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夕焼けが眼を焼いて、人々はその眩しさの中で忙しく立ち働いていた。例え敵機が『雷の壁』を突破して落ちてきていたとしても、殆どの街の人々からすればそんなことはどうでも良かったのだ。
蕎麦屋を営んでいる雁鉄(がんてつ)さんが、珍しく軒先に出てきて、煙の上がっている裏山の方を眉間に皺を寄せて見つめていた。
僕はその様子を見て声を掛けた。何となく、そうしないといけない気がしたから。
「雁鉄さん。気になるんですか、裏山」
雁鉄さんは僕の姿を認めると、仕方なさそうに溜息をついて頭を掻いた後、こう言った。「ああ、そうだよ。おちおち仕事なんてしてられねえよ。あいつら、何考えてやがる」
「町内会の人たちですか」
町内会が動くのは、普段から血の気の多い自警的性質の強い人々と知っていたから、僕の中では自然な連想だったのだが、雁鉄さんは首を振って言った。
「いや、町内会の奴らもそうだが、軍の奴らだ。放っておけってお達しが出たんだと。何でも他に重要な要件が出てきたらしくてな……お前は見に行かなくていいのか? あいつらみたいに」
僕は少しばかり沈黙の力を使いながら、言った。「僕はまだ死にたくないので」
雁鉄さんは苦笑いのようなものを口元に浮かべながら言うのだった。
「死んでるよ、少なくとも敵機の操縦士はな。だから放っておいていいって話なのかもしれないが、俺にはどうもそれだけとは思えねえ。今まではどんな情報であれ、敵機に関するものなら何でも報告しろってうるさかったくらいなのに……まあ、これ以上考えてもしようがねえやな。俺は仕事に戻るから、あのガキ大将達が戻ってきたら、俺にも話を聞かせてくれや。お前の口からの方が聞き取りやすいだろうしな。いいか」
「僕も聞いた話になりますが、それでもよければ」
「オーケー。じゃあま、とりあえず仕事に戻りますかね。じゃあな。お前も気をつけてな」
何にだろう、と思いながら僕は振り返り、裏山の煙が出ていた辺りを見ようとしていると、もう煙は殆ど上がっていなくて、少し驚いた。僕は「はい、分かりました」と返事をして振り返ると、もう雁鉄さんはそこにはいなかった。
僕は図書館に向かって歩き始めていた。手に持っている文庫本を返しておかなければいけない。一日でも遅れると銃殺刑だからだ。
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