機械の国の異邦人
幽々
ある日裏山に敵機が落ちた。
1
「裏山に機械が落ちた」
という誰かの言葉で、街は一瞬、騒然となった。
裏山には、灰色の煙が淡々と上がっていて、人々は何も言わずにその様子を眺めていた。僕はその煙を見ながら、ある既視感のようなものを覚えていた。だがそのことは、誰にも話さなかった。まだ自分にも、その既視感が正体が分からなかったから。
「おい、裏山、一緒に見に行くやついるか」
俺、俺が行く、と誰かが言って、その後に他の誰かも続き、途端に裏山への細道は鈴なりの子供達で一杯になった。子供達は何故か、一人一人小さな木の枝を持って、まるでそれがあれば敵兵に襲われても大丈夫だと言わんばかりに、意気揚々の体で騒がしく歩いていった。
僕はその様子を、遠くから黙って見つめていた。そうしている様子をまた、見つめている何者かがいることを既に僕は知っている。茜だ。群青 茜(ぐんじょう あかね)。いつも人を監視するように観ていて、興味深く何かを発見した眼を浮かべては、何故か僕にいつもそのことについて報告しにくる。僕は密かに彼女のことが嫌いだった。伝えたことはないのだけど。
石垣の上から姿を現した茜は、僕の方を見ながら石垣を回り込んで、意味ありげな足取りで近づいてきた。そして唇の赤さまで分かるぐらい近づいてくると、徐に言い出すのだった。
「足人(あしと)、あなたは行かないの・裏山に」
・を付けたのは、別に間違えたわけじゃない。でも彼女の言葉が、何故か僕の中でカンマではなく、ただの・として表示されたのだ。そう聞き取れたと言ってもいい。確かに彼女はそう言っていた。カンマではなく、ただの点、『・裏山に』と。
僕は言った。他人事のような口調だった。
「僕は行かない。茜、君はもう知ってると思うけど、僕は直接接触するより、ただ観察してる方が好きなんだ。どうしたってそうなんだ。というか、君もそうだろう? 嘘つくなよ」
茜は口元を引き結んで言った。
「何よ、やな奴。じゃあ、私は行ってくるから。後で話聞かせてって頼んでも聞いてやらないから」
僕は茜に背を向けて歩き出す。茜があっかんべーをしているのが見なくても分かった。
歩いていると、草の生い茂った石垣の列から段々と人里が近づいてきたのが分かる。
街は茜色に光り輝いていた。夕焼けが街を染め上げていて、ガラスと黒煉瓦の融合した街々が呼吸するように光り輝き、僕はその輝きを見て、少し動揺していた。その理由も分からなかった。僕は黙ったまま、再び歩き出した。知らない寂しさも感じながら。
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