追いかける春、ひととき
漣
第1話 ある春、来たり。
くしゅっ…ああ、春というのに今年は寒い。
花粉症等特に患ってもいないのに、くしゃみが出る。
今日は中学校入学式。卒業式が終わったあとの休みはとても暇で、友達との再会に心躍らせ学校に向かう。
田舎の寂れた中学校で、人数も40人程度しかいない。だからこそ、俺ははっきり見えるものがある。
俺の好きな人だ。2歳差はあるが、友達のような感覚でずっと関わってきた、大好きな先輩、森野綾。学力は正直この中学校には勿体無いと自覚しているが、追いかけて、友達を捨ててこっちに来た。
たった1年だけのチャンスを、俺は無駄にする訳はいかない。
入学式、人混みとも言えない人数の中で、制服姿の先輩がいた。甘酸っぱい匂いと雰囲気を纏う彼女の周りには、人が沢山いた。
そんな彼女に見とれていると目が合ってしまった。その場を気まずそうに去ろうとした時、話しかけてくれた。
「久しぶり!!この中学校だったんだね!わたるん!」そう明るく俺をあだ名で呼ぶ声は、とても可愛らしかった。
式は始まり、呼名が始まる。
「四宮航」と俺の名前を呼ぶ担任の声は、とても新鮮だった。
窓から見える散り出す桜は、とても美しかった。
新たな友達となるであろう同級生と一通り話した後、俺はぼーっと歩いていた。周りは小学校からの友達と仲良くする中、俺は友達を捨てここに来たので、誰とも話さなかった。
見知らぬ顔の女性が何か俺の事を話していると思うと、「綾のお気に入りだ笑」と言っている。いつの間にかそんな風に思われていたのかと同時に、「お気に入り」という特別視する言葉に少し喜びを感じていた。
桜の花びらを払いながら帰る道には、先輩もいた。家が多少近いからだ。
そもそもこの道で帰る人はあまりいない。同じ時間に一緒に帰るのは、先輩と俺しかいない。この空間が一生続けばいいのにと、しみじみ思う。笑う顔は俺にとって太陽のように眩しかった。
家に帰ってからもどうしても忘れられない。彼女の匂いを思い出しては、1人枕に顔を埋める。彼女が家に来るという妄想を繰り広げながらも、俺は少しの眠りについた。
ふと俺は母に起こされた。お使いの頼み事だ。
正直面倒くさかったが、この中学校に行かせてくれた恩がある為、暫くは従うしかない。着替えて太陽が落ちかけている外に走った。
そんなことをしていると、なんと先輩もお使いで店に来ていた。
このまま一緒に買い物をする事になった。正直俺の心臓は破裂しそうだ。
紅潮しそうな顔を背け、世話話を続けた。
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