終焉と開闢のモードレッド
ふわポコ太郎
世界は一つ、故に分け合う事は叶わない
地表から縦に百九十センチ以上離れた場所で、双方の手が届く距離……間合いで二つの視線はぶつかる。
暴力が全て!とまでは言わないが重要なファクターを占める乱世という事もあり……男は二人引き締まった身体をしていた。
あぁコイツを早くぶん殴って、思いっきり頭を踏んで屈服させてぇ〜!!!と口から出さないのは育ちの良さか、はたまたモードレッド達の器量がデカイからか。
世界だの、夢だの、ガチャガチャ下らない建前を言った事等……宿敵と向かい合う二人は純真さ故に忘れていた。
金髪碧眼が親指を下にヘラヘラ笑うは挑発。
茶髪重瞳が中指を立てヘラヘラ笑うは煽り。
モードレッド達がデカくなっただけの子供である事を……妻達は改めて理解する。
「よくもまぁここまで世界の頂点の前にノコノコ来れたね。年長者に全てを譲ろうという度量も無いのか?まぁバケモノに人の理屈は通じぬか。」
「えっ?二年早く産まれた以外に僕より上なモノが無いハリボテに、何で世界の中心たる僕が道を譲らないといけないんだい?ここは異世界か何か?全くもって訳が分からないよ。」
心の中では憎悪が煮えたぎっているにも関わら
ず、男達は馬鹿にする様に……心からの喜びが溢れる故に笑う。
これまでの全て……そんな言葉で済ます事など許せない程の、憎悪嫉妬怒り……いや純粋に男としてのコンプレックスに決着をつける。
そんな機会をもらって喜ばない男は、雄はいないであろう?
決着の時を、タイミングを伺う顔は……やはりどこまでも笑顔。
目は一切笑っていないのは、双方の真剣さ故に当然。
その表情に、自分に向けられないソレに、女の身故に嫉妬する存在が二人いた。
獣欲すら上回る感情を、愛する雄に見せつけられているのだから。
「世界征服を賭けて喧嘩するなんて……もう二人ともいい年なんですけどね。男の人は頭が成長しないのでしょうか?」
「成長したと思い込む馬鹿よりは絶対にマシだよ。そもそも征服王が猛々しい人だから君も好きになったんでしょ?世界統一のために……なんてボクの夫は毛穴の程も考えてないんだろうね。」
性別の壁に嫉妬する二つの影には、頭一つ分の高低差。
背の低い方は、長く赤い髪を風に流し……堂々と胸の前で両腕を組む。
産まれの高貴さを感じさせるのは所作と器量。
(こ、このチビ女煽りやがって!胸がデカイからって見せつけやがって、モードレッド様を誘惑する事は許さん!!!)
そう思うのは王に選ばれてからも、メイド服を着続けた異常者たる背の高い方。
身長二十センチ違う目線が見据える先で、二匹の雄が世界放映前という事もあり……剥き出しの憎悪。
それを誇らしく思うのは、優秀な存在に選ばれた雌だからであろう。
だからこそ、自分以外に向けられる配偶者の、真摯な視線を許せなかった。
「まぁやる前から勝つのがモードレッド様なのは決まってますけどね。」
「そうだね。圧倒的に差がありすぎてモードレッドの勝利は確定事項だね。やるだけ無駄だよね。結果はもう分かっているんだから」
これから始まる生の暴力を、女の身で二人は見続けなければならない。
旦那にソレを望まれたから?強いられたから?
そんな疑問は強者を愛し、強者に愛された妻の口からは絶対に出ないであろう。
決着を待つのはモードレッド達だけでなく、当然配下や民草達も……それはもうグレテンの王都にてお祭り騒ぎ。
旧文明が飛行機と呼び、先の
ラムカンの丘で行われる決戦……世界の行く末を決める喧嘩までの残り時間を正しく刻む。
夜空の下では、とんでも無く愚かな意地の張り合いを楽しみにするは両国の要人。
世界を取り合う建前を信じる無能もチラホラ。
酒を飲む者、武勇伝を語る者と、本来殴り合い殺し合いを起こさなければならない連中が作り出すは異常な光景。
非日常の中で治世とは全く意味異なる執事が二人。
「こんなバカデカくて硬い物体が虫や鳥みたいに空を飛んだね。……テオ殿は嘘つきで傲慢なグレテン人らしい事を言うな。」
ただ
事実眼鏡をかけた強面の男は同業者に対して、徹底した煽りと侮辱を行う。
それに対して、名前を呼ばれた男は嘆く。
本音を言えばこの仕事にあまり興味無いこともあり……ガチ勢に返されるのはため息。
「イビルディア帝国が誇る執事様じゃ理解できないか?ウチの国家反逆者とフェニックスが持っている得体の知れない力、それで間違いなくコイツは飛んでいたよ。」
あぁ、もしもこれを自在に動かせれば世界全土に翻る旗は一つだけになるであろうにと……そんな当たり前を理解している故。
(コイツ、凄い訛ってるな?一瞬造語症か共通言語の敗北を疑ったよ。まぁ、執事を務める者にそんな事はありえないか……)
コンタクトにすればいいのに。と相手のコンプレックスを理解していないが故の言葉を付け足すテオの発言に対し、興味の無い振りをしながら一生分の報酬である眼鏡をふく強面の手が止まる。
それは思考しているからでは無く、ただモニターが映し出す決戦の場から漏れ出たナニかによって。
「聖帝を獣の領域まで引きずり落とすは、我らが征服王モードレッドという訳か、全く普通にやったら……人の領分であのお方に勝てる訳無いもんな。」
忠義あふれる自分達の一族に対する手酷い裏切りのせいか、テオの口から漏れでるのは事実確認。
本来ラムカンの丘に立っている女は……メイド服を着ている下賤のアバズレでは無く、彼の姉であるべきなのだから。
そんな事を情報として理解しても、返す言葉が無いのは……いつの世も同じ。
出し抜いた方が、運命を掴んだほうが優れているのだ。
「本当にアイツの生涯は、あの日まで何の苦労も挫折も無いつまらないモノだったと思うよ。」
執事達が持つタブレットに、魔力と術式を持って映し出されるのは異形。
彼は先天的な障害すらも、叩き潰す程に高く優れた適正を持っていた。
もはや比べるのも烏滸がましい程に傑物。
無効化術式きよる妨害が一切無いこともあり、その姿は人の営みが行われる全ての場所に届けられ、同じ反応を示させる。
それ即ち世界の中心たる聖帝が持つイカれた天倫によって、意思弱き者達の視線は近くにある映像端末に釘付け。
「おっ!初見の連中は一発でもってかれたな。懐かしい即位式典を思い出すな。」
この場にいる大半の人間が、ラムカンの丘で行われる決戦に備える中、巨大な影が酒樽を片手に息子の敵を探す。
「やっと見つけた。ったく同性愛者の様に護衛を側に置きおって……うん?どういう扱いなんだ?」
そんな中この場にいてはなら無い程の……戦士とは思えない小さな影が二つ。
見つけた。と広角を上げるのも無理は無く、近づく巨漢の足は当然加速。
それはもう老いたとはいえ圧倒的に人より優れている故。
「久しいな暴魔よ。互いの主が起こす決戦を盛り上げるためにも、儂とタイマンをヤル気はないか?当然無論断らんよな?鳳凰よそんな目でみるな!」
体格に優れた男に対して、東出身の人間は猛禽の様な目を向ける。
それが主には嬉しいのであろう。
二つ名を呼ばれた小男がヘラヘラ笑いながら流すは、グレテン王国が誇る元帥にして、超人の二つ名を冠するハイド・ネルソンが放つ偽りの殺気。
本来なら反応、もしくは呼応しなければならない両陣営の大半は、聖帝が放つナニかに魅了されて動く事ができない。
そんな異常事態にも関わらず、己の右腕以上に信頼を置く食客にたいして、暴魔と二つ名で呼ばれた小男は、戦いにはならんからこの場を外せ。と一言。
「文字通りの片手落ち状態で、貴殿に勝てると思う程小生は思い上がっておらぬよ。ただ恨まれる理由は分かる故に、この戦いが終わってからで良いか?弟子の晴れ舞台だ。この目に焼き付けたい。」
事実蓋世不抜の武人は、先の厄災で右腕を失っている。
「フン!全く儂以外に不覚を取りおって、まぁ前の戦いはキャリアも経歴も糞も無い未踏の相手だったしな。……ヤルぞ。」
はなからの目的を望むハイドに、ありがたくと。成長障害を患う小男の残った左手が持つグラスが傾けられる。
お返しと言わんばかりに注がれるは大量のアルコール。
男らしさを勘違いした時代の人間は、当然と言わんばかりに一気飲みを繰り返し空樽を作り出す。
で、この喧嘩どっちが勝つと思う。という分かりきった疑問と泡を飛ばすは超人の口。
他人を頼れない一対一の喧嘩であろうと間違いなくモードレッド。と即答するは暴魔。
「ガハハすまない、そうだなこっちも言いたい事は一つ。こうなった時点で徹底な遺伝子調整を施されたモードレッド王が勝つ以外の選択肢は無いからな。」
嬉しそうに手を叩く巨影に対して、遺伝子という話ならアレも負けてないんだよな。と笑い返す小男。
その時映像端末が映し出す景色に、大きな動きがあった。
それ即ち世界が動くという事実。
「おーい!テオ。じいちゃんのコレ光らないんだけど何で?テオ!テオ!!何が起こっているん
だ?……このモノは本当に人なのか?」
出力を上げたラスボスによって起こる超常現象は、もはや意思の強い者すら飲み込み始めた。
「化生が……行きなさい。お主が選んだ以上その道は絶対に正しいのだから。」
予想以上の成長を遂げた異形の才は、付き合いの長い者達すら侵食し、世界全土を熱狂へと誘っていく。
モードレッドの妻が魔術と機器を用いて、映し出すは決戦の場たるラムカンの丘。
かの丘はグレテンが誇る聖王モードレッドが暴君である父を討った場所。
そこで宿敵とその先祖と思われていた存在に対して、不思議な縁を感じながら空を見上げるのは重瞳の持ち主。
「ハワワ、私は何をすればいいんでしょうか?手伝えることはありますか?何もしないのは落ち着かないです。ハワワ時が遅くなる〜辛い耐えられない」
育ちの差、産まれの差、もはや努力で埋まらない何かに対して、舌打ちが一つ。
「うん。それならボクの邪魔をしないために何もしないでいてね。自分がたてた計画をアドリブでメチャクチャにする男が旦那だからどんどん器が小さくなっちゃたよ。だから余計な事をする人間は吐き気するレベルで嫌いだから」
デカイのは胸だけで、器は見た目通りちっちゃいんですね。の返しは夫の前哨戦と言わんばかりに喧嘩を売っている発言だが、殴り合いでの決着等……女性は望まない!
世界を征服か、統一かどちらにせよ……己の隣に立つ夫が、愛する妻に変わり暴力をもって格付けを終わらせるのだから。
そんな女の気など知らない男達は、何故か盃を傾ける。
強い雄が己の思想に従うのは当然。
「ここはとてもいい場所だね。気に入ったよ。世界統一の暁に僕の別荘をここに建ててもいいかな?いや建てる!世界の中心たる僕が今決めた。」
裂けた口から出る美声は不気味な程人の耳に溶けていく。
醜いバケモノを聖王の墓標に近づけた時点で、僕は負けているのかもな。と嘆くは
「よし、そうしよう。征服王だのペンドラゴンだのといった……とても似つかわしくない二つ名や称号を冠するハリボテ。それをボコボコにして格付けを済ませた後に盛大なモノを建てよう。」
両の手で合計十二本ある指を嬉しそうに動かすは隙だらけに見える聖帝。
そのガタイからは圧倒的な暴と武を感じさせる。
無論、盃に注がれたモノを飲まずに全てこぼす。という挑発行為をかましながら。
異形の宿敵を前に、遺伝子調整をしてまでも王になるために作られたモードレッドは呆れた顔で笑う。
何のために、今まで耐え忍生きたんだ。と言わんばかりに、歯を食いしばり克己。
投げられた盃を、あぶねえ。と言いながら余裕で避けるのは、聖帝の身体能力が優れている証明。
「この世は舞台だ。主役である僕が活躍するのを皆が望んでい……何面白い事でもしてくれるの?どうせ引き立て役なんだから無理しなくていいよ。しっかりと目立たせてやるからさ。」
君を見ていると本当にイライラするな。と呟き影を帯びた表情のモードレッドは、コンプレックスの元凶に対して機先を制するために立ち上がる。
それはもう我慢の限界であった。
乱世の星々と比べればデカイと評すべき月は、巨大な恒星の光を帯びて輝きを増す。
矮小な存在にとって見れば、覇権を争うは二人は同格に……乱世でも未来でも評価されるわけ無いだろうが!!!
「全ての人間が僕の下僕だ。世界の頂点たる僕だけが顎で使う権利を持っている。」
初めて会った時と変わらない、傲慢不遜なハリボテの発言に対してあの日とは異なる、違うね。という不気味な程に綺麗な音色。
巨大な恒星にとって、月の輝き等……名前の無い星々と同じ。
だからこそただ純粋に……数多の他人に好かれ、忠誠を尽くされるという、人の領域においてもっとも必要な天倫を見せつける。
音に追従するは異形が持つ突き抜けた才能の発露、即ち太陽の笑みが返された。
それはもう世界の中心が、どす黒い事を隠そうともしない清々しいまでの大笑いだった。
だがその熱意が世界を溶かし、心を侵食していく様は圧倒的な天賦。
他の誰にもできないであろう、歴史にそう刻まれたモノにだけ許される特権。
それは目の前に立つ宿敵との語る必要も無き差。
彼にはコンプレックスがある。
だからこそ獣の領域に、モードレッドは宿敵を引きずり込んだ。
(あの日言えなかった事は口にした。屈辱を完全にみそぎたければ勝つしかない。そうすれば全てが終わる。あぁ本当にムカつくな。)
名前を忘れる事も呼びたくも無い存在に対して、即位式典での借りを返した。という事実にモードレッドは笑い、まだ自分の本懐を為してないという事実に口元を引き締めた。
──この日二人は世界全土をかけて喧嘩をする。 後の世に伝わるは終焉の儀。
これに対して歴史家が評するは、イカれた時代の総決算。
二人の男が殴り合って世界の覇権を決めるのだから。──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます