第15話

現場に到着。

乗ってきたイノシシから降りる。


まずは話し合いだな。

自重する気は無いけど、知ってる人は少ない方が良い。


「この能力ですけど、言いふらさないでくださいね?」

「ああ。他人の能力を言って回るようなクズじゃねぇよ」

「ビーゼルさんもお願いしますね」

「ピョンちゃ~ん」


聞いてないようだ。何より怖い。はっきり言うとキモい。


「聞いてますか? 消しますよ?」

「心配いりません。絶対に秘密にします」

「本当ですか?」

「はい。だからこの子を下さい」


お前は結婚しようと申込みに来た娘の彼氏か!

キリッとした顔しやがって!


「多分ですけど、俺の魔力が切れたら消えますよ?」

「そ、それは、本当ですか?」

「はい」

「な、なんという事だ……。この世の終わりか……」


ダメだ、この人。

放置しよう、そうしよう。


「エイさん、今日はどうしますか?」

「う~ん……もう少し奥に行くつもりだったんだがなぁ。アレがあの状態だろ?」

「そうですね」

「……そいつらはお前の言う事を聞くのか?」

「はい。自由に出来ます」

「……なら囮に使おう。あそこに見える森に向かって走らせろ。上手くいきゃ熊とかがかかるだろ」


奇しくも俺が逃げ出した時と同じ戦法か。

あの時は逃げる用だったけど、今度はおびき出すのね。


だが、それに待ったをかける人が居た。


「囮だと?! なんて非道な!!」

「いつもやってるだろうが!」

「それは狩ったウサギを使うでしょう!」


どうやらいつもは、狩ったウサギに紐を付けて放すらしい。

すると紐が絡まり、鳴き声を上げるのだとか。

それを聞くと、獣がやってくるらしい。


俺の描いたのは鳴かないので、走り回っておびき寄せる作戦なんだが。

言い合いが続いていて埒が明かない。

なので煽ってみる事にした。


「ビーゼルさん、貴方はウサギを守れないのですか?」

「守れます! 守り抜きますとも!」

「だったらおびき寄せた後、すぐに倒せば良いでしょう?

 それともウサギが狩られるまでに倒す自信が無いと?」

「やってやりますよ!!」


チョロい。




作戦を実行。

いやぁ、ビーゼルさんは早いし強かった。

狐みたいなのの姿が見えた瞬間には、走って倒しに行ってた。

瀕死の状態の狐を左手に持って、右手には描いたウサギを持って戻ってくるほど。

ウサギは怯えてたが、それは狐にではなくビーゼルさんに怯えてたと思う。


そうやって今日は、狐2匹、タヌキ2匹、熊1頭を倒したし描いた。

そして描いた動物は消えてしまった。

魔力が切れたのか、時間制限があったのかは不明。


消えた時のビーゼルさんの絶望した顔は忘れないだろう。


帰り道、トボトボと歩くビーゼルさんだったが、突然元気になった。

どうしたのだろうと思ってると、両肩を掴まれた。


「閃きました! 貴方は描いた物を出せるのですね!」

「そ、そうですけど」

「では色付きで描いたらどうなりますか?!」

「えっと、色付きで出ると思います」


そう。今まで生み出してた物は、全て白黒。濃淡は付けてたけど、白黒なのだ。


「色付き!! なんて素晴らしい!! 神よ!!」

「で、でも、色なんか持ってないので無理ですよ」

「私が買います! 買ってきます!!」


そう言って、凄いスピードで街に戻っていった。俺達を置いて。


「……エイさん?」

「ワリぃ……俺から言っとくから」

「お願いします」


……待て待て。よく考えたら現状は悪い環境じゃない。

ここに居るのはエイさん一人。俺の能力も知っている。

しかもエイさんは今俺に罪悪感を感じている。

この状況……使える?


って事で、俺の事情をある程度話して、この世界の事を色々と教えてもらう事にした。

もしエイさんがバラすようならビーゼルさんに成敗してもらおう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る