第8話

冒険者ギルドに到着すると、さっさと奥の部屋に通された。

何故だろう? 俺にそっちのケはありませんよ? 大声出しますからね?


「まぁ、座れ。俺はこの街の冒険者ギルドのマスターでチョレフという」

「ギルドマスターでしたか。自分はキョウヤといいます」


まさかのギルドマスターでした。

食われるのかと思ったよ。


しかしギルドマスターが直々に何の用だろうか?

もうボブを騙してたのがバレたのだろうか?

もしそうなら警察や兵士が来そうだけどね。


「絵が得意だそうだな?」

「あっ、はい。そうです」

「ちょっと描いてみてくれるか?」

「は、はい。え~と、何を描けば良いですか?」

「そうだな……その板には何を描く予定なんだ?」

「お客さんの似顔絵、えっと自画像ですかね」

「なら俺を描いてくれ。料金は払う」

「わかりました」


何だ、依頼だったのか。

だったらあの場で良かっただろうに。

恥ずかしいのかな? この、恥ずかしがり屋さんめ。


俺は目の前に居るマッチョを鉛筆で描く。

15分程で完成した。筋肉は描きなれて無いから、少し多く時間がかかった。


「出来ました」

「どれ……う~む、確かに上手いな。いくらだ?」

「50トルです」

「そうか。ほれ」


マッチョ……ギルドマスターは革袋からお金を取り出して渡してくれた。


「ありがとうございました。ではこれで……」

「こらこら、要件は終わってねーぞ」


これが要件では無かったらしい。

逃げられると思ったのに。


「要件は2つ。1つは冒険者ギルドに加入しないかって事だ」

「えっ? 何で自分がです? 言っておきますけど、クソ弱いですよ?」

「戦うだけが冒険者じゃねーよ」

「でも、アリレベルの弱さですよ? 加入する意味が無くないですか?」

「2つ目の要件に関係するから言ってんだ。

 2つ目は、お前に目録を作成して欲しい。これを依頼として出す。

 だから冒険者ギルドに加入しといてもらいてぇ」

「加入してなくても、依頼してくれればやりますけど」

「メリットとデメリットがあるからだ」


メリットとデメリットか。

それを聞いてから考えればいいか。


「まずお前が一般人の場合。

 依頼料はお前の言い値になる。お前は儲けたい放題だな、こっちとしては困るが。

 しかし画材等は全てそっちに用意してもらう事になる。

 街の外に描きに行く場合、護衛もそっちで用意してもらうぞ」


ふむふむ。

稼げるけど、先んじて準備費用が必要な訳だ。 


「冒険者に加入した場合。

 依頼料は一定になる。1枚描いていくらって感じだ。

 その代わり、画材等はギルド持ちになる。護衛もこちらで雇おう」


こちらは先行投資は必要無いが、大きくは儲けられないのか。


「質問しても良いですか?」

「良いぞ。何だ?」

「まず目録作成という事ですけど、何の目録ですか?」

「植物や動物、モンスターを描いてもらう。これをギルド所有の図鑑として保管したいと考えている」

「今は無いんですか?」

「あるんだがな、古すぎる。新たに発見された物は載ってねーんだ。

 それと人物も描いてもらいてぇ」

「人物?」

「指名手配犯や行方不明者の似顔絵だな」

「無いのですか?」

「あるんだがな。作るのは領主や貴族や国だ。

 だから作らずに特徴だけ伝えてくる場合もあるし、こっちまで回ってこない場合もある」


モンタージュ写真みたいな物を作れって事か。

まぁ、それくらいなら問題無いか。


「後、護衛を雇ってくれるという話ですけど、危険な所に行く事になります?」

「目録はこの街周辺の物だけで良いんだが、熊やモンスターが出るからな。その為の護衛だ。

 それに描いてる間は無防備になるだろ? 護衛が居た方が良いだろ?」


確かに。集中して描いてたら気づかない可能性が高い。



う~ん。加入せずに受ける方が儲かるけど……先行投資するお金が無いんだよなぁ。

はっきり言って、護衛を雇うどころか、画材も買えないだろう。

受けないという道もあるけど、確実に儲けられるのを見逃すのもどうかと思う。


「もうちょっと聞いて良いですか?」

「何でも聞け」

「冒険者になったとして、強制依頼とかあるんでしょうか?」

「強制依頼? 何だ、そりゃ。無理矢理依頼をやらせるのか?」

「そうですね」

「そんなもんある訳ねーだろ。逃げられりゃおしまいじゃねーか」

「逃げたら冒険者としてやっていけないとか」

「無理矢理依頼をやらせたら逃げられた、だから各支部に通達してそいつを捕まえろって?

 ここの恥晒すだけじゃねーか。

 そもそも、何で強制するような依頼があるんだよ」

「モンスターが大挙して襲っていたりとか?」

「それの対応は領主や兵士の仕事だろ。冒険者に出来る事なんかねーよ」


良かった。強制依頼は無いらしいです。


ちょっと悩んだけど、加入する事にしました。

ここまで進めといて、クソ弱だから加入は無理とか言わないよね?

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