった。
ノスタルジーのアルコールが美味いとよく言う。
さて、彼は可哀想な大人なのだろうか。
何もつかめずどこにも行けず。
いや。彼の手は未だに小さいのだ。
何も掴まずどこにも行かず。ストレスのはけ口はストレスそのものに酔いたいゆえに見ぬふり。
手に余るといえば、こいつのほうが社会にとって「手に余る」と言える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます